第336回 キルヒホッフの法則(後編)

当たり前だけど、当たり前じゃない? 「キルヒホッフの法則」で何がわかる?……「数学ガールの秘密ノート」で遊んじゃえ!

数学ガール、ニュートンに挑む!

位置・速度・加速度から、ニュートンの運動方程式万有引力の法則に、力学的エネルギー保存則まで。さあ、数学ガールといっしょに物理学を始めよう!

『数学ガールの物理ノート/ニュートン力学』

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

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電圧をゼロにしてみた

ユーリは、 オームの法則や(第332回参照)、 クーロンの法則や(第333回参照)、 コンデンサの仕組みや(第334回参照)、 キルヒホッフの法則についておしゃべりしていた(第335回参照)。

ちょうど、クイズを解いたところ。

「……ところでさっきのクイズの答えは、こうだったね」

$$ \begin{align*} I &= I_1 + I_2 \\ &= (V + V')/R_1 + V/R_2 \\ \end{align*} $$

ユーリ「うん」

「この式を少し変形してみる」

$$ \begin{align*} I &= (V + V')/R_1 + V/R_2 \\ &= V/R_1 + V'/R_1 + V/R_2 \\ &= (1/R_1 + 1/R_2)V + V'/R_1 \\ \end{align*} $$

ユーリ「$V$でくくった?」

「そうだね。そしてこの式をよく見て、ユーリがさっき『邪魔だ』って言った$V'$をゼロにしてみよう。どうなる?」

ユーリ電圧をゼロにする……こーゆーこと?」

$$ I = (1/R_1 + 1/R_2)V $$

「そうそう。それで、これはちゃんと、$R_1,R_2$の並列つなぎになっているよね。だって、合成抵抗を$R$としたとき、こうなるから(第332回参照)」

$$ I = (1/R)V $$

ユーリ「?」

「クイズで出した回路で$V' = 0$にしたなら、単なる抵抗の並列つなぎになる。だとしたら《式の形》でも、ちゃんと並列つなぎの式になるはずだなあと思ったんだ。そして、ちゃんとそうなっている。だから、途中で計算ミスをしている可能性は低いな、と思ったんだよ」

$V' = 0$にしてみた

ユーリ「そんなことしていーんだ」

「だって、$V'$のように文字を使うのは、そのためだよね。値を変化させて、おもしろいことは起きないか、みたいな。 文字にいろんな値を入れてみて、どういう変化をするか、とかね」

ユーリ「ほほー。む、ちょっと待った! もしも$I = (1/R)V$で……」

「うん」

ユーリ抵抗をゼロにすることにしたら? $R = 0$にしたらどーなんの? 電流が無限大?!」

抵抗をゼロにしてみたら?

「ああ、それを考えていたのか。Rが分母にあるから、ゼロにするのはまずいね。ゼロ割になってしまう」

ユーリ「違うの、違うの。完全にゼロにしなくても、Rをものすごーく小さくするんだよー! そしたらIはものすごーく大きくなるよね?」

$$ I = V/R $$

「そうだね。たとえば、この回路でRをすごく小さくするということは、電気抵抗の大きさを小さくしているわけだから、電流が大きくなる。それは正しいよ」

ユーリ「それ、やばいよね。だって、Rはいくらでも小さくできるから、Iはいくらでも大きくなる」

「うん。それはそう。でも、現実の回路では、そうはならないし、そうはできないんだ」

ユーリ「え、なんで?」

「理由はいくつかあるよ。まず、電気抵抗Rをゼロに近付けるのには限界がある。金属の中を自由電子が移動するときには、どうしても抵抗が発生してしまう。物体を極端に冷却して《超伝導》の状態を考えればまた話は違うけれど」

ユーリ「超伝導、聞いたことある。QuizKnockのナイスガイ須貝さんが研究してる」

「そうそう」

ユーリ「抵抗はゼロにできなくても、抵抗をなくしちゃったら?」

「それは、電池をショートさせるってことだね。それはとっても危険!」

ユーリ「危険?」

「ものすごく大きな電流が流れるから、高温になってやけどしたり、発火したりすることがある」

ユーリ「あー、やっぱり電流は大きくなるんだ」

「そうだね。それはそう。でもいくらでも大きくなるわけじゃない。電池が自由電子を運ぶ働きは無限大じゃないから、電圧がキープできなくなるんだ」

ユーリ「電圧がキープできない? どーゆーこっちゃ」

「抵抗を小さくすると、流れる電流は大きくなる」

ユーリ「それはわかる」

「抵抗をとても小さくして、電流がとても大きくなると、電圧が小さくなるんだ」

ユーリ「は? そんなの、$I = V/R$から言えんの?」

「言えない。$I = V/R$というのはオームの法則だよね。電流が大きくなると電圧が小さくなるというのは、電池の性質から来るものだよ」

ユーリ「電池の性質って、電圧を作る? えーと、電位差? 起電力だっけ?」

「うん。順を追って話そう」

ユーリ「おっけー」

電池

「電池は化学的な反応を使って、プラス極とマイナス極のあいだに電位差(でんいさ)を作る」

ユーリ「うん。1.5ボルトとか」

「そうだね。乾電池の1.5ボルトというのは、プラス極とマイナス極のあいだの電位差の大きさを表している。 電流が流れていないとき、 この電位差のことを電池の起電力(きでんりょく)という」

ユーリ「お? いま、なにげに条件つけたね?」

「よく気付いたね」

ユーリ「ふふん。ユーリさまは条件を聞き逃すことはないのさっ!」

「すごいな」

ユーリ「《電流が流れていないとき》とわざわざ断ってたじゃん?」

「そう。今回の話のポイントはそこにある。電流が流れていないとき、プラス極とマイナス極のあいだ……つまり電極間の電位差を起電力という」

ユーリ「てことは、電流が流れているときは違う?」

「そうなんだ。微妙な話になるから、電極間の電位差のことを《端子電圧》(たんしでんあつ)とよぶことにしよう。 そうすると、電流が流れていないときには《端子電圧》と電池の《起電力》は等しい」

ユーリ「……」

「電流を流すと、電池の《端子電圧》は下がっていくんだ。これは電池が持っている性質。大きな電流を流せば流すほど、《端子電圧》は下がる」

ユーリ「たくさん電流を流すと、《端子電圧》……電池のプラス極とマイナス極の間の電位差が小さくなるってこと?」

「そういうこと。現実世界の電池は、無限に大きな働きができるわけじゃないんだね」

ユーリ「ふーん」

「ところで、《起電力》と《端子電圧》と分けて考えるとおもしろいことがわかる」

ユーリ「おもしろいこと?」

「そうだよ。『電流がたくさん流れると《端子電圧》が下がる』というのを、こんな仮想的な回路で説明することができるんだ」

  ↓↓↓

ユーリ「何これ。大きな電池の中に小さな電池が入ってる?」

「電池の絵の内部に描いた電池は《起電力》を表現する。起電力は電位差Eを作り出すものとする。そして、いくら大きな電流が流れてもEの値は変化しないとする」

ユーリ「んー、理想の電池みたいなもん?」

「そう考えてもいいよ。そして、小さな電池の上に抵抗を描いた。これは、仮想的に、電池の内部にあると考えた抵抗で、内部抵抗(ないぶていこう)と呼んでいる。そして《端子電圧》をVとする。Vが僕たちに見える外側の電池が作り出す電位差だね」

ユーリ「ちょっと待ってよ。話をややこしくしてる?」

「してない、してない」

ユーリ「じゃ、何やってるの?」

「『電池に電流を流すと《端子電圧》が下がる』という電池の性質をうまく説明するモデルの話をしてるんだ」

  • 電位差Eは、《起電力》を表現している。
  • 電位差Vは、《端子電圧》を表現している。

ユーリ「うーん……」

「もうちょっと話が進むと『にゃるほど』になるよ」

ユーリ「お兄ちゃんの猫語、へんだよ」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

coffee_mu_ 今週の数学ガールの秘密ノート、ユーリからQuizKnockの須貝さんの名前が出てきてびっくりした https://t.co/rnhIP3gyO3 21日前 replyretweetfavorite

Lsdu2DalePerry ふ~む、《起電力》か・・・。《端子電圧》は何となく分かる気がする(気がするだけ)。 21日前 replyretweetfavorite

fall_twtr ホイートストンブリッジ懐かしい 微妙に仲良くなれたようなわかんないようなくらいでお別れしちゃったな 22日前 replyretweetfavorite

hyuki Web連載「数学ガールの秘密ノート」を読んだ方、あなたにとっての難易度をアンケートで教えてくださいな。 https://t.co/GvO3wh6oFg 22日前 replyretweetfavorite