男どもを弄ぶ、女光源氏あらわる―『源氏物語』4

物語の神は言った、「男が中心に存在してこそ正しい物語である」と。そんな神の支配する世界に生きる内気な姫さよと、勝気な姫ごうは『源氏物語』の世界へ送り込まれ、佐与と光子として生まれ変わる。佐与の身に起きたことを知った光子は、とある行動に出るのだった。男を弄ぶ女光源氏は物語を一体、どう動かすのか。河出書房新社から今秋発売予定、雀野日名子さんの痛快エンタメ小説を、いち早くお届け。

【物語を奪還する者】


屋敷の者たちが寝静まった頃、藤原式部丞しきぶのじょうは儒学の書をめくっていた。出仕先である式部省で近々、人事考査が行われるのだ。父親が手を回したので、試験内容は既に把握している。

在原中将ありわらのちゅうじょうからは三日とおかず、女人にょにんの品定めに行こうと誘いがかかる。だが昇進するまでは応じるつもりはない。昇進すれば官位は中将より上になり、自分が先に女人とちぎりを結んでも文句を言われる筋合いはなくなる。もっとも皇女光子ひかるこ乳姉妹ちきょうだいのときは、先にねやに忍ぶのが中将で助かった。中将に手招きされて覗いてみれば、気を失ったその顔はなんとも粗末な目鼻立ち。しかも寝具のまわりは書で埋もれ、いかにも寂しく夜を過ごす女人にありそうな部屋だった。

中将から今回の一部始終を聞いた紫式部は、式部丞にも話を聞きに来た。女人のつづる仮名おんなでの書は低俗なので、式部丞は手に取らないのだが、今回の一件を題材にしたという「末摘花すえつむはなの巻」と「帚木ははきぎの巻」には目を通した。女人は男に愛されてこそ女人としての価値があり、愛される価値があるかぎり女人は男によって救済されるという、教訓話に仕上げられていた。女人に生まれるぐらいなら馬に生まれるほうがましだと、中将は大笑いしていた。馬であれば、自分にまたがる者が気に入らなければ、振り落とすことができると。

突然、ぎぎぎと格子こうしの開く音がし、風で燭台しょくだいの火が揺れる。盗賊かとおびえて振り返ると、白い衣の女人が部屋に入りこんできた。髪を高い位置で結って背中に垂らし、胸元で帯紐を結んだその姿は唐風からふうだが、白粉おしろいと紅と引眉ひきまゆをあしらった顔を見ても、どこの誰かは分からない。そもそもこの世の者なのか、幻なのか。

「お逢いしとうございました」

女人がい寄ってくる。切れ長の目に吸い込まれるようで、式部丞は身動きできない。

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かぐや姫、物語を書きかえろ!

雀野日名子
河出書房新社
2021-11-02

この連載について

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かぐや姫、物語を書きかえろ!

雀野日名子

物語の神は言った、「男が中心に存在してこそ“正しい物語”である」と。 そんな神の支配する『竹取物語』の世界に生きる内気な姫さよは、帝の后選びの場で勝気な姫ごうに出会う。自由を求め物語の神に反旗を翻した二人は、『源氏物語』から『平家...もっと読む

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