第335回 キルヒホッフの法則(前編)

当たり前だけど、当たり前じゃない? 今回の話題は「キルヒホッフの法則」……「数学ガールの秘密ノート」で遊んじゃえ!

数学ガール、ニュートンに挑む!

位置・速度・加速度から、ニュートンの運動方程式万有引力の法則に、力学的エネルギー保存則まで。さあ、数学ガールといっしょに物理学を始めよう!

『数学ガールの物理ノート/ニュートン力学』

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

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自然の法則

ユーリは、 オームの法則や(第332回参照)、 クーロンの法則や(第333回参照)、 コンデンサの仕組みについておしゃべりしていた(第334回参照)。

ユーリ「コンデンサもおもしろいね!」

「そうだね」

ユーリ「ぜんぶバシッと決まるとこがおもしろい」

「へえ……」

ユーリ「何てゆーのかなー、リクツが合ってるじゃん?」

「そうだね。《自然》ってすごいと思うよ。《法則》があるってことがすごい」

ユーリ「自然?」

「オームの法則だって、クーロンの法則だって、自然の法則だよね」

ユーリ「自然……?」

「自然っていったのは、この宇宙のことだよ。この宇宙、そしてそこに存在するものが持っている性質を調べたり、確かめたり、わかっていることを理論にしたり、生活に応用したり……それが科学だよね。 物理学も、化学も、地学も、天文学も、生物学も……とにかくそういうものはぜんぶ自然科学だ。 科学は自然とかけ離れて存在するわけじゃないよ」

ユーリ「んー……《自然》ってゆーと、《緑がいっぱいで気持ちがいい森》みたいなイメージある。エコとか」

「そういう気持ちのいい《自然》もあるけど、台風みたいな恐い《自然》もあるよね」

ユーリ「そっか。自然は人間の都合を考えないもんね」

「科学もそうだよ」

ユーリ「えっ? 科学は人間が考えたものじゃないの? 人間に役立つように」

「うん。科学は人間が考えたものだよ。人間に役立つようにね。科学は、もちろん人間を幸せにしてほしい。でもそのためにこそ、正しさを追求するときには、人間の『想い』とは関係なく考える必要があると思うな」

ユーリ「は? どゆ意味?」

「人間の『想い』とか『感情』で、正しさをねじまげてはいけないってこと。どんな理論でも、実験で検証する。実験で確かめ、論理的に矛盾がないかを調べる。 科学的な正しさを支える実験では、人間の感情が邪魔になることがありそう」

ユーリ「えー……そーかなー」

「ユーリはそうは思わないの?」

ユーリ「科学者って熱心に研究してるんじゃないの? 役に立つすごい発見をしようって」

「そうだろうけど、その熱心さが何に向かうかが問題。このあいだ読んだ本にはこんなことが書いてあったよ」

私は、どんな年齢のどんな科学者に対しても、 次の言葉以上にいい助言を与えることはできない。 すなわち、ある仮説を真であると信じる気持ちの強さは、 それが真であるか否かには何の関係もない。

ピーター・B・メダワー『若き科学者へ』(みすず書房)

ユーリ「こういう実験結果になれ! と熱心に考えても、そんなの関係ないぞっと」

「そういう話。自然は、人間の想いや熱心や感情とは関係なく動いている。だから、こういう仮説が成り立ってほしい!……と思っても、自然は知ったことではない。 人間が、熱心さのあまりに、実験結果を誤認してはまずいよね」

ユーリ「そりゃまずいけど……」

「人間の気持ちで結果を誤認したら、自然を正確に理解できない。そうするといざ科学を役立てようと思ったときに、 そこにあるのは役に立たない知識ってことになっちゃう」

ユーリ「確かに」

「人間の思惑で実験結果を動かしちゃいけない。思惑で動かさないからこそ、自然科学が役に立つんだ。そこがすごいところ」

ユーリ「誰がボールを投げても放物線を描く?」

「その通り! 人間の思惑とは関係なく、法則があるのがすごい」

ユーリ「法則……クーロンの法則とか、オームの法則とか」

「そうそう」

ユーリ「抵抗の並列つなぎと、コンデンサの直列つなぎが似てるの、おもしろいよね(第334回参照)」

「そうだね」

ユーリ「へへー……もうコツがわかっちゃったんだ」

「コツ?」

ユーリ「《共通のもの》と、《足し算になるもの》を見つければいいの」

「ああ、そうだね。《共通のもの》と《和になるもの》は、抵抗の並列つなぎでいうと……」

合成抵抗(並列つなぎ)第332回参照)

二つの抵抗器があって、並列につなぐ。

抵抗値はそれぞれ$R_1, R_2$とする。

抵抗を流れる電流をそれぞれ$I_1, I_2$とする。

抵抗に掛かる電圧はどちらも$V$である。

合成抵抗の抵抗値を$R$とする。

全体の電流を$I$とする。

このとき、 $$ I = I_1 + I_2 $$ が成り立つから、オームの法則より、 $$ V/R = V/R_1 + V/R_2 $$ が成り立つ。両辺を$V$で割って、 $$ 1/R = 1/R_1 + 1/R_2 $$ を得る。

※図は「いらすとや」さんのイラストを加工して作成しました。

ユーリ「二つの抵抗に掛かる電圧は、合成抵抗と《共通》になってるし、二つの抵抗を流れる電流を足したのが、合成抵抗の電流になってる。あとはオームの法則で一発」

「すごいな」

ユーリ「100%理解してるよん!」

「すごいすごい。じゃあね、こんなクイズはどうだろう」

クイズ

クイズ

図のような回路があります。

  • $V,V'$は電池の起電力とします(単位はボルト)。
  • $R_1,R_2$は抵抗の大きさとします(単位はオーム)。

このとき、電流$I$の大きさを求めてください(単位はアンペア)。

※注意: 実験には常に危険が伴います。 もしも電気回路を実際に作ってみようと考えるなら、 必ず指導者の監督のもとで行ってください。

ユーリ「カンタン! だって抵抗の並列つなぎだもん……違うーっ! 電池が二つあるのかーっ!」

「理科で習うよね」

ユーリ「やったよーな気もする。式を立てて計算した」

「そうそう。出てくる部品は電池と抵抗だけだから、そんなに難しくはないよ。考えるものは電圧と電流だけだし」

ユーリ「そっか……紙、ちょうだい!」

「何を計算すればいいかはわかるよね?」

ユーリ「わかる。$I$でしょ?」

「そうだね。$V,V',R_1,R_2$を使って、$I$を求める」

ユーリ「ヘィヘィ、アイを求めていきますぞっと……」

「……どう?」

ユーリ「むずい! あのね、この《片方にだけ入ってる電池》がじゃま。$V'$がすごくじゃま!」

「じゃまと言われてもね。どういうふうに考えたの?」

ユーリ「電流はすぐわかった。抵抗$R_1,R_2$に流れる電流を、$I_1,I_2$にするじゃん? そうしたら、必ず$I_1 + I_2 = I$になるはず!」

$I_1 + I_2 = I$になるはず

「それはどうして?」

ユーリ「だって、ほら、この《X地点》で合流するはずだもん」

電流は《X地点》で合流する

「そうだね」

ユーリ「$I_1,I_2$が《X地点》で合流して、$I$が出て行くんだから、$I_1 + I_2 = I$になる。そーでしょ?」

「うん。それはすごく大事! そして一般的にもいえる」

ユーリ「何が?」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

hyuki 難易度アンケートの結果が出ていました。ご回答ありがとうございます。おおむね予想と合致していました😊 https://t.co/OT0vk4gzbd 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

wed7931 キルヒホッフの法則は四叉路を持つの回路の電圧や電流を求める公式に関係するものだと思っていたが、これはやや狭い認識だということがわかった。 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

roidy_tm おお、本格的にキルヒホッフだ。ここまでくると物理というより工学に近くなってくるなw。 ……数学ガールが物理化したら今度は化学化か。 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

aramisakihime 「不変なものには名前をつける価値がある」を思い出しました。 約1ヶ月前 replyretweetfavorite