独習 教養をみがく#10】ゴリラに学ぶコミュニケーション

この連載では、週刊東洋経済に掲載された記事からcakes読者にお読みいただきたいテーマをピックアップしてお届けします。(提供元:東洋経済新報社)

※この記事の情報は、『週刊東洋経済』2020年8月3日発売当時のものです。

【人間関係】ゴリラに学ぶコミュニケーション
ネットで仲間はできない

前・京都大学総長 山極寿一

 感染症の蔓延によって人が対面する機会はぐっと減った。一方で、チャットやビデオ会議によるコミュニケーションが増えている。こうした状態は、人間関係に大きな影響を及ぼすのではないか。

 「生物とは、時間と空間を同時に扱えるものである」。これは、僕の師匠であり霊長類学の創始者である今西錦司さんの教えだ。信頼関係を構築するために重要なのは、この「時間」と「空間」の2つを相手に委ねること。顔を突き合わせ、時間をかけて話をすることで、信頼が形成されていく。

 こうしてつくられたネットワークを「人的社会資本」という。社会資本とは本来、国民が生活するうえで必要な福祉と経済を支えるインフラを指す言葉だ。僕はこれに「人が社会生活を送るうえで必要不可欠な人的ネットワーク」という意味を加えて、人的社会資本と呼んでいる。1人では解決できない困ったことが起きたとき、頼ることのできる存在のことだ。

 このことを学んだのは、野生のゴリラと一緒に生活したことがきっかけだった。ゴリラは仲間の顔が常に見える、10頭前後の群れで暮らしている。顔を見つめ合い、しぐさや表情からお互いの感情や意図を的確に読み取る。ゴリラには仲間との社会関係以外に頼る社会資本はなく、これは人間にとっても始原的なものであるといえる。人間も本来、10〜15人の集団が最もまとまりのよいサイズで、ゴリラ同様、日常的に顔を合わせることで信頼関係を形成していく。僕自身の経験をいえば、アフリカでゴリラの研究をするため一緒に森へ入った米国人、英国人の研究者の同僚は、後の人生でも研究のアドバイスをもらえる重要な社会資本だ。

ゴリラと人間の違い
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