二人の姫が出会うとき、物語は動き出す―『竹取物語』4

物語の神は言った、「男が中心に存在してこそ正しい物語である」と。そんな神の支配する『竹取物語』の世界に生きる内気な姫さよは、暗い気持ちのまま運命の妃選びの日を迎える。そんな気の重い末席で出会ったのは、あの「怠けものの姫」だった。この二人が出会うとき、物語は思わぬ方向に向かうー!河出書房新社から今秋発売予定、雀野日名子さんの痛快エンタメ小説を、いち早くお届け。

【再び、姫君その一(気弱な姫君)】


塗籠へやに座る大納言の姫君は、戸の隙間から漏れ入る月明かりを眺めていた。

ようやく明日ここから出ることができる。睨みつけてくる屏風の昇龍から逃れることができる。

けれども帝が入内じゅだいを認めてくださらなかったら、どこに行けばいいのだろう。后に選ばれない娘など養父は必要としない。を持たない女人は、この世では生きてはいけないのだ。

女房は明日のために、薄紫を基調にした十二単や、桜の香油と桜色のべにを用意した。帝が和歌で「乙女に相応ふさわしいもの」として詠んだものだという。

食事と一緒に届けられた絵巻物を、姫君は月明かりを頼りに読む。唐の言い伝えを描いたという出処の定かではない絵巻物だが、子どもの頃から繰り返し広げてきた。地上で寂しく暮らす女人が仙人に丸薬を与えられ、牛車に乗って月へと旅立つお話だ。きっと月では、女人の生みの親や友だちが待っているのだろう。

自分の生きるこの世が、実は、誰かが作った物語の世界にすぎないとしたら。

本当は自分は、誰かが作った物語のなかで生きているだけだとしたら。

姫君は月明かりへと手を伸ばす。しかし牛車ぎっしゃが現れるわけでもなく、誰かが仙人の丸薬を握らせてくれるわけでもなかった。


物語の神は、しばらく休憩することにした。

だがこのとき「物語」から目を離したことが、後々までの禍いを招くことになるとは、想像もしていなかったのである。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

かぐや姫、物語を書きかえろ!

雀野日名子
河出書房新社
2021-11-02

この連載について

初回を読む
かぐや姫、物語を書きかえろ!

雀野日名子

物語の神は言った、「男が中心に存在してこそ“正しい物語”である」と。 そんな神の支配する『竹取物語』の世界に生きる内気な姫さよは、帝の后選びの場で勝気な姫ごうに出会う。自由を求め物語の神に反旗を翻した二人は、『源氏物語』から『平家...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

PagannPoetry 今週分の更新です。今なら無料で読めます。 https://t.co/T4tQUvN5uK 約1ヶ月前 replyretweetfavorite