完璧に思えた彼氏の本性を知った時のこと

小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性や恋愛について考えるこの連載。今回は森さんが30歳の頃、年下でバツイチの彼氏と付き合っていた時のお話。彼の元妻の話を聞いているうちに、森さんは彼の本性に気づいたんだそうで......。

かつて自分が付き合っていた恋人のことを過剰に悪く言う人、あるいは過剰に自慢する人がいる。私は過剰に悪く言うタイプと付き合った経験があるのだが、今回はその時のことを書いてみようと思う。

もう随分前の話だ。私が30歳になるかならないかで、彼は20代後半、私より少しだけ年下でバツイチだった。知り合ったのは趣味に関するSNSだったと思う。何度か会ううちに向こうから交際を申し込まれたのだが、にわかには信じられなかった。なぜなら彼はお坊ちゃんで(いわゆるエスカレーター式のセレブ高出身)、仕事は接客業(カフェバーの店長だった)、頭も人当たりもよく、ほどよいルックスをしていたからだ。ちょっと背が高くて顔のいいお笑い芸人といったところだ。つまり見るからにモテ男。

そうか、私は彼にだまされているのだ。当時、あまりにも自己肯定感が低かった私は、のっけから彼にだまされている体で付き合う決意をした。小説家たるもの、身を削って取材しよう、という心意気。

しかし待てど暮らせど金銭の要求はない。

あれ?もしかして彼と私、普通に付き合ってる? と、疑い出したのは告白されてから半年後くらいだろうか。彼はやさしいし、私を大切にしてくれるし、ユーモアもあるし、申し分なかった。ただひとつ、気になる点を除いて。

彼のカミングアウト

彼がバツイチだと最初に書いた。私がそれを知ったのは、付き合う直前に彼がカミングアウトしたからだ。20代後半でバツイチは特にめずらしくはない。が、彼には子供もいたのである。これは付き合ってからカミングアウトされた。

「元嫁が1歳の子供を連れて出て行った」
と彼は言った。

私の反応は、
「そうなんだ」
のひとことだった。

詳しくは言及しなかったし、私のうかがい知れぬ過去なのだ、今さら根掘り葉掘り聞いてもしかたがない。要は彼と元妻の問題で、私には無関係である。冷たいかもしれないが、それが私の判断だった。

つまり気になる点とは、ほぼ完璧な彼氏像に思える彼と結婚しながら、なぜ元妻が出て行ったのか、だ。どうやら彼の浮気や不倫や借金やギャンブルではなさそうなのだ。元妻に別の好きな男もいなかったというし、彼は養育費もきちんと払っている。

しかし、1歳の子供を連れて出て行くには、それ相応の事情があるだろう。

気になったとはいえ、私は黙っていた。「そうなんだ」のひとことで終わりにした。 驚愕も動揺もしない(いや、態度に出さなかっただけで多少は驚愕も動揺もした)私の態度を見て、私が彼のすべてを肯定したと受け取ったのか(肯定するも何も過去だし、どうにもならんし)、その日から彼の言動が変わった。
元妻の悪口を私に吹聴するようになったのだ。

彼の本性に気づいた

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森 美樹
新潮社
2021-06-17

この連載について

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アラフィフ作家の迷走生活

森美樹

小説家の森美樹さんは、取材や趣味の場で、性のプロフェッショナルや愛への探究心が強い方からさまざまな話を聞くのだそう。森さん自身も20代の頃から性的な縁に事欠かない人生でした。アラフィフの今、自分自身の経験を交えながら、女性の性や愛を追...もっと読む

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