cakes読者のみなさま、こんにちは。
夏が旬の愛すべきたこは、とぼけたキャラクターの割に意外に獰猛という、ギャップが魅力の生き物(詳しくは前回を)。今回は揚げます。シーフード王国ポルトガルでは、たこの天ぷらは人気の料理。粉をはたいて卵をからめたソフトなフリットから、香ばしくかりっと揚げたものまでありますが、ご紹介したいのはかりっとのほう。なぜなら私の好みだから。ちなみに現地のかりっとしたたこ天は、たとえばこんな感じ。
ワイルドこの上なき眺めが最高に潔し。長いままの足が、皿の上で豪快にのたうちまわっています。生きてるところをいただく踊り食いならぬ、踊り揚げしたかのよう。これをはじめて見た時のインパクトの強さは、そのまま良き旅の思い出となっています。あー、はやくこういう小さな驚きを、いろんな旅先で味わいたいなあ。旅はまだかー。
さて、レシピでは、たこは食べやすく揚げやすいように薄切りにしました。レシピはシンプルに、粉と炭酸水さえあればよし。炭酸水の代わりにビールでもよし。そして、非常に大切なポイントですが、粉は天ぷら粉を強くすすめます。っていうか、天ぷら粉で作って欲しい。ないなら買ってきて欲しい。天ぷら粉がないならたこ揚げないぞ、ぐらいな感じで。
だってですね、天ぷら粉ってすごい粉なんですよ。大手粉メーカーの粉エリート達が知識と経験を総動員させて常に研究を続けている、天ぷらの国のプライドが詰まった商品。そしてロングセラー。たんぱく質の少ない薄力粉を選び、さらにでん粉やベーキングパウダーなどを合わせることで水と混ぜてもグルテンが出にくく揚げてもころもがもたつかないように計算され、さらに卵粉も入っているから卵を入れる必要もない。ポルトガルのスーパーの粉売り場で「Tenpura-ko」と書かれている袋を見たときは、思わずそりゃそうだよね、輸入するよね、だって便利だもんと、ひとり感慨にふけっていました。もしも天ぷら粉に手抜きのイメージや本物じゃないなどのイメージをお持ちでしたら、そのお考えはもったいないことこの上なし。天ぷら粉は、日本が誇るフードテック商品の代表のひとつだと、私は思います。
急に天ぷら粉普及大使みたいになってしまいましたが、このポルトガル天ぷらのいいところは、揚げてもしばらくかりっとが持続することや、すでに味をつけているのでそのままで食べられる点。揚げたてが最高だけど、味がついているので冷めてもいけます。最初はそのままで、あるいはレモンを絞ったり、味変を楽しみたいなら、マヨネーズにすりおろしたにんにくとチリパウダーを混ぜたものもよく合います。たこの隣に並んでいる緑色はいんげんの天ぷらで、ポルトガルでは昔からある揚げ物。農園の小魚、という料理名を持っています。魚が恋しい内陸の人が、いんげんの天ぷらを小魚に見立てたことで名がついた、と言われていますが、ポルトガルはイワシ好きの国民性ゆえ、私はその魚とはイワシなのではと思っています。
ちなみにこの連載ではたびたび触れている話ですが、日本が誇る天ぷらの起源は南蛮。鎖国前の16世紀に、南蛮と言われたポルトガルやスペインから伝わったいう説が有名です。ポルトガル語のtemperar(テンペラール・味付けする)や、カトリックで肉食を控え魚を食べる精進日Quatro temporas(クアトロテンポラシュ・四旬節)などが語源と考えられています。
では、パパッと作っていきましょう。
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「たこのポルトガル天ぷら」
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