お父さんが怖いから家に帰れない?
photo by ひのぱ on photo AC
放置子、という言葉を知ったきっかけは、近所の子の様子に違和感を抱いたことだった。
※この記事にでてくる固有名詞や状況については、プライバシーに配慮して部分的に変更しています。
むぎちゃんという3年生のその子はうちの子たちと同じ学校に通っていて、普段から公園などでよく見かけていたのだが、最近になって頻繁にうちに遊びに来るようになった。
この連載では何度も書いているがうちは近所の子たちの溜まり場になっていて、毎日のように誰かが遊びに来ている。
新しいメンバーが増えることもざらにあるので最初は気にも留めていなかった。
だが、ある日を境に違和感が募ることになる。
その日は平日で、子どもたちは学校から帰るとおやつを食べて宿題をし始めた。
そこへむぎちゃんは、同じ学年のわたるくんとさっちゃんとともに現れて、先に宿題を終えた次女と4人で遊びだした。
やがて長女も宿題を終えて仲間に加わり、あっという間に時間が経った。
5時になるとさっちゃんが、6時になるとわたるくんが帰っていった。
ところがむぎちゃんは帰らない。
「何時に帰る約束してるの?」と聞くと、「何時でもいいって言われてる」という。
そんなわけはないだろうと思いながらも、慌ただしい時間帯でもあり夕飯を作ったり洗濯物を取りこんだりしているうちに7時になってしまった。
それまで何度も催促していたのだが、むぎちゃんは一向に帰ろうとしなかった。
他の子たちと違い、むぎちゃんの両親とは面識がなく連絡先も知らなかった。
だから状況を知らせることも、何時までに帰らせればいいのかを聞くこともできない。
「そろそろ帰りや」と何度促しても動かず、腕を引っ張って帰らせるわけにもいかないので困り果てていると、むぎちゃんの持っていたキッズケータイが鳴った。
——あんたどこにいるの? お友達の家? 早く帰って来なさい。
——もっと遊びたい。7時までいいってゆうてたやん。
——いま7時やん。あんた……お父さんが怖いんやろ。
——怖い。怒られる。
——ほんならおばあちゃんち行ったらいいから。おばあちゃんに家の前まで迎えに来てもらうから、いますぐ帰って来なさい。
——……じゃあ7時半に帰る。
——わかった。絶対帰って来なさいや。
お父さんが怖いならおばあちゃんちに行きなさいという発言や、私の家の事情を全く考慮しない取り決め方に大きな違和感を抱いたが、とりあえず時間が決まったようでほっとした。
私たちがピザを焼いているあいだに、むぎちゃんは楽しそうにお喋りをしていたが7時半になるとまたケータイが鳴った。