COVID-19に私が感じた怖さ
世界中で多くの人の命を奪っているCOVID-19ですが、このウイルスに対してなぜ世界中の医療者が警鐘を鳴らしているかがいまひとつ伝わっていないように感じます。各人の視点・大切にするものは、それぞれ少しずつ違うので仕方ないこととは思うのですが、私個人としてはやはり怖さは捨てきれません。
アメリカでは2020年12月、パンデミック宣言から1年も経たずでCOVID-19による死亡者数が4年間での第二次世界大戦時の米軍の戦死者数40万人を超えました。その一ヶ月後には50万人を越えました。
こういう数字があっても「大したことの無い感染症」という意見を言う人は沢山います。正直個人的には激しい怒りを感じますが、一呼吸置いていつも考えるようにしています。そういう人達は本当の重症者の傍らに立ち、助けて欲しいという視線を受けとめたことがないからだ。単に「知らない」「その状況の想像をできる経験をもたない」のだから仕方ないのだと。
詳しいことは誤解と混乱を招くので大きく端折って分かり易く書きますが、COVID-19で呼吸が出来なくなるというのは空気中であるはずの地上で、最高のケアを貰える安全なはずの病院のベッドの上で、溺れるかの如く「酸素が身体に入らない」状態におちいるということです。
想像してみてください。急激に発熱し動けなくなってきて、気付くとベッドの上なのにあなたは溺れていくのです。病院に運んでもらえて処置をしてもらっても全く良くならないのです。意識はあるなかで呼吸だけが出来なくなる、というのは、そんなにたいした事ではないのでしょうか。
私は臨床医として働いた期間はほんの7〜8年ですが、その間お見送りした沢山の命の中で一番担当として辛く、いたたまれなかったのは呼吸、つまり肺が働かないことで死に向かう患者さん達の前に立つことでした。
どんなに医療機器や薬、輸液などの技術が飛躍的に進歩しても酸素を身体に取り込む肺そのものが壊れていくとき、それに代わって十分な酸素を体内に届けるものはありません。もちろん代替肺と言える装置もありますが、それこそ使用すると決める医療者が「これでもう何があっても大丈夫」なんて思ってやるものではありません。万が一、それで稼いだ時間の中でご本人の身体が頑張ってくれたら・・・そういう、ぎりぎりの選択なのです。
何をしてもどんどん状態が悪くなる患者さんを目の前にしてあなたなら何を感じるでしょう。誰がなにをやっても効果がみられない、それどころか本人は言葉も発せない状態で、でもそのご本人は苦しい、と訴えている。そしてあなただけが何とかしなければいけない立場だったとしたら。
そういう人を目の前にしても、新型コロナなんて風邪みたいなものだ、亡くなる人はもう寿命だったんだなんて、私は絶対言えません。