3時限目】世の中にない 「ピザ屋」 を作る / 猿丸浩基先生

マンハッタンを舞台にした映画のワンカットのように、カッコよくて、オシャレで、フォトジェニックな場所として、10代20代でいつも賑わっているニューヨークスタイルのピザ屋「PIZZA SLICE(ピザスライス )」ーーこの店を28歳で立ち上げた猿丸浩基(さるまる・ひろき)さんは、10代の君たちこそが新しい価値観を作ると熱く語ります。「ハイスクールショーバイ!」3時限目は、これからの時代を生きる新世代のための、商売論。僕らはこれから、なんのために働き、なんのために稼ぐのか?

※この記事は、去る2019年の夏に開催されたイベントの「実況中継」です。記載内容は全て開催当時のものになります。

このピザ、さっきうちの店で焼いたばかりの焼き立てなんだけど、どう? めっちゃ、うまいやろ? 嬉しいなあ。これから授業を始めたいと思うけど、食べながらでかまわないよ。
ピザが好きすぎて、「PIZZA SLICE」というピザ屋を作ってしまった、猿丸浩基といいます。堅苦しくならないで、近所のにいちゃんが話しているのを聞いているくらいの感じで、聞いてください。

でもさ、こういうニューヨークスタイルのピザって、君たち食べたことある?

……ないよな。 まだ一般的にもめずらしい感じで、お店では大きなピザ1枚を8等分した「1スライス」でだいたい500円、いちばん安いものは390円で出しているんだけど、ニューヨークだとワンブロックに一軒はこうしたピザ屋があるくらい、ニューヨーカーの生活には欠かせない食べ物になっています。アメリカの各地に行っても、ショッピングモールとかには必ずといっていいほどあるかな。

でも、僕が6年前に「PIZZA SLICE」を代官山にオープンさせるまで、日本にこういったスタイルのピザ屋さんはありませんでした

じゃあ、なぜ僕は、わざわざスライス売りのピザ屋なんてつくろうと思ったのか—今日はそんなことを話しながら、君たちに3つのテーマでメッセージを送りたいと思っています。

少し話が長くなるかもしれないけどさ、高校生の君たちがこれから生きていくうえで、ちょっとしたヒントにでもなれば、僕も嬉しいです。


「選ぶ」ものがないなら自分で「作る」しかない

まず、最初に伝えたいテーマは、「選ぶのではなく作る」ということ。

今はまだ、たとえば働くといったら、どっかの会社に就職する……つまり、すでにある選択肢の中から「選ぶ」ことが多いよね。友達と遊びに行くのでも、どこのお店行こうかとか、流行ってるからあれやってみようとか。タピオカ食おう、とかさ。

でも、みんなの時代、これからの時代は、「選ぶ」だけじゃなく、自分が望むものを「作る」という感覚も、ちょっとでもいいから持っていてほしいなと僕は感じています。

もともと俺な、君らの年代の頃、学校なんかよりストリートが大好きで、サボってばっかいた。いわゆる非行少年ってやつ。今日集まってくれたみんなは真面目で、賢い子たちばかりだと思うんだけど、僕は高校行っても、3年間で書いた全教科のノート数3枚くらい(笑)。ぜんぶ白紙。書いてへんし、ずっと寝てたし、先生の顔見ないときのほうが多かった。

じゃあ学校行かずに何やってたかっていうと、中学の頃から街で仲間たちと死ぬほど遊んでた。もうほんと、それこそ寝ずにな。三宮の阪急西口にあるマクドナルドの階段に毎日たむろして、誰かが持ってきたサイコロの各面に「難波」とか「奈良」とか「広島」とか適当な地名書いてな、出た場所に今からみんなで行こうぜとか、自分らで遊び作って無茶苦茶やってた。「東京」って書いた奴がいて、それが出たときは超ヤベーってなったけど、仲間とみんなで三宮から東京行ったしな。2週間も、家帰れなかったけど(笑)。

それで、なんか行ったことのない場所に行くのがだんだん面白くなってきて、14歳のときに始めたのが、ヒッチハイク。学校行ってないぶん、勉強してる奴らには絶対経験できないことやってやろうって。知らない土地の知らない大人と喋ったり、はじめて野宿してみたり、それまでの日常では見たことのない景色を見るのがほんとに楽しくて。ひとりで日本中をまわってみたんだけど、気づいたらのめり込んで、ハワイまで渡ってた(笑)。バックパックで海外も行ってみたくなっちゃって。

もちろん親には大反対されたけど、街で悪いことするよりマシやろって、無理やり説得して、ちゃっかり渡航費も出してもらってさ。

いやでも、はじめての海外はほんとうに刺激的だったな。誰にも頼れないし、ルールもまったく違うし、言葉も通じない。たぶん今もだと思うけど、ハワイは未成年がひとりでホテルに泊まることが法律で禁止されてるから、現地の旅行会社の人に保護者になってもらって、ようやくベッドで寝ることができたり。

1週間、言葉も通じない場所にひとりで行って、買い物も、食事も、移動も、ぜんぶひとりでやった。当時、中2の自分が感じた刺激は、計り知れなかったと思う。もう、全身の感度がビンビンになっちゃう感じ?

だからかもしれへんけど、ハワイで人生を変える出会いがありました。メシを探しに入ったショッピングモールで、ニューヨークスタイルのピザ屋を見つけたんです。

俺、もともとめっちゃピザが好きで、E.T.とかのハリウッド映画であっちの子供たちがピザをデリバリーしてみんなで食ってるの、かっこいいなあってずっと憧れてた。小学生のとき真似して、ひとりでドミノ・ピザを注文して、ぜんぜん食い切れなかったり(笑)。

そんなんだから、スライス単位で売っていて、持ち帰れるし、ひとりでもいろんな味を楽しめるスタイルに衝撃を受けた。これ、めっちゃいい! 日本にあれば仲間と絶対行く、絶対流行るやん!! って。まだビジネスどころか社会のことも何も知らないのに、直感的にそう感じたのを、今でもよく覚えています。

そしてその夜、ずっとつけている「夢ノート」に書いたんだよね。スライス売りのピザ屋をやりたい、って。


ヒゲ禁止?なら、ニューヨーク行くわ

じゃあ、帰国してすぐにピザ屋始めたのかっていえば、もちろんそんなことなくて。まだ中学生だからな。ピザ屋の夢のことも忘れて、ヒップホップやったりスケボーやったり、海辺の伝説のbarでバイトしたり、俳優の真似事してみたり、中学高校卒業してもずっと遊びまくってたんだけど、25歳のときに転機が訪れた。当時の大好きだった彼女から、怒られちゃったんだよね。「なにもかも中途半端で、ほんっと、ダサい!」って。

男にとって、これはほんまグサっとくる。でも本当にその通りで、楽しいからいろんなもんに手出してたんだけど、何一つモノにはしてなくて。

よし、わかった。俺やるぜ、やってやるぜって。

そのときに見返したのが、学生時代にずっと書いてた夢ノートだった。そしたらど真ん中に、スライス売りのピザ屋をやりたい! って書いてあって、ようやくピザのこと思い出したんです(笑)。

ハワイでの衝撃の出会いから10年も経ってたけど、いま探しても日本にはあいかわらず同じようなお店は存在していない。これ、ライバルもいないし、今でもビジネスとしていけるんちゃうかな。ストリートカルチャーと同じで、遊ぶ場所がないなら、自分でゼロから作ればいい。スケーターは街の階段や手すりを遊び場に変えてしまったし、お金がなくてもサイコロ一つあればいくらでも仲間と楽しむことはできる。それと同じやね。

とはいえ、俺はピザ屋どころか、飲食の仕事すらまったくやったことがなかった。だからまずはそこらへんのピザ屋で働いてみようと思ったんだけど、働きたいと思えるようなカッコいい店が、どんなに探しても1軒もない。

仕方ないから、宅配ピザの面接を受けたんです。そしたら……ドミノ・ピザの面接が今でもトラウマなんやけど、「うち、ヒゲ禁止だから」って即答で断られて。もうね、すっごく、腹が立った(笑)。「人を見た目で判断すんなや!」って。

ヒゲ剃るのも絶対嫌だし、「こんなんじゃ、日本で働く場所を探してもないわ!」って思って、ヒッチハイクのときと同じ勢いでニューヨーク行って、あっちのピザ屋で短期間、集中的に働きました。

でも、ニューヨークに行って生で見たピザカルチャーは、最高にカッコよくて、値段も安くて、お金のないストリートの若者の胃袋を満たしてて。それを目のあたりにしたとき、「こんなのあったらいいなあ」から「俺が作らないとダメだ」って、自分の中で確信へと変わった瞬間があったんだよね。 東京にも、こっちと同じようにストリートカルチャーに根づいたピザの文化を持って帰るべきだ! そして、ピザをもっと若者に身近な食べ物にすべきだ!! って。

そんときの写真が、こんな感じ。いや、俺若いし、細いな(笑)。

そうして向こうから帰ってきて、28歳のときに代官山のはずれにオープンさせたのが、みんながいま食べてる「PIZZA SLICE」なんです。

みんなが食べたのは、ニューヨークでも定番の味、「ペパロニ」ね。うまかったやろ。

ちょっと話が長くなちゃったけど、俺、話うまいほうじゃないから、許してな。でもだんだん俺も緊張がとけてきて、いい感じになってきたかな(笑)。


3人が感動したら作っちゃえばいい

これは俺の実感なんだけど、世界でも日本の地方でもどっかに行ってみて、これいいなとか、これすごく感動した、めっちゃ美味しかったとか感じて、でも地元に帰ってきたらどこにもないと思うものは、作っちゃえばいい

でもそうすると意外に、自分が感動したことと同じように感動してくれる人って、たぶん東京とか大都市だったら結構な割合でいると思う。このスライスピザも、絶対そうだと思うんだよね。

僕も昨日は、君たちのうしろでガトーショコラ屋さんの授業を聞いてたんだけど、僕たちはいま、代官山、表参道、六本木の3店舗で、ぶっちゃけ年商3億円ぐらい。ちょうど一緒。でも客単価は3000円じゃなくて、ピザ500円。ドリンク頼んで1人1000円使ってくれたとしても、単純に割ると1年間で30万人近い人が来てくれてる。これって、本当にすごいことだよね。

でも今まで誰も、日本でスライス売りのピザ屋はやっていなかった。こういうものが、世の中にはすごくいっぱい「落ちてる」と思うな。大人のひとが気づかない、いや気づけないことが、たくさんあるんだと思う。

お店を始める前な、いろいろな先輩経営者たちが「スライス売りのピザ屋がないのは、需要がないからだ。絶対にすぐ潰れるからやめたほうがいい」と諭してきたんだけど、「俺はそういうピザ屋、欲しいけどな。『需要ない』ってあんたの感覚やん。それ、俺とはちゃうから」って、口に出さずに思ってた(笑)。

さっきも言ったように俺、学校以外で死ぬほど遊んだんだけど、そういうときに経験した、友達同士であれめっちゃ楽しかったとか、これめっちゃカッコいいなっていうのは、そんとき3人が感動してたら、たった3人なんだけど、実は世の中の結構な人数が感動する「コンテンツ」なんだと思う。

だからとにかくみんなにはな、勉強とか大人の言うことももちろん大事だけど、でも、大人ですら気づけないことを、同年代と一緒に遊んで見つけるっていうことをしてほしい。君たちの感覚って、俺にももう真似できへんから。

俺は、本当にそれがいちばん大事やと思ってて、でも死に物狂いで探すんじゃなくて、自然と見つかるからさ。友達と全力で遊んでたら。べつにアホなことしてもいいし、いきなり海外行ってもいいし、なんかいろいろ体験して、見つけてもらいたいです。今回の商売体験なんて、まさしく最高の遊びだと思うよ。リスクないんだし。

この前、アメリカ人の友達と話してたら、びっくりしちゃって。そいつはハーバード大学出てグーグルで働いてたんだけど、アメリカだとグーグルとかで働いてる奴は、ちょっとバカにされるんだって。

だって、グーグルよ? 日本だったら「すげ—!」みたいになるやん。 でもアメリカじゃ、普通に就職してる奴の地位は低いって言ってて。学歴とか知名度じゃなくて、起業してるかしてないか、何か新しい事業や雇用をゼロから作ったかどうかってことで、ステータスが分かれるんだって。

もちろんこれは、ハーバードとかエリートの話だけどな。でも、日本も早くそうなってほしいし、「ないなら作ろう」っていうマインドを持って生きていく世代になってほしいというのが、俺のみんなに対する希望と期待です。


判断基準は、カッコいいかどうか。以上

さあ、やっと2つ目のテーマ。時間内に3つ目までぜんぶ話し終えるかな?(笑)

次のテーマは「儲かるかどうか、ではなく、カッコいいかどうか」ってことだけど、もうほんと、これがすべてやね。

俺、けっこうビジネスやってるけど、正直言って金儲けとか、あんま考えてないです。これやったら商売として最低限成り立つかなって程度で、そろばん勘定は大の苦手。

もちろん、ビジネスは結果がすべてだって考え方もあるかと思うんだけど、おもしろくないでしょ、なんかそういうの。儲かるからやるんだったら、儲からないならやらないの?って。ぜんぜん、おもろない。

俺が大事にしてるのは、自分が欲しいか欲しくないか。カッコいいかカッコよくないか。本当に、それだけです。

みんなもこれからビジネスやるうえで、カネ持ってる人や社会的地位の高い人とたくさん出会うと思います。でもな、その人が尊敬できる人間かどうか、カッコいい人間かどうかっていうのは、また別やねん。カネ持っててもダサい奴いっぱいおるし、うさんくさいヤツもいる。なんかぜんぜんリスペクトできない、みたいな。

俺は、成功者と会って、ビジネスとしてすごいなとは思うんだけど、人としてカッコいいことやってるかどうかって俺のなかではかなり重要で、その感覚をめっちゃ大事にしています。カッコわるいヤツとはあんま話したくないし、仕事もしたくない。

君たちが商売するようになったとき、これ絶対儲かるわーってものがあっても、べつにそんな好きじゃないものだったら、やんないほうがいい。続かへんと思うし、まわりにバレるよな。5年とか10年やってたら。こいつ中身ないな、薄っぺら、みたいな。無理して嘘をついても、自分が苦しくなるだけで。

そんなことにならないように、自分だけのカッコ良さの基準ってものを、10代のときに一生懸命探してほしいなって、思ってます。

「カッコいい」って、ちょっと曖昧な言葉かもしれないけどさ、音楽でもファッションでも、アートでも映画でも、お笑いでも、なんでもいいんだよね。他の人がどう言おうが自分は「これがカッコいい!」って思えるものが一つでも見つかれば、それが自分の価値判断の基準になる。

君たちの中にラッパーの子がいたと思うけど、あ……そこの金髪ね。俺も学生のとき、毎日ヒップホップ聞いて、クラブイベントやって、そういうストリートカルチャーにどっぷりつかってたから、大人になっても何かを選択するとき、やっぱり「ストリート」のフィルターを通して物事を見ちゃうよね。

たとえば、なんやろうな。洋服詳しい子、おる? ニューヨーク発のストリートファッションブランドで、「Supreme(シュプリーム)」ってあるでしょ? 世界中で大人気のカリスマブランドだけど、最初は、ものすごく貧乏な20代の男の子たちがスケボーで遊んでるときに仲間内でTシャツを作ったのが始まり。ロゴもさ、有名デザイナーのパクリなの。

でも、それを着てスケボーしていたら、まわりの奴らが「そのTシャツカッコいいじゃん。俺にもちょうだい!」ってなって、今じゃルイ・ヴィトンとコラボするほどの人気で、世界でありえないくらい稼いでる

結局さ、俺らはこれがカッコいいと思うって、みんながストリートで自信持って着てたのが、すべてなんだよね。さっき言った、3人が感動すれば作っちゃえばいいって話とおんなじでさ、1人が心の底からカッコいいと思えるものは、みんなに伝わる可能性がある

PIZZA SLICEが今こうしてちょっとずつ広がってってるのも、ただ俺らがカッコいいと心底思えるお店を作ってるからなんだと思う。ここを中途半端にしたら絶対にダメで、カッコいいかどうかっていうのは、本当にお店の隅々に表れてると思うよ。


タトゥーあり、ヒゲあり、接客最悪(笑)

たとえば、接客。

さっきも言ったけど、俺、ドミノ・ピザ落ちたのがすごいトラウマで、こんなダサいとこで働きたくないわ、ふざけんなよって、そんとき心の底から思ったことを今でも覚えててさ。だから自分の店は、ダサい店にだけは絶対にしたくない

いま、ピザスライスには社員が12人、アルバイトは30人くらいいるんだけど、みんな10代、20代で、タトゥーは入ってるし、金髪でヒゲ生えてるし、ピアス両耳につけてるし、それでいて接客は最悪(笑)。キャッシャーでジュース飲んでるし、お客さんとタメ口で笑いながら喋ってたりとか。もう、ほんっと、みんな生意気でさ。

でも俺、何やってても絶対に怒らない。人としてダメなところだけは注意するけど、自由にやらしてるのな。上から無理やりやらせて成長させるパターンもあるけど、それ俺もめっちゃ労力使うし、正直しんどいやん。だからみんながそれぞれ個性的に育つよう、あんま忠告せずに静観してる。 そうしたら彼らは、スピードはものすごく遅いんだけど、でもみんな一度成長しだしたら、絶対に100パーセント成長するんだよね。こっちが感動するくらいに。

もちろん、こんなやり方でやってると、「食べログ」にはものすごい悪口書かれてる(笑)。点数めっちゃ低いし。ニューヨークスタイルってこんなヒドい接客なの?

とか、なんかいろいろ書かれてて、評価1とか付けられると、正直「うわ~」って傷つくし、へこむんだけど、しゃあないよな。

みんな、ほんと、すごくいい子なの。ただシャイなだけで。そんな子たちに無理やり押さえつけて指導して、「ちゃんとした」接客やらせるのって、正直カッコよくないじゃん?

でも不思議なのは、お客さんは増え続けてるのね。若い子って、あまり気にしてへんのかな。自分らしく働いてるほうが良く見えたりするのかと思う。ロボットっぽくマニュアルどおりに働かされてる職場見て、若い子たちが共感するかっていったら、俺はそうじゃないと思ってて。

たしかに接客悪いけど、みんな自由に触りたいときに携帯触って、ジュース飲みたいときに飲むし。そういうのを見てなのか、俺ら、求人誌とかに求人を出さずとも、ずっと履歴書が送られてくるのね。「ここで働きたいです」って。採用で苦労したことなんて、一度もない

あとうちらは、店舗増やすために人を雇うってことも、絶対にしないのな。出店計画なんてものもない。働きたい人が自然と集まって、誰も辞めなくて、人数が多くなってきたから彼らのために新たに店を出すってだけで、基本は人ありき、仲間ありき

新店開くのが先に決まってて、そこから強引に人集めて、とりあえずお前ら働け!って、正直もう失敗してるビジネスモデルやと思ってる。俺らの世代には、まったく合わない。

俺らの世代に合うのって、ちょっとビジネスマンとしてはあかんけど、必要とされればオープンするくらいで丁度いいと思うねんな。小さくまとまらず大きくするのはいいけど、無理だけはしない。

正解か不正解かはまだわからないけど、これで潰れたらもうただ俺がアホなだけやねんけどな。でも今のところ、6年これでやって、こんど日本橋に4店舗目。まあまあうまくいってる。それって、けっこう大事なことなんじゃないかな。


働いてる子、めっちゃ大事やねん

だからな、今まであたりまえだった価値観が絶対にこれからも確実かって言われると、そうじゃないと思う。

ヒゲ剃って、綺麗な格好して、挨拶ちゃんとして、敬語しっかり使ってみたいなことを大事にされてきた先輩方のビジネスを見てきたんだけど、たしかに流行ってるし、成功してる方もたくさんいるから、それが間違いだとまでは言わない。

でも、俺のところにもお客さん1店舗1万人ぐらい毎月来てるし、十分俺らみたいなスタイルでも支持してくれる層っていうのは、確実にいるのかなと思ってて。

愛想悪くても、人間味さえあれば、どんな接客をしても俺は大丈夫やと思ってる。タメ口でも、人としてちゃんと接すれば、べつに腹立たへんと思うねんな。

腹立ったり、クレームつけてくる人ってだいたい、自分が真面目に働いてるからお前も同じように真面目に働けと思ってる人で、たぶん仕事でずっとマニュアルどおりや、会社の言う通りにやらされてストレス感じている人が多いんだと思うよ。俺の感覚だけど。

でもさ、そういう人間っぽさや個性を排除した労働環境っていうのを、俺は変えたい。変えたいねんな。特に、飲食業界のな。

飲食ってさ、じゃあ500円のものを売ってるところで、リッツカールトンみたいな接客しろよって言われても、やらへんって。誰も働かへんよ。ホスピタリティとか言われても無理だし、嫌やし、お客さんだって500円の店にそんなん求めてへんし。

特に今の若い子はまったく求めてなくて、ぜんぜん違うものを求めてる。俺はそれがカルチャーだと思ってて、そこの見極めを間違えると、みんなが苦しくなるよな。

商売って、お客さんも大事やけど、働いてる子もすごい大事や。もし働いてる子たちがストレスを抱えてたら、俺はそれって幸せなビジネスモデルじゃないと思ってる。それで儲けて、なんの意味があるのって?

みんなにもこの問題は、ちょっと真面目に考えてみてほしい。これから10万円を使ってなんの商売をするかわからへんけど、儲けるだけじゃなくて、一緒にやる仲間のテンションが低くならないようにするにはどうするか、低くならないようなビジネスはなんなのかっていうのは、実は儲けよりもはるかに大事な問題かもしれないよ。みんなの時代は、特にね。

俺らの代でも、ニートばっかりやもん。同級生とか、ストレスで仕事辞めましたみたいな奴だらけ。もうみんな、ほんとすぐ辞める。働きたくないって、誰もが言ってる。

でもほんとうは、働きたくないんじゃない。その子たちにとって今のシステムが合ってないだけやと思うねん。すごく押しつけがましく、お前もっと頑張れ、当事者意識を持て、成果出せよみたいな感じで上から言われると、そりゃグレるよな。俺ももともとグレてるから、その気持ちはわかる。みんなもこれから社会に出たら直面するだろうし、同級生にそういう子、たくさん出てくると思うよ。

でも、なんで彼らが働きたくないかを真剣に考えたりとかさ。そういう子がいったいどんな会社だったら働きたいかとか、みんなはそっちを考えるべきだと、俺は思うねんな。

同年代がみんな何に対して不満持ってるんだろう? なんでこいつ喧嘩してバイト辞めちゃったんだろう? とか、今のうちにいっぱい理由をかき集めて、自分たちがビジネスやったり起業するときには、同じ間違いをくり返さない。

だって絶対、同世代雇うし、下の世代はもっと我慢するのを嫌う世代になるからさ、不満の理由がわからないと仕事なんて絶対うまくいかないよな。バイトに喧嘩して辞められるなんて、いちばんカッコわるいと思う。

でも、こういった若い子の感覚って、もう俺らにもわからへんからさ。さっきも同じようなこと言ったけど、俺、もう33歳やねん。33で、君たち高校生の感覚がわかるかって言われたら、絶対わからへん。みんなが23になったら、俺はもう40手前。尖ったビジネスができるかって言ったら、もうできへんもん、絶対に。

今はまだわからへんで。まだ俺33だから、頑張ったら勝てるかもしれない。でも、5年もしたら、みんなのほうが絶対にカッコいいものを作れると思う。今から情報をたくさん仕入れておけばな。

なんで断言できるかって、だって今までずっとそうだったからさ。SupremeとかStüssy(ステューシー)みたいに、ストリートではずっと若い子たちがダントツでカッコいいもんを作って、時代を変えてきた。

だから次は、君たちの番なんだよ。


これからは「デザイン」が商売の命運を決める

カッコいいかどうかの話で、ちょっと「デザイン」のことにも触れておこうか。

俺、お店の物件を選ぶときに、人通りがどれくらいあるかとかまったく計算しないのな。もう俺のことわかってきたと思うけど、その物件がカッコいいかカッコわるいか、それだけね。

たとえば3店舗目の六本木店(PIZZA SLICE & SODA FOUNTAIN)は、テナントの入れ替わりが激しくて、どんな店が入ってもうまくいかない「魔の物件」だったんだけど、でも俺はすごくカッコいいしポテンシャルあるなと思って、ソッコウ借りたんです(笑)。

俺がここに店作ってカッコよくなると思えばやるし、逆に、どんなにお客さんがいて、いくら稼げても、場所としてダサいなと思ったら、もうやらへん。それは、最初は良くてもあとで必ず自分のモチベーション下がるのが目に見えてるから、そういうのは絶対にやらないようにしてる。

でもそういう感覚的な判断って、ほんまにこれから、みんなに持っておいてほしいよな。全員が持てるとは思ってないけど、でも日本がこれからもう一段上に行くには、たぶんその感覚がすごく大事になってくると思う。

昨日、ハヤカワ五味さんの授業でも言ってたけど、佐藤可士和さんのデザインって、シンプルでカッコいいと思うのね。でも可士和さんが特別なんじゃなくて、これからはデザインがどうかっていうのが、商売の勝敗を分ける要素にもなってくると思う。

スーパー行っても薬局行ってもさ、雑誌とか見てても、なんかもうToo muchインフォメーションじゃない? いっぱい文字が書いてあって、何を伝えたいかさっぱりわからへんし、とにかくダサい。

でも現実、今の日本人はそっちのほうが買うのね。みんな。だからこういう世の中になってるんだけどさ。

でも、君たちの時代は、君たち自身がシンプルなデザインを美しいと感じたり、ごちゃごちゃしてるのは嫌い、ダサいってなれば、だんだんだんだん、売れるものも変わってきたり、作るものも変わってきたりするからさ。俺もそういう状況をちょっとでも変えたいから、こうしてめっちゃ頑張ってるんだけど。

今日俺の話を聞いて、なんか少しでも「そうかもなあ」と思ったら、頭のどこかに入れておいてほしい。そして何かを選択するときに、カッコいいかカッコわるいか、美しいか美しくないかって一度立ち止まってくれれば、少し変わるんじゃないかな、選ぶものが。

俺がニューヨーク行ってピザ焼きの勉強をしてた頃、ラッパーやDJとか知り合いを数百人集めて自分のピザを振る舞う大きなイベントをやろうとしたことがあった。そんときにちゃんとしたフライヤーも作ろうと思って、デザインやってる日本人が知り合いにいたから、そいつにお願いしたのな。だいたいのイメージを伝えて、こういう感じのものを作ってほしいって。

そうしたらそいつが作ってきたものが、俺の想像よりもはるかにカッコいいものだった。ほんとうに、めちゃくちゃイケてて。そんとき思った。ああ、俺には絶対こいつが必要だって。

だから帰国するときに一生懸命頭下げて、お願いした。「お前がいたら、俺、成功すると思うねん。俺はカッコいいかカッコわるいかはわかるけど、デザインはできへん。デザインでけへんけど、お前がいてくれたら店のブランディングとか内装とか、絶対にカッコいいもん作れると思う。頼むから俺と一緒に日本帰って、ピザ屋やってくれ」って。

そいつ本当は、映画を撮るための勉強をしにニューヨーク来てたんだけどな、結果そいつ、いまは俺と一緒にピザ屋やねん(笑)。


1枚500円のピザ屋に内装費4000万円

俺がニューヨークにいた2010年頃、「ブルックリンブーム」っていうのがあって、なんだろうな、東京でいえば浅草橋とか蔵前みたいな、未開発で地価が安いブルックリン地区にお金のない若者たちが流れ込んで、新しい価値観のおしゃれでちっちゃなお店がどんどん出来て、ちょっとしたブームになってた。

そういう店って、だいたい優秀で若いアートディレクターを雇ってて、お店のデザインにめっちゃお金をかけているのを、すごく間近で見てきたのな。

そこで思ったのが、こういうデザインのセンスって日本がものすごく遅れてるところだから、帰国してピザ屋を開くならデザインに秀でれば勝てるかもしれない。とにかくトータルのデザインにこだわって、自分が心底カッコいいと思える店さえ作れれば、俺らの世代は支持してくれるって。

日本の街を歩いてても、美しいとかカッコいいなって思えること、少ないよな? どうやったら売れるか売れないか、街の中で目立つか目立たないかってことばかり考えててさ、誰もお店全体のデザインとかカッコよさを追求していない。「うまい!」とか書かれているノボリとか、あれ、いる? ほんま、おもろない。

君たちは、将来何をするにしても、デザインにだけは絶対にお金を惜しんじゃいけない。自分のデザインセンスにあまり自信がなかったり、デザインができないのであれば、優秀なパートナーを見つけて、雇う。それだけでいいです。

俺は、さっき言ったデザイナーにはめっちゃ良い給料払ってるんだけど、仕事は新しい店舗を出すときくらいで、あまり仕事はないのな(笑)。でもそれで、ぜんぜんかまわない。パートナーであることに対してお金を払ってるし、四六時中一緒につるんでるからこそ、何をカッコいいと思うかという美意識がバッチシ共有できて、たまの仕事でとてつもない力を発揮してくれる。

これが、お金をケチって、新店舗を作るときだけ外部のデザイナーに発注したりすると、たしかにそこそこ良いデザインを上げてきてはくれるんだけど、俺のパートナーのレベルでPIZZA SLICEの求めるカッコよさを体現することは、まあ不可能。これはデザイナーの技量の話じゃなくて、俺たちといつも同じ空気を吸ってるかどうかの話だからな。

でもみんな、やるべきことと正反対のことをしちゃってるよな。知り合いにちょっとデザインできる奴がいるからって、2万円とかでロゴ作ってもらって、それをずっと使い続けてたり。でもそんなの、一流のデザイナーから見たら「うわ、ダサっ」で終わるから。10代のお客さんも、そんな店、絶対選択せえへんし

今までだったら、デザインにお金かけるなんて無駄なことだったんだと思う。特に飲食やったらな。味と商品さえ追求してたら問題ないって価値観が、ほとんどだった。でもこれからの世代に向けてやろうと思ったら、ここがめっちゃ大事になってくるのは間違いない。ブランディングとロゴと、インテリアデザインな。

要は、食べ物だけではなく、空間や居心地や価値観まで含めた、「カルチャー」を売らないとあかんねん。

PIZZA SLICEは正直そこに命をかけてきたと言っても、過言ではありません。俺が作りたかったのは、ピザ屋というより10代が主役のカルチャーで、そいつらが1000円でカッコつけれる場所っていうのが街のどこにもないから、作るしかなかった。

あと、10代の子が働きたい店であり続けるっていうのも、俺の裏のテーマな。

デザインの話に戻ると、帰国して作った代官山の1店舗目は、ぶっちゃけ内装費に30坪で4000万円もかけた。ふつうはだいたい1500万円とか、せいぜい2000万円。安いベニヤの板を使って、ちゃっちい机と椅子を作って、本当にただ食うだけの空間な。でも俺、メシ食うだけで終わってしまうような場所を、カッコいいとはちっとも思えなかった。そんな空間で、働きたくもないし。

で、やっぱり普通の倍のお金をかけて、とことんええもん使ってる。店内も店外も壁は一面まっ白いタイルで統一してるんだけど、日本にええと思えるもんがなかったから、わざわざニューヨークから「サブウェイタイル」輸入したり、照明も既製品がダサすぎるから、ぜんぶオーダーメイドしたり、めちゃくちゃ手間かかってる。

みんなからは、さんざんアホやと言われたよ。たった500円のピザ売るのに、内装に4000万もかける奴がおるかって。しかも当時まだ28歳で、自分でもかなりのリスクを取ったと思う。

でも、4000万かけたからこそ、自分が心底カッコいいと思える場所になったんだと思う。妥協して2000万とかで作ってたら、中途半端でダサいものができて、モチベーションも下がって、うまくいかなかったらすぐに辞めてたかもしれへんね。

タイルひとつにもこだわり抜いた、PIZZA SLICE DAIKANYAMA

案の定、ピザは最初ぜんぜん売れなかったけど、思いかけず、雑誌の撮影で使わせてくれませんかって依頼が来るようになった。1時間2万円。それが1カ月で100万ぐらいあった。この撮影代だけで年間収入1200万や。在庫もないし、人件費なんてひとりが鍵開けるだけだからさ、大したことない。仕込み中に撮らせるだけ。売上として、相当助かった。

でもさ、やっぱり自分がカッコいいっていうものをリスクとって作ったから、そういう副業的な別の収入源が、途中から出てきたりするねん。わかる人にはわかってもらえるからさ。中途半端なものには、そんなこと絶対起きへんと思う。

みんな、リーボックってブランド、知ってるよな。実は今度、うちとリーボックがコラボして一緒にスニーカー作って、全世界で売っていくことになったんだ。ちょっとこれ、スゴくない? こういう今まで飲食業界ではありえなかった動きというのも、すべてはデザインにこだわり、デザインにお金をかけたことから生まれてきたんだと思う。

みんなはこれを機に、まずは佐藤可士和さんの本から読んでみるのも、ええかもしれへんな。


どんなに「好き」を仕事にしても月収15万だと、病むよね

さあ、やっと最後のテーマ(笑)。

「Small & Lonely」ではなく「Big & Company」で行こうってことだけど、あっ、campanyっていうのは「会社」のことではなくて、もともとの「仲間」って意味ね。つまり、ひとりで小さくやるんじゃなくて、仲間と一緒にでっかくやろうってこと。

俺はハッキリ言うと、「小さく終わる」っていうのは、カッコわるいと思ってます。

ちょうど向こうでピザ学んでるときに、「サードウェーブコーヒー」ってムーブメントが盛り上がってたんだけどさ。日本にも出店してる「ブルーボトル」が代表格だけど、一杯一杯ハンドドリップで丁寧に淹れて、珈琲本来の味を追求するムーブメントで、帰ってきた日本でも一気にそのブームが起こっていて、俺のまわりでも店開く子がたくさんいた。

でもさ、みんな「俺、珈琲を淹れてるだけで幸せなんですよー」みたいな顔して、店やってるのに「いや俺、あんま人と喋るの苦手で……」って、小さな店でひとり黙々と珈琲を作っているんだよね。でも、500円のコーヒー淹れて、毎日来るの10人くらいよ?

最初は、カッコええねん。でも1年ぐらい経つと、みんなお金がなくなってくるから、テンションが下がってしまって、ぜんぜんカッコよく見えなくなってしまう。サードウェーブが大好きだといってやり始めた人ですら、給料15万とかで生活できてへんかったら、結局かなり病んでしまうんです。

俺と同時期にビジネス始めた子たちでそういう状況を頻繁に見てきたから、俺、もうそういうの、ぜんぜんカッコいいと思えへん。自己満足で小さくまとまって、自分ひとりだけ満足してても、結局誰もハッピーにならへんからな。何かを追求するのはいいんだけど、もっと他人や仲間を巻き込んで、大きく楽しくやっていかないと、結局ビジネスもうまくいかないんじゃないかと思ってます。

それでいうとな、一生懸命バイトして、月30万稼いで、開業資金が貯まったらお店開きますって子もたくさんいるけど、そんな努力いる? べつに、人から借りたらええやん。自分だけの力でやろうとしなくて、ええやん。

俺な、2013年に帰国して27歳で真っ先に何やったかって、お店を作る前に会社作って、投資家にプレゼンしに行ったのな。頭下げて、お金を出してください!!って。だって、ビジョンはあるけど、お金は全くないからな。

出資を受けるためには、個人じゃ信用がないからまず会社作ったんだけど、会社設立の方法なんてなんにも知らなかった。ネットで調べただけ(笑)。

ふつうは法人ではなく個人事業主として、自己資金と金融公庫からの融資で、内装費をできるだけ抑えながら工夫を凝らした飲食店を開くものかもしれないけど、でも資金に余裕がないまま始めてしまうと、結局はスモールビジネスで終わってしまう。それは、まったく俺が目指す方向じゃなかった。

俺は、やるからにはゆっくりでも大きくしていきたいし、ピザの提供の仕方や店構えをリアルなニューヨークスタイルにすることにこだわりたいと思っていたから、それなりのお金が必要で、でも自分でバイトして貯めようとしたらさ、中年か老人になっちゃってるよな。そんな、待てへんし(笑)。

だから、君たちにあらためて言いたいのは、3人でもめっちゃええと思えるものが見つかったら、それを突き詰めて魅力的なビジョンを描いてさ、4人目の仲間を引き入れて、足りないところを補っていけばいいんじゃないかな。

自分よりできる部分を持ってる奴がいたら、そいつにもう完璧に任せる。それでええやん。ひとへの頼り方って学校じゃぜんぜん教えてくれないけど、めっちゃ大事やからな。高校生の今から「これお前のほうが得意だから、頼むわ!」って、練習しといたほうがいいかもしれない。

特にお金は、持ってる人を頼って、出してもらえばいいよね。君たちが今どうしてもやりたいことがあるなら、母ちゃんに頼み込んで50万借りて全部やっちゃって、大人になってから返したっていいし。自分だけで、小さく考えない。ショートカットできるところは、ちゃんとショートカットする。べつに母ちゃんから50万取ったて死なへんのなら、借りたらええやんな(笑)。 俺、ニューヨークでピザ修行したって言ったけど、実際に働いたのはたった3週間くらいよ? しかも、タダ働き。あっちのピザ屋のノリや、生活のなかでの立ち位置を現地でつかみたかったのと、ニューヨーク帰りっていう「看板」が欲しかっただけで、べつに職人になりたいわけじゃなかったからな。

経営者として最低限必要なところだけ覚えれば、あとは詳しい奴とかできる奴はいるから、やれる人にやってもらったらええやん。

そこらへんは要領というか、ビジネスでは、勉強みたいに真面目にコツコツやることが必ずしもいいわけじゃない。修行とかも時間がもったいないし、没頭しすぎると逆に大事なものが見えなくなることもあるから、あんまりいらへんかなっていうのは、正直思ってる。


日本のキラーコンテンツは「アンダー1000円」フード

PIZZA SLICEは、ピザ1スライスと飲み物で1000円くらいだけどさ、この授業の最後で君たちに絶対に伝えたいのは、「これからは1000円以下のフードビジネスが来る!」ってこと。俺が今めっちゃ感じているこの実感だけは、持って帰ってもらいたいと思ってる。

あのさ、今、ニューヨークやロサンゼルスで有名なスターシェフって、いったいどんな奴らか知ってる? じつは、アジア系なんです。第三世や第四世の、チャイニーズやコリアンばっかり。

もともとアメリカでは、イタリアンやフレンチが幅を利かせ、レストランというのはある程度カネ持ってる人のもんで、一般庶民のためのフードっていうのは、あんま進化してこなかった。

でも2000年代以降、若いIT世代が、テクノロジーの次はフードだ!

ってことで、飲食ビジネスに関心を持ち始めて、ほんと最近になってやっと美味しいバーガーとかピザがポンポン出てくるようになってきたけど、基本まだまだ全体のクオリティはめっちゃ低いねんな。料理の種類も、ぜんぜん少ないし。

そこで彼らが注目し始めたのが、基本庶民のためのフードで、安いのにクオリティがめっちゃ高い「アジアンフード」。フォーとかパッタイとかを逆輸入して、いつの間にかフードのメインカルチャーは、アジアだらけ。それが今、アメリカの東海岸や西海岸で起きていることです。

でな、俺はこの流れって、これから世界中で加速していくと思ってる。なぜなら、都市化や核家族化はこれからもっと進むし、共働きがスタンダードになり、メシは出前や外でサッと効率的に済ますのがあたりまえになってくるとさ、安い価格帯の外食産業って、絶対盛り上がると思うんだよな。

毎日3000円とか4000円のランチなんて、食べられへんからな。1000円以下の安くてうまいフード、世界中のみんなが求めるようになってくる。

日本にいるとあたりまえすぎて、誰も気づかないけど、吉牛とかラーメン屋みたいに、1食1000円以下で食べれて美味しい外食って、めっちゃ貴重なんです。日本人がケチだからこそ生まれた、この1000円以下のありえない完成度のフード、世界から見たら異常やから。安くて美味しいって、絶対に世界の庶民に受け入れられる。

たとえば、そこらへんのうまいサバ定食のレシピ持ってあっち行ったら、絶対受けいれられる。ほんま、それくらい簡単なことだと思うよ。

ホノルル行ったら、あの丸亀製麺に朝から晩までローカルの人で行列ができててびっくりするからな。価格は、ほぼ日本と一緒。1000円超えない。

でも丸亀製麺って、香川じゃなくて兵庫の会社で、香川発の讃岐うどんチェーン店って、意外なことにないんだよな。ちっちゃな個人商店ばっかりで。香川の人は、まさか讃岐うどんが全国や、ましてや世界で通用するなんて思わなかったのかもしれへん。

だから君たちにぜひチャレンジしてもらいたいのは、日本にいくらでも転がっている「アンダー1000円フード」に注目して、日本じゃ稼ぐことは難しいかもしれないけど、世界で稼ぐってこと。案外すぐ足元や目の前に、「キラーコンテンツ」が眠ってるのかもしれない。アメリカ人の金持ちは、喉から手が出るほどフードの新しいコンテンツを欲しがってるしな。

仲間と全力で遊びながらそれを見つけてさ、世界で金儲けするって、最高にワクワクすると思わへんかなあ?

ついこのあいだ、PIZZA SLICEにそっくりの店があるってインドネシア人の友達から教えてもらって、ジャカルタに行ってきたんだけど、街が若者ばっかりで驚いちゃった。もうパクリの店とか、どうでも良くなっちゃって(笑)。

人口が2億6000万いるらしいんだけど、0歳から30歳までがその半分、1億3000万人もおるねんて。今年の日本の出生数は90万人を切るとか言ってるけど、1億3000万人よ?  俺のインドネシア人の友達は、日本への留学中に、どこにでもあるふつうの居酒屋で4年働いて、国に帰って日本式の居酒屋をオープンして、今30歳で8店舗。最初の開業3カ月で、6000万円も回収したんだって。ありえへんよな。

日本でこれから勝負しようと思っても、人口は激減するし、カネ使う人も減るから正直しんどいけどさ、日本人としてあたりまえレベルのことが、意外とアジアでめちゃくちゃビックマネーを生むコンテンツかもしれない。なんせ、ベトナムとかタイとか、今アジアは若者人口の増加がハンパないからな。

彼らは、これまではマックとかケンタッキーとか、グローバルチェーンの飯を食ってたけど、それじゃ満足できなくなって、ちょっと上のものを食いたくなってくるはず。クオリティ高くて、安い店ね。ほんまここ、ビジネス的にめちゃくちゃ面白くて可能性がある、空白地帯だと思うねんな。

そうそう、うちらのパクリのピザ屋も、ジャカルタでむっちゃ儲かってるらしい(笑)。

でも、高校生のときからアイデアいろいろ考えてさ、卒業したらどっかでサクッと学んで要領つかんで、誰かに資本金出してもらって海外で店やったら、めっちゃ夢あるし、可能性あるよなあ。

そういうの、もしかしたら漠然と大学行くより「賢い選択」かもしれへんし、こういう勝負ができるのって、やっぱり10代とか20代の若者だけだと思う。

ほんとうのグローバル世代って、今の君らの世代からやからな。世界や仲間とスマホでつながってるし、飛行機は昔より格段に安いし、英語にも抵抗感がない。あとは、ちょっとした気づきと、勇気だけやねん。


これからのマリファナの話をしよう

時間、完全にオーバーしちゃってるけど、最後にもう一つだけ、いい? こんなこと話すと、親御さんにめっちゃ叱られるかもしれないけど、マリファナの話をして、この授業を終えたいと思います。

みんな知ってるかどうかわからんけど、2018年からカリフォルニア州で嗜好用の大麻が合法化されたの、知ってる? ……うん、知らないよね。

これって日本じゃタブーとされてるし、学校なんかじゃ絶対に教えない話だと思うんだけど、いまあっちで何が起きてるかっていうと、L.A.の街歩いてたら、アップルストアみたいな感じでおしゃれなマリファナ屋さんがいっぱいあるんだよね。みんなIT企業なんかから転職して、真剣にマリファナ売ってる。ヤバない?

特に今、むちゃくちゃヒットしてるのが「CBD」。大麻草から抽出される「カンナビジオール」のことなんだけど、これのオイル製品とか、ミルクみたいにコーヒーに入れた「CBDコーヒー」が、バカ売れしてる。スーパー行けば、CBDオイルが必ず売ってるし、薬局行けばCBDクリームなんかが売ってるわけ。

それで何が言いたいのかというと、この流れはもう避けられないってこと。

カリフォルニア州だけでもイギリスと同じくらいの経済圏だけど、そこがOKとなって、つぎにカナダも国としてOK。で、韓国も医療用大麻ならOKで、タイも今まで死刑やったのに、なんと医療用はOKに。

こんなふうに、たったこの2年間で、世界中で大麻解禁の激流が巻き起こっているんだけど、このジャンルのビジネスっていうのは、フードとこれから絶対に関わってくるからさ。日本じゃ違法だってことは大・大・大前提のうえで言うけど、大麻ビジネスも、君たちの世代では全然可能性あるからな。

もしかしたら、ITとかAIより、はるかに儲かるかもしれん。商業的に見たら、アナログで久々に来た、ものすごいビッグビジネスチャンスや。

俺がPIZZA SLICEで雇ってたアメリカ人なんて、サンフランシスコに戻って、いま大学でマリファナ科だって。マリファナ科っていう、マリファナのビジネスを勉強してるの。もうそんなレベルだからさ、そういう人たちとコンタクトとっていくうちに、もしかしたら今たばこ業界で言うマルボロとかフィリップモリスとか、ああいう大企業に、これからなれる可能性だってある。

パクらんといてほしいんだけど(笑)、もし俺がやるならな、あきたこまちとかこしひかりなんかの、コメの品種を作ってる研究者おるやん。ずっとずっと、やってるやつ。そいつをひとり口説いて、アメリカ連れてって、日本人独特の大麻の品種を作りたいねんな。

それを嗜好品ではなく、医療品としてメディカルの分野で売る。食べて世界中のみんなが健康になったとしたら、それってビジネスとしてものすごくカッコええと思う。どう? ワクワクせえへん?

これから君たちは大学に進む子も多いと思うけど、どんな勉強でもできるんだから、日本のマーケットだけ見ずになるべく視野を広くして学んでな、欧米の若い子とか、アジアのこれからの世代と一緒になって、世の中にめっちゃカッコいい「何か」を作っていってもらいたいと思います。

では、これで授業を終わります。どうもありがとうございました。

みんな、ほんまに頑張ってな。(教室拍手)

授業日:2019年7月14日
著者:猿丸浩基
構成:宮田文久
撮影:吉屋亮(https://448.tokyo/)
編集:柿内芳文(@kakkyoshifumi

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ZuKjcOCFxl3AW49 言っていることは最もだし、素晴らしいとも思う。でも形が違うだけで結局偉人伝(人口の数%の人)を聞かされて、その日はに熱いものが込み上げるけど明日には日常に戻る。もっと冷めている世代に響いたのかな? https://t.co/P5o5dTUA7d 4日前 replyretweetfavorite

VstLakeus 長文だけど読み応えのある記事。既成概念にとらわれない自分の生き方、働き方。デザインの重要性も腑に落ちる。 https://t.co/j1waf56vfG 4日前 replyretweetfavorite

kurara78 長いので全部読んでないのですがシェア  4日前 replyretweetfavorite

nyabirins この感覚、美意識、好き! 先をみる目、仲間を大切にするスタンス、物事への取り組み、共感度が、綺麗売りやってる人達とはまるで違うよね。 世の中の本質をわかってる上での実行力。 こう言う人と働いてみたいな。 https://t.co/PnS7hTOGf0 4日前 replyretweetfavorite