3時限目】世の中にない 「ピザ屋」 を作る / 猿丸浩基先生

マンハッタンを舞台にした映画のワンカットのように、カッコよくて、オシャレで、フォトジェニックな場所として、10代20代でいつも賑わっているニューヨークスタイルのピザ屋「PIZZA SLICE(ピザスライス )」ーーこの店を28歳で立ち上げた猿丸浩基(さるまる・ひろき)さんは、10代の君たちこそが新しい価値観を作ると熱く語ります。「ハイスクールショーバイ!」3時限目は、これからの時代を生きる新世代のための、商売論。僕らはこれから、なんのために働き、なんのために稼ぐのか?

※この記事は、去る2019年の夏に開催されたイベントの「実況中継」です。記載内容は全て開催当時のものになります。

このピザ、さっきうちの店で焼いたばかりの焼き立てなんだけど、どう? めっちゃ、うまいやろ? 嬉しいなあ。これから授業を始めたいと思うけど、食べながらでかまわないよ。
ピザが好きすぎて、「PIZZA SLICE」というピザ屋を作ってしまった、猿丸浩基といいます。堅苦しくならないで、近所のにいちゃんが話しているのを聞いているくらいの感じで、聞いてください。

でもさ、こういうニューヨークスタイルのピザって、君たち食べたことある?

……ないよな。 まだ一般的にもめずらしい感じで、お店では大きなピザ1枚を8等分した「1スライス」でだいたい500円、いちばん安いものは390円で出しているんだけど、ニューヨークだとワンブロックに一軒はこうしたピザ屋があるくらい、ニューヨーカーの生活には欠かせない食べ物になっています。アメリカの各地に行っても、ショッピングモールとかには必ずといっていいほどあるかな。

でも、僕が6年前に「PIZZA SLICE」を代官山にオープンさせるまで、日本にこういったスタイルのピザ屋さんはありませんでした

じゃあ、なぜ僕は、わざわざスライス売りのピザ屋なんてつくろうと思ったのか—今日はそんなことを話しながら、君たちに3つのテーマでメッセージを送りたいと思っています。

少し話が長くなるかもしれないけどさ、高校生の君たちがこれから生きていくうえで、ちょっとしたヒントにでもなれば、僕も嬉しいです。


「選ぶ」ものがないなら自分で「作る」しかない

まず、最初に伝えたいテーマは、「選ぶのではなく作る」ということ。

今はまだ、たとえば働くといったら、どっかの会社に就職する……つまり、すでにある選択肢の中から「選ぶ」ことが多いよね。友達と遊びに行くのでも、どこのお店行こうかとか、流行ってるからあれやってみようとか。タピオカ食おう、とかさ。

でも、みんなの時代、これからの時代は、「選ぶ」だけじゃなく、自分が望むものを「作る」という感覚も、ちょっとでもいいから持っていてほしいなと僕は感じています。

もともと俺な、君らの年代の頃、学校なんかよりストリートが大好きで、サボってばっかいた。いわゆる非行少年ってやつ。今日集まってくれたみんなは真面目で、賢い子たちばかりだと思うんだけど、僕は高校行っても、3年間で書いた全教科のノート数3枚くらい(笑)。ぜんぶ白紙。書いてへんし、ずっと寝てたし、先生の顔見ないときのほうが多かった。

じゃあ学校行かずに何やってたかっていうと、中学の頃から街で仲間たちと死ぬほど遊んでた。もうほんと、それこそ寝ずにな。三宮の阪急西口にあるマクドナルドの階段に毎日たむろして、誰かが持ってきたサイコロの各面に「難波」とか「奈良」とか「広島」とか適当な地名書いてな、出た場所に今からみんなで行こうぜとか、自分らで遊び作って無茶苦茶やってた。「東京」って書いた奴がいて、それが出たときは超ヤベーってなったけど、仲間とみんなで三宮から東京行ったしな。2週間も、家帰れなかったけど(笑)。

それで、なんか行ったことのない場所に行くのがだんだん面白くなってきて、14歳のときに始めたのが、ヒッチハイク。学校行ってないぶん、勉強してる奴らには絶対経験できないことやってやろうって。知らない土地の知らない大人と喋ったり、はじめて野宿してみたり、それまでの日常では見たことのない景色を見るのがほんとに楽しくて。ひとりで日本中をまわってみたんだけど、気づいたらのめり込んで、ハワイまで渡ってた(笑)。バックパックで海外も行ってみたくなっちゃって。

もちろん親には大反対されたけど、街で悪いことするよりマシやろって、無理やり説得して、ちゃっかり渡航費も出してもらってさ。

いやでも、はじめての海外はほんとうに刺激的だったな。誰にも頼れないし、ルールもまったく違うし、言葉も通じない。たぶん今もだと思うけど、ハワイは未成年がひとりでホテルに泊まることが法律で禁止されてるから、現地の旅行会社の人に保護者になってもらって、ようやくベッドで寝ることができたり。

1週間、言葉も通じない場所にひとりで行って、買い物も、食事も、移動も、ぜんぶひとりでやった。当時、中2の自分が感じた刺激は、計り知れなかったと思う。もう、全身の感度がビンビンになっちゃう感じ?

だからかもしれへんけど、ハワイで人生を変える出会いがありました。メシを探しに入ったショッピングモールで、ニューヨークスタイルのピザ屋を見つけたんです。

俺、もともとめっちゃピザが好きで、E.T.とかのハリウッド映画であっちの子供たちがピザをデリバリーしてみんなで食ってるの、かっこいいなあってずっと憧れてた。小学生のとき真似して、ひとりでドミノ・ピザを注文して、ぜんぜん食い切れなかったり(笑)。

そんなんだから、スライス単位で売っていて、持ち帰れるし、ひとりでもいろんな味を楽しめるスタイルに衝撃を受けた。これ、めっちゃいい! 日本にあれば仲間と絶対行く、絶対流行るやん!! って。まだビジネスどころか社会のことも何も知らないのに、直感的にそう感じたのを、今でもよく覚えています。

そしてその夜、ずっとつけている「夢ノート」に書いたんだよね。スライス売りのピザ屋をやりたい、って。


ヒゲ禁止?なら、ニューヨーク行くわ

じゃあ、帰国してすぐにピザ屋始めたのかっていえば、もちろんそんなことなくて。まだ中学生だからな。ピザ屋の夢のことも忘れて、ヒップホップやったりスケボーやったり、海辺の伝説のbarでバイトしたり、俳優の真似事してみたり、中学高校卒業してもずっと遊びまくってたんだけど、25歳のときに転機が訪れた。当時の大好きだった彼女から、怒られちゃったんだよね。「なにもかも中途半端で、ほんっと、ダサい!」って。

男にとって、これはほんまグサっとくる。でも本当にその通りで、楽しいからいろんなもんに手出してたんだけど、何一つモノにはしてなくて。

よし、わかった。俺やるぜ、やってやるぜって。

そのときに見返したのが、学生時代にずっと書いてた夢ノートだった。そしたらど真ん中に、スライス売りのピザ屋をやりたい! って書いてあって、ようやくピザのこと思い出したんです(笑)。

ハワイでの衝撃の出会いから10年も経ってたけど、いま探しても日本にはあいかわらず同じようなお店は存在していない。これ、ライバルもいないし、今でもビジネスとしていけるんちゃうかな。ストリートカルチャーと同じで、遊ぶ場所がないなら、自分でゼロから作ればいい。スケーターは街の階段や手すりを遊び場に変えてしまったし、お金がなくてもサイコロ一つあればいくらでも仲間と楽しむことはできる。それと同じやね。

とはいえ、俺はピザ屋どころか、飲食の仕事すらまったくやったことがなかった。だからまずはそこらへんのピザ屋で働いてみようと思ったんだけど、働きたいと思えるようなカッコいい店が、どんなに探しても1軒もない。

仕方ないから、宅配ピザの面接を受けたんです。そしたら……ドミノ・ピザの面接が今でもトラウマなんやけど、「うち、ヒゲ禁止だから」って即答で断られて。もうね、すっごく、腹が立った(笑)。「人を見た目で判断すんなや!」って。

ヒゲ剃るのも絶対嫌だし、「こんなんじゃ、日本で働く場所を探してもないわ!」って思って、ヒッチハイクのときと同じ勢いでニューヨーク行って、あっちのピザ屋で短期間、集中的に働きました。

でも、ニューヨークに行って生で見たピザカルチャーは、最高にカッコよくて、値段も安くて、お金のないストリートの若者の胃袋を満たしてて。それを目のあたりにしたとき、「こんなのあったらいいなあ」から「俺が作らないとダメだ」って、自分の中で確信へと変わった瞬間があったんだよね。 東京にも、こっちと同じようにストリートカルチャーに根づいたピザの文化を持って帰るべきだ! そして、ピザをもっと若者に身近な食べ物にすべきだ!! って。

そんときの写真が、こんな感じ。いや、俺若いし、細いな(笑)。

そうして向こうから帰ってきて、28歳のときに代官山のはずれにオープンさせたのが、みんながいま食べてる「PIZZA SLICE」なんです。

みんなが食べたのは、ニューヨークでも定番の味、「ペパロニ」ね。うまかったやろ。

ちょっと話が長くなちゃったけど、俺、話うまいほうじゃないから、許してな。でもだんだん俺も緊張がとけてきて、いい感じになってきたかな(笑)。


3人が感動したら作っちゃえばいい

これは俺の実感なんだけど、世界でも日本の地方でもどっかに行ってみて、これいいなとか、これすごく感動した、めっちゃ美味しかったとか感じて、でも地元に帰ってきたらどこにもないと思うものは、作っちゃえばいい

でもそうすると意外に、自分が感動したことと同じように感動してくれる人って、たぶん東京とか大都市だったら結構な割合でいると思う。このスライスピザも、絶対そうだと思うんだよね。

僕も昨日は、君たちのうしろでガトーショコラ屋さんの授業を聞いてたんだけど、僕たちはいま、代官山、表参道、六本木の3店舗で、ぶっちゃけ年商3億円ぐらい。ちょうど一緒。でも客単価は3000円じゃなくて、ピザ500円。ドリンク頼んで1人1000円使ってくれたとしても、単純に割ると1年間で30万人近い人が来てくれてる。これって、本当にすごいことだよね。

でも今まで誰も、日本でスライス売りのピザ屋はやっていなかった。こういうものが、世の中にはすごくいっぱい「落ちてる」と思うな。大人のひとが気づかない、いや気づけないことが、たくさんあるんだと思う。

お店を始める前な、いろいろな先輩経営者たちが「スライス売りのピザ屋がないのは、需要がないからだ。絶対にすぐ潰れるからやめたほうがいい」と諭してきたんだけど、「俺はそういうピザ屋、欲しいけどな。『需要ない』ってあんたの感覚やん。それ、俺とはちゃうから」って、口に出さずに思ってた(笑)。

さっきも言ったように俺、学校以外で死ぬほど遊んだんだけど、そういうときに経験した、友達同士であれめっちゃ楽しかったとか、これめっちゃカッコいいなっていうのは、そんとき3人が感動してたら、たった3人なんだけど、実は世の中の結構な人数が感動する「コンテンツ」なんだと思う。

だからとにかくみんなにはな、勉強とか大人の言うことももちろん大事だけど、でも、大人ですら気づけないことを、同年代と一緒に遊んで見つけるっていうことをしてほしい。君たちの感覚って、俺にももう真似できへんから。

俺は、本当にそれがいちばん大事やと思ってて、でも死に物狂いで探すんじゃなくて、自然と見つかるからさ。友達と全力で遊んでたら。べつにアホなことしてもいいし、いきなり海外行ってもいいし、なんかいろいろ体験して、見つけてもらいたいです。今回の商売体験なんて、まさしく最高の遊びだと思うよ。リスクないんだし。

この前、アメリカ人の友達と話してたら、びっくりしちゃって。そいつはハーバード大学出てグーグルで働いてたんだけど、アメリカだとグーグルとかで働いてる奴は、ちょっとバカにされるんだって。

だって、グーグルよ? 日本だったら「すげ—!」みたいになるやん。 でもアメリカじゃ、普通に就職してる奴の地位は低いって言ってて。学歴とか知名度じゃなくて、起業してるかしてないか、何か新しい事業や雇用をゼロから作ったかどうかってことで、ステータスが分かれるんだって。

もちろんこれは、ハーバードとかエリートの話だけどな。でも、日本も早くそうなってほしいし、「ないなら作ろう」っていうマインドを持って生きていく世代になってほしいというのが、俺のみんなに対する希望と期待です。


判断基準は、カッコいいかどうか。以上

さあ、やっと2つ目のテーマ。時間内に3つ目までぜんぶ話し終えるかな?(笑)

次のテーマは「儲かるかどうか、ではなく、カッコいいかどうか」ってことだけど、もうほんと、これがすべてやね。

俺、けっこうビジネスやってるけど、正直言って金儲けとか、あんま考えてないです。これやったら商売として最低限成り立つかなって程度で、そろばん勘定は大の苦手。

もちろん、ビジネスは結果がすべてだって考え方もあるかと思うんだけど、おもしろくないでしょ、なんかそういうの。儲かるからやるんだったら、儲からないならやらないの?って。ぜんぜん、おもろない。

俺が大事にしてるのは、自分が欲しいか欲しくないか。カッコいいかカッコよくないか。本当に、それだけです。

みんなもこれからビジネスやるうえで、カネ持ってる人や社会的地位の高い人とたくさん出会うと思います。でもな、その人が尊敬できる人間かどうか、カッコいい人間かどうかっていうのは、また別やねん。カネ持っててもダサい奴いっぱいおるし、うさんくさいヤツもいる。なんかぜんぜんリスペクトできない、みたいな。

俺は、成功者と会って、ビジネスとしてすごいなとは思うんだけど、人としてカッコいいことやってるかどうかって俺のなかではかなり重要で、その感覚をめっちゃ大事にしています。カッコわるいヤツとはあんま話したくないし、仕事もしたくない。

君たちが商売するようになったとき、これ絶対儲かるわーってものがあっても、べつにそんな好きじゃないものだったら、やんないほうがいい。続かへんと思うし、まわりにバレるよな。5年とか10年やってたら。こいつ中身ないな、薄っぺら、みたいな。無理して嘘をついても、自分が苦しくなるだけで。

そんなことにならないように、自分だけのカッコ良さの基準ってものを、10代のときに一生懸命探してほしいなって、思ってます。

「カッコいい」って、ちょっと曖昧な言葉かもしれないけどさ、音楽でもファッションでも、アートでも映画でも、お笑いでも、なんでもいいんだよね。他の人がどう言おうが自分は「これがカッコいい!」って思えるものが一つでも見つかれば、それが自分の価値判断の基準になる。

君たちの中にラッパーの子がいたと思うけど、あ……そこの金髪ね。俺も学生のとき、毎日ヒップホップ聞いて、クラブイベントやって、そういうストリートカルチャーにどっぷりつかってたから、大人になっても何かを選択するとき、やっぱり「ストリート」のフィルターを通して物事を見ちゃうよね。

たとえば、なんやろうな。洋服詳しい子、おる? ニューヨーク発のストリートファッションブランドで、「Supreme(シュプリーム)」ってあるでしょ? 世界中で大人気のカリスマブランドだけど、最初は、ものすごく貧乏な20代の男の子たちがスケボーで遊んでるときに仲間内でTシャツを作ったのが始まり。ロゴもさ、有名デザイナーのパクリなの。

でも、それを着てスケボーしていたら、まわりの奴らが「そのTシャツカッコいいじゃん。俺にもちょうだい!」ってなって、今じゃルイ・ヴィトンとコラボするほどの人気で、世界でありえないくらい稼いでる

結局さ、俺らはこれがカッコいいと思うって、みんながストリートで自信持って着てたのが、すべてなんだよね。さっき言った、3人が感動すれば作っちゃえばいいって話とおんなじでさ、1人が心の底からカッコいいと思えるものは、みんなに伝わる可能性がある

PIZZA SLICEが今こうしてちょっとずつ広がってってるのも、ただ俺らがカッコいいと心底思えるお店を作ってるからなんだと思う。ここを中途半端にしたら絶対にダメで、カッコいいかどうかっていうのは、本当にお店の隅々に表れてると思うよ。


タトゥーあり、ヒゲあり、接客最悪(笑)

たとえば、接客。

さっきも言ったけど、俺、ドミノ・ピザ落ちたのがすごいトラウマで、こんなダサいとこで働きたくないわ、ふざけんなよって、そんとき心の底から思ったことを今でも覚えててさ。だから自分の店は、ダサい店にだけは絶対にしたくない

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高校生よ、ショーバイせよ!

HS編集部

商売に挑戦したい高校生20人を対象に開催した、夏の特別イベント「ハイスクールショーバイ!」の様子を公開。商売上手な6名のプロフェッショナルが、高校生たちへ「商売の極意」を伝えていきます。

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ZuKjcOCFxl3AW49 言っていることは最もだし、素晴らしいとも思う。でも形が違うだけで結局偉人伝(人口の数%の人)を聞かされて、その日はに熱いものが込み上げるけど明日には日常に戻る。もっと冷めている世代に響いたのかな? https://t.co/P5o5dTUA7d 8ヶ月前 replyretweetfavorite

VstLakeus 長文だけど読み応えのある記事。既成概念にとらわれない自分の生き方、働き方。デザインの重要性も腑に落ちる。 https://t.co/j1waf56vfG 8ヶ月前 replyretweetfavorite

kurara78 長いので全部読んでないのですがシェア  8ヶ月前 replyretweetfavorite

nyabirins この感覚、美意識、好き! 先をみる目、仲間を大切にするスタンス、物事への取り組み、共感度が、綺麗売りやってる人達とはまるで違うよね。 世の中の本質をわかってる上での実行力。 こう言う人と働いてみたいな。 https://t.co/PnS7hTOGf0 8ヶ月前 replyretweetfavorite