※この記事は、去る2019年の夏に開催されたイベントの「実況中継」です。記載内容は全て開催当時のものになります。
わたくしハヤカワ五味がお話しさせていただきます。ちょっと風邪ぎみなんで、声小さくて聞こえづらかったら言ってくださいね。というか、みんなもう少し前に来てもらってもいいかな?
お願いします!
【第1問】牛乳のパッケージは、なぜ「青」が多いのか?
さていきなりですが、問題です。
はい、これ。
牛乳パックは、もちろんみなさん見たことあると思うし、毎日飲んでる人もいると思います。じゃあ、牛乳パックってなんで青のパッケージが多いのか、考えたことありますか?
青って、ふつうは食欲をなくすような色ですよね? おいしく見える色って、ふつうは赤とかオレンジとか暖色系だと思うんですが、なんで青がこんなに多いんでしょう?
みんな、ちょっと考えてみてください。
【第2問】セブンイレブンの箱ティッシュには、なぜ「ロゴ」が大きく入っていないのか?
もう一問。これ!
セブンイレブンで売られてる箱ティッシュなんですけど、全体がまっくろなのに、上の部分だけに文字が書いてますよね? これ、なんでこういうデザインなのかわかります? なんでもっとわかりやすい場所にロゴとかを表示しないんでしょう??
これも、ちょっと考えてみてください。
(......しばし沈黙)
はい、私、パッケージのデザインだけで永遠に語れちゃうくらいなんですけど。なんで牛乳パックは青いんでしょうか? まず、その謎について考えてみましょう。
みんな、色の相関図って知ってる? 青から紫、ピンク、赤とかに移り変わっていくこの図です。
この図で反対側にある色を「補色」と言います。たとえば赤の補色、反対側にある色は緑です。赤と緑って、ぶつかるとすごいバチバチするんですよ。赤と緑を足すと黒になったりします。
だからその「補色」って色彩学的にすごく重要な存在なんですけど、青の補色って、赤とか黄色の、暖色系なんですね。
一方で、ある色をしばらく見たあとに「白い部分」を見ると「その色の補色」に見えるという目の仕組みがあります。これを「補色残像」と言います。つまり、青を見たあとに白い部分を見ると、そこがちょっとオレンジだったり黄色がかって見える。ちょっと暖色がかって見えるんですよ。
全体のトーンは青ですが、そのあとに牛乳の「白」を見ると、ちょっと暖色がかって見える。クリーミーな感じで「おいしく」見えるというわけなんです。これ、すごくないですか?
ちなみに「おいしい牛乳」のパッケージに関して言うと、このデザイン、フォントがバラバラなんですよね。「明治」は丸ゴシックみたいな感じだし、明朝体があったり、ゴシックっぽいところがあったり。
ここにも理由があります。
牛乳って毎日見るものですよね。だからちょっとカジュアルに、身近に感じてもらうために、あえて崩しているんです。フォントもふつうにベタ打ちしただけじゃなくて、ちょっとずらしてたりする。だから、高級過ぎないし、飽きられないんです。
そのへんにある、一見ありきたりな牛乳パックですが、じつはものすごく完璧にデザインされているものだったんです!
あまりの感動に立ち尽くしてしまった、セブンの黒ティッシュ!
2問目。黒のボックスティッシュ。
私、すごい、これね、大好きなんですよ! ふつうにセブンイレブンで売ってるじゃないですか。はじめて見たとき、ものすごく感動したんです。何に感動したかといえば、その「デザインのねらい」を察して、コンビニでひとりめっちゃ感動してたんです。
これまでのボックスティッシュって、「ドラッグストアで売るためにデザインされたパッケージ」をそのまま家に置かなきゃいけなかったんですね。
たとえば洗剤だったら、デカデカと「アタック」って書かれたものを家に置かないといけない。「まっしろ!」みたいな効果もわかりきったことなのに、それをずっと家に置いておかなきゃいけないんです。
ボックスティッシュも、だいたい側面に「クリネックス」とか大きくロゴが入ってますよね。でも、それをそのまま家に置いておくのは、ちょっとダサい。だから、ティッシュケースみたいなものでみんな隠しています。そのくらい、店頭で売るためのロゴが入ったデザインは、みんな見せたくないし、見たくないわけです。
じゃあ、それ、なくしたらいいじゃん! っていうのが、このセブンのボックスティッシュのデザインなんです。
ただ、ロゴなどの情報をぜんぶなくしてしまうと「ティッシュだ」ということがわからなくなる。さらに「どこのブランドのものか」もわからなくなる。だから、上の真ん中の部分に「ティッシュですよ」っていうことと「セブンのロゴ」が控え目に入ってるわけですよ。
で、これのすごいところは、ここからです!!
最初、使うときに取り出し口の部分をめくるじゃないですか。で、めくって取ってしまうと、もうセブンのものだってことすら、わからなくなるわけですよね! だから、家に置けば「シンプルな黒くてカッコいいティッシュの箱」になる。底の面には詳細な情報が書いてありますが、家で見るかぎりはなんの情報もなくなるんです。
考えてみれば、たしかに店頭で売るときには「どのブランド」ってわからないといけないけれど、家ではそんな必要はないわけで。そこをうまくデザインしている、ものすごくいい例だなと思っています。 ちなみにこれをプロデュースしたのは、佐藤可士和(さとう・かしわ)さんという超有名なデザイナーさんですね。
この世界は、誰かの「おもわく」でできている!
いきなりクイズから始めましたが、1時限目のテーマがですね、「思惑ハック」です。
さっきの「おいしい牛乳」のデザインも、ボックスティッシュのデザインも、裏には隠された「思惑」がありました。
ただ「かっこよく」「おしゃれに」見せるだけではなく、ときには「おいしそうに」、ときには「家の中で使われることを想定して」つくられていた。そこには、ものすごく計算された「思惑」の塊があったんです。
思惑というのは「誰かのねらい」です。「どうやって考えているか?」「どういうことをねらってやってるか?」ということ。それが「思惑」です。
この世の中は「誰かの思惑」にあふれています。というか、世界は「誰かの思惑」でできています。
「国」だって、ある意味、誰かがつくったものですよね。憲法とか法律も、自然にできたのではなく、人間がゼロからつくったもの。今日みんなが着ている服も、いま手元に持っているノートも、人間が関わったすべてのものには、誰かの「思惑」、ねらいや考えがあるんです。
この「思惑」というものを発見して、理解して、逆に「利用」できるようになったら、かなりみなさんの商売の役にも立つはずです。「思惑ハック」というのは、この「思惑」を「ハッキング」、つまり他人の思惑に忍び込んで、逆に利用してみよう!ということなんですよ。
16歳のときに聴きたかった「思惑」の授業!
私の商売は、高校生時代の「お年玉3万円」からスタートしました。
お年玉の3万円を「元手」にタイツとかアクセサリーを製作して、イベントで販売したんです。タイツは3000円くらいの値段をつけていましたが、それが500足くらいダーッと売れていった。なんだかんだ高校在学中3年間で300万円ちょっとの売上は立ってました。
大学に入ると、その利益をもとにして「feast(フィースト)」という下着ブランドを始めました。胸が小さい子向けの下着ブランドですね。これがSNSを中心に話題になって、その年の年末には300万円ほどの利益。売上でいうと初年度で1000万円くらいになりました。
まあ、そんな感じで自分なりに商売をやってきたんですが、この「思惑」ということの大切さに気づいたのはここ最近の話です。
昔は「思惑」については意識せずに、試行錯誤しながら商売をやっていました。でも、当時から「思惑」をハックできていれば、もっとうまくいっていたな、と思っています。
だから、この授業、「思惑ハック」の授業は、商売を始めた16歳のわたしに聞いてもらいたい授業でもあるんですよ。
なぜゲームは「おもしろく」て、勉強は「つまらない」!?
こっから「思惑」について、どんどん語っていきますね。ちょっとペースが早いかもしれないですが、スライドはバンバン写真撮っていいんで。メモしながら聞いてください!
それでですね、私、すごいゲームが好きなんです。
やっぱりゲームはおもしろいし、つい夢中になってやっちゃうじゃないですか。「なんでこんなに時間が溶けるように進んでいくんだろう」ってくらいハマってしまいます。
その一方で、勉強っておもしろいものではないですよね。学校行かなきゃいけないし、「めんどくさいな」って気持ちのほうが大きいと思います。
ただこれ、根本的には、どっちも誰かが準備してくれているものじゃないですか。勉強も、ゲームも。そして、どっちも一人で手を動かしてやる作業です。はたから見たら、大した差はないはずです。
なのに、なんで勉強はつまらなくて、ゲームは楽しいんでしょうか? そこにじつは「誰かの思惑」がひそんでいるわけです。勉強も、ゲームも、「この世界の誰かが仕組んだもの」「誰かが考えてつくったもの」なんです。 じゃあ、なんでゲームはおもしろくつくられてるんでしょう?
ゲームのユーザーは「おもしろい」と感じれば感じるほど、お金を使います。すると、ゲームの会社は儲かる。だから、ゲームをつくる人はおもしろくするわけですね。
もちろんクリエイターとして純粋におもしろいものをつくりたい人もいるでしょうが、会社とか、大きな視点で見たら、基本的には儲かるからゲームはおもしろくつくられているわけです。
じゃあその一方で、なんで勉強はだるいんでしょう? 本来だったら、国からしても勉強が楽しいものになったほうが国の利益になりやすいと思うのですが、なんでつまんないんでしょう? この部分にもきっと「思惑」があるはずです。
この「勉強がだるい」ということを逆手に取ってうまくやってるなと思うのが、「N高」ですね。ちなみに、N高の生徒さんっていたりしますか? あ、いる! いいな~。ありがとうございます。
いや、このあいだ、N高を運営するドワンゴの社長さんとラジオでお話しして、「めっちゃ入りたいな」って思いました。N高って、生徒ひとりひとりのペースで勉強できるんですよね。
これまでの学校って、自分が得意なことであっても、みんなと同じ歩調に合わせてやらなくちゃいけなかった。こういうのって、けっこう苦痛なんですよ。
たとえば私、数学がすごい得意なんですけど、学校の授業だと「えっ、もうこの基礎の部分やらなくてよくない?」みたいに思っちゃって、レベルが低い人に合わせてやるのがすごい苦痛だったんです。一方で、社会とかは苦手なんですよ。それを逆にハイレベルな人に合わせてやられるのも苦痛だった。
なかなか「平均的な教育」というのは難しいんでしょうが、N高っていうのはそこをうまく取り組んでいる。学校の「なんかだるいな」っていう部分を「ハック」できていると思ったんです。
思惑ハック、めちゃメリットあります。
この「思惑ハック」ができるようになると、めちゃくちゃいいことがあります。
まず1つ目が「ハックできたら再構築できる」ってこと。「ハックできたらつくり直せる」ってことです。ここは、すごい重要かなと思ってます。
ある中華料理屋さんでチャーハンを食べました。そのときに、そのチャーハンに何の素材が入っていて、どんな調味料で味付けされているかを分解して捉えられたとしたら、家に帰って再現できますよね? 自分でまたつくり直せるじゃないですか。
これってどうやってつくられてるんだろう、と考えることが大切です。チャーハンを「おいしいな」って思うだけじゃなくて、「これ、何が入ってるんだろう? おそらくこういう手順でつくってるんだろうな」って考える。すると自分でもそれを組み立てることができるようになるんです。
それと一緒で、世の中のあらゆるビジネスが「どういう経緯で、どういう思惑でつくられたか」さえわかれば、きっと同じようなビジネスがみんなにもできると思うんですよ、それが同じジャンルじゃなくても。
たとえば、私はいま生理用品の新規ビジネスをやってますが、それをそのままマネするんじゃなくて、じゃあ「靴で同じようなことできないか?」とか「文房具業界で同じことできないか?」とか、その仕組みさえわかれば、それを転用して他の分野でもやれたりするんですよね。
「学ぶ」は「まねぶ」「マネる」ということ。なにかの仕組みを理解して、それをマネて、組み立て直してみるのは、どのビジネスにも参考になるはずです。
人生まるごとが「勉強」になる!!
みんなついてきてます?? ちょっとわたし、一気にガーッとしゃべるんで、わかんないところがあったら手をあげてくださいね。
で、メリット、2つ目ですね。思惑ハックが身につくと、毎日の生活のなかでとても発見が多くなります。
私、すごい好きなのが、この「acure(アキュア)」っていう自販機です。
(画像提供:JR東日本クロスステーション)
JRの駅にあるのでぜひ見てほしいんですけど、いちばん最初に自動販売機をディスプレイ型にしたのが、このacureです。これも思惑を探ってみるとけっこうおもしろい。
なんでディスプレイにしたんでしょう?
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