三田駅(都営三田線、浅草線)、田町駅(JR)から徒歩5分
三田に何を食べてもおいしい韓国家庭料理の店があるんですと、1年前から編集のモトさんに強く推されていた。が、東京の東側に住んでいることもあり、なかなかロケハンに行く機会がとれずにいた三田。
崔順女(チェスンニョ)さんの作るチャプチェをひと口食べて、激しく悔いた。なんでもっと、早く来なかったんだろう! カメラマンの難波さんも目をパチクリさせながら唸る。
「なんなんスかこのおいしさは。僕が今まで食べてきたチャプチェの中でいちばん旨い!」
私もそう思う。日本中食べ比べてはいないが、こんなおいしいチャプチェは人生初である。
火曜日の日替わりランチ。春雨ごはん950円。日替わりは常時2〜3種
コクのある甘みと、ほんのり遠くで酸味もある。春雨自体に深い旨味がしみている。キャベツや玉ねぎ、色とりどりのパプリカはシャキシャキとした歯ざわりで心地いい。それに香ばしいごま油がからんで、かなりの大盛りだが無限に食べられる。いや本当に。
きりりと手ぬぐいを頭に巻き、元気で気さくな順女さんに秘密を聞いた。
「春雨だけ砂糖と醤油と酢で味付けして、最初に20分煮るのよ。そうすると味がしみこむから。野菜は崩れないよう、別にレンジで加熱して最後に炒め合わせるの」
なるほど、それであの歯ごたえか。しかしこのコクは、醤油と酢と砂糖によるものだけだろうか。それに普通のチャプチェと違って、つやつやの光沢も印象的だ。
自家製カクテキとナムルは、定食、日替わりに付く
「つやをよくして旨味も増す意外な食材をもう一つ足すんだけど、それは秘密にしとくね」
いたずらっぽく笑う順女さん。韓国の家庭料理で、チャプチェはよく登場するが、本国でもその食材は使わず、数々の試行錯誤の末に考案したらしい。
じつをいうと秘密を明かしてもらったのだが、順女さんのご努力に敬意を表し、ここでは伏せておきたい。黒色の、韓国料理にも和食にも使わない、思いもよらぬ食材だった。
来日49年。豆絞りがトレードマークの崔順女さん。味付けと調理を担当し、とにかく手早い
ほかにもおいしいものがいっぱいあるんです、とモトさんが熱弁を振るう。
そのすべてが、順女さんの独学とのこと。それどころか開店は17年前、夫・金さんが60歳、彼女58歳である。
夫婦で49年前に来日。金さんは会社の仕事で赴任し、定年まで勤め上げた。
「夫にお願いして、退職金で店を開かせてもらったの。友達から“リタイアしてゆっくり暮らす年齢なのに、経験もない飲食店を始めるなんてとんでもない”ってみんなに反対されたのよ」
孫の保育園の送迎時に見かけた電柱のチラシをたよりに、三田の慶応仲町通り商店街に開店。以来17年、安くておいしい韓国田舎家庭料理・東光は、地元客はもちろん、芸能人から韓国の著名アイドル、俳優まで訪れる名店になった。