cakes編集長が見た衝撃の光景とは?
たしか3年くらい前、二村さんの著書『すべてはモテるためである』を読みました。男性のために書かれた恋愛指南書なのですが、一読して、衝撃を受けました。なぜならば、男がモテない理由として「あなたがキモチワルイから」と書いてあるのです!
過去のいろんなことが思い出されます。たしかに、あのときキョドってた俺って気持ち悪かったよなあ、あのときの話の切り出し方もキモかったなあ、そうだ、あのときのあの視線もいくらなんでもキモかったよなあ……と。
「キモチワルイ」。男なら誰でもびびってしまう、恐ろしいフレーズです。
さらに読み進めると、男のキモチワルさの解消法のひとつとして「キャバクラにいきなさい」とあります。つまり、キャバクラで女性との会話の練習をしろということです。なるほどと思ったのですが、ぼくはそれまでキャバクラに行ったことがなく、ひとりでいく勇気もなく、どうしたものかと思いました。そうしたら、とある宴会で二村さんとご一緒させていただく機会があり、幸運にも連れていっていただくことになりました。
次の週、六本木のバニーキャバクラに、二村さん、他社の編集者、ぼくの3名で赴きました。ああいうお店は、フリーで行くと、いろんなお姉さんが入れ代わり立ち代わり席に来てくれます。ぼくともうひとりの編集者は「何歳ですか?」「普段は何してるんですか?」といった限りなくつまらない会話をしていたのですが、横の二村さんを見ると、めちゃくちゃ盛り上がっています。
まず、相手との距離感がぜんぜん違います。女性が席に座って1分で、親しい雰囲気になっています。わけがわかりません。耳を澄ませて話の内容を聞くと、二村さんのトークのメインは笑いなのですが、相手によっては人生相談までしています。そしてとうとう、泣き出す子まで現れました。深い悩みを告白され、やさしく答えていたら泣いちゃったということなのですが(バニーガールが泣いているというすごい光景でした)、会って15分でそんなことになるなんて!
二村さんがこんなことができる理由を考えると、2つあるんじゃないかと思いました。ひとつめは、経験です。二村さんは仕事がら、すごくたくさんの女性とかなり密度の高いコミュニケーションをとっていらっしゃいます。これはなかなか他の人にはできないことです。そしてもうひとつは、二村さん、女性がほんとうにお好きなのです。ちょっと話してみるとわかりますが、話の内容の9割以上が女性です。女性とのコミュニケーションについて、ものすごく考えています。これだけお好きな人が、これだけの経験をしたら、そりゃあすごい境地に達するだろうなと思いました。
その後、こんどは女性向けの恋愛本『恋とセックスで幸せになる秘密』が出版されました。これがじつに名著で、ぼくはひとにすすめまくっているのですが、「読んだら泣いた」という女性の声、多数です。男性が読んでもおもしろいし、役に立ちます。
これは、「恋愛・結婚・仕事・親との関係」に引き裂かれる現代の女性たちについて書かれた本なのですが、彼女たちは「心の穴」を恋愛で埋めようとする傾向があるというのです。「心の穴」とは何か、「恋」と「愛」とはどう違うのか、どういう男に気をつけたらいいのか、どうしたら自分を肯定できる恋愛ができるのか、といったことも明確に書いてあります。
「この本で書きたかったことを、ひとことで言うと何でしょう?」と二村さんに訊いたところ、「誤解をおそれずに言えば、恋に狂ってる渦中の女性や、自意識過剰で恋愛がうまくできない女性は、男にとっても彼女自身にとってもウザい。めんどくさい。そのウザさを、なんとかしようということです」との答えが。
「めんどくさい」。これもまた恐ろしいフレーズです。「めんどくさい」「ウザい」「重い」は、女性がいちばん言われたくない言葉のひとつではないでしょうか。
キモい男と、ウザい女。……すごい組み合わせになってしまいました。
ぼくたちはみんなキモく、ウザいのかもしれないわけです。となると、ぼくたちは、いったいどうしたらいいんでしょうか? どうしたらわかりあえ、幸せになれるんでしょうか?
長いまえがきでしたが、この連載では、そんなことを二村さんにうかがっていきたいと思います。
初対面のキャバ嬢は、なぜ自分の恋愛を語り始め、
そして泣きだしたのか?
こんにちは、二村ヒトシといいます。
連載の最初ですので、簡単に僕自身の話から。僕は22歳ごろからアダルトビデオに男優として出演するようになって、その後は監督をずっと続けています。これからcakesで、僕がこれまで考えてきた【恋愛とセックス】にまつわる話をさせていただこうと思っています。
読者の皆さんのなかには「AV監督がセックスそのものを語るのはわかるが、なんで恋愛の話まで?」と思われる方もいるかもしれません。
僕は、心理学を勉強した恋愛カウンセラーではありません。
ただ、【性の商品化】で25年以上ごはんを食べてきて、女性の感情・思考、女性と男性の関係について、いろんなことを、ぐだぐだ考え続けてきました。
考えるだけじゃなく、もちろん僕は女性を見るのも、女性に触れるのも大好きです。24時間365日ずっと女性のことばかり考えてるといっても過言ではないとまで言うと大げさですが、しかしまあ他に考えるべきこともあまりないしね、というようなかんじで生きてきました。
加藤さんが僕の紹介文として書いてくださったキャバクラでの出来事なんですが、べつに飲みにいくたび毎度そんなことが起きているわけではありません。
しかしまあ、たしかに年に3〜4回は初対面かそれに近い女性が僕の前で、とつぜん【自分語り】を始めたかと思うと泣いている、ということがあります。そういうふうに仕向けているのは僕であるのはまちがいないので、いったい自分が「どういうことをしているのか」を考えてみます。
僕はアダルトビデオのキャスティングをするとき、候補である女優さんとまず面接し、時間が許すかぎり話をするようにしています。
それは僕が「女優さん本人がエロいと思うセックス、やりたいセックスを演じてもらうのが、いちばんエロいものが撮れる」と考えているからです。「僕が考えるエロ」と「女優さんが、やりたいセックス」のすりあわせができてないと脚本を書くことができない。
それは僕だけじゃなく、僕が「エロいものを撮る人だ!」と思う何人かの監督さんは皆そうしてると思うんですが、ほとんどの(さほどエロくないと僕が思うAVを撮ってしまう)監督は、それをしないようなのです。
下ネタを語ってもらうことは、愛について
語ってもらうことと同義である
なぜかというとAV制作で要求されるのは「男性の欲望が映像化できてるかどうか」だけであることが多い、つまりAV女優というのは【男性の欲望】を具現化したり【欲望】の対象にされたりする「だけ」の存在なのだと考えてるプロデューサーが多いから。
もちろん【ちゃんと男性の欲望を具現化すること】にも表現力やカラダの説得力は要りますから、それはそれで大仕事なんですが、僕には「それだけ」のものがエロいとは思えないのです。だって「女の欲望と男の欲望とがカラミあって、それで初めてエロ」ってもんじゃないですか?
すみません、余談が長くなりました。とにかく僕は「僕がエロいと思えるAV」を撮るため、女優さんと「どんな相手と、どんなセックスをしたいか」そして「なぜ、そういうセックスをしたいと思うか」をオープンに、ざっくばらんに話しあうことに慣れています。慣れてしまいました。
で、そういう話をしてると「どういうふうに愛したいのか、どういうふうに愛されたいのか」「なぜ、そういうふうに愛されたいと思うようになったのか」という話になっていきます。これは、たいてい彼女の子供のころの話、親との関係で満たされなかったことの話にまで及ばざるをえません。
女性にとって【したいセックスのスタイル】と【愛されたい、愛したいスタイル】と【彼女の人生】は切り離しようがないからです(ほんとうは「男性も」そうなんだと思います)。
で、そういう話を僕は「仕事だから、してる」んじゃなくて「そういう話が好きだから、仕事にしてる」んですね(いま、書いてて気がつきましたが)。だからキャバクラとか行きつけの飲み屋とかで初対面かそれに近い女性とでも、気がつくと、してるんです。
僕にとって【下ネタを語ってもらうことは、愛について語ってもらうことであり、それは人生を語ってもらうことになっちゃう】のです。愛しかた愛されかたというのは、つまり「理想の」それであり、いままでの経験で「いちばん悲しかった、つらかった」それであり、あるいは「いちばん嬉しかった」それの話にもなったりします。
わりと、人は「どんなセックスがしたいか」を語ることで「どんな【自分の心にあいた穴】を埋めようとしてるのか」を語ってしまって、それで泣いてしまったりすることがあるようなのです。
それで泣いちゃった女性と僕が、その後どうにかなってしまうのかというと、あまり、なりません。こちらは「泣いてる女はキレイだな〜」とか思って眺めてるんですが、泣く人は泣き終わるとケロリとして、だいたいどこかへいってしまいます。後々めんどうくさいことになるのは初対面のときには泣かなかった人々だな……。
ところで、この連載は「こんな男はキモい」とか「こんな女ってウザいよね…」とか、あげつらう面白記事にはならないと思います。キモい男とは【まともに恋愛ができない僕】であり、ウザい女性とは【恋をしてしまった私】のことである。
加藤さんの言葉を借りますと、そんな【キモい僕】と【ウザい私】が愛しあって幸せになることは可能なのかどうか、そして「どうして現代の恋愛は、こんなにむずかしいことになっちゃったのか?」を一人のAV監督がクソ真面目に考えていく連載になる予定です。cakesではちょっと場違いかもしれないんですが、どうかよろしくお願いします。