​尾身茂会長に向けられる放言

オリンピック開幕まであと四十数日となりました。政府の新型コロナ対策分科会・尾身茂会長は「今の状況でやるのは普通ではない」と発言、近く五輪に対する考えをまとめる意向を示しています。これに批判的な言葉を漏らすのが、同じ政府の関係者やそれに近しい人たち。この状況について、武田砂鉄さんはどう見ているのでしょうか?

「専門家に聞いた上で」

この原稿を書いている時点で最新の菅義偉首相の記者会見は、5月28日。この日の会見も、隣に、新型コロナウイルス感染症対策分科会・尾身茂会長が寄り添っていた。何度か、「尾身さんもよろしいですか」「先生、御意見はございますか」(首相官邸ウェブサイトより)と、首相自ら尾身に追加説明を促した。促された尾身は、菅とは異なり、手元の想定問答集に頼らずに淡々と答えていく。

この1年半、前任の首相も含めて、政府首脳から、とにかく繰り返し「専門家の先生に意見を聞いた上で判断したい」との言い回しを聞いてきた。この言い回しが登場するのは、いつまでに何をするのか、何がどうなったらこれを解除するのか、と記者や野党議員から具体的に問われた時が多い。つまり、明確な回答を避け、なんとか曖昧なままにしておきたい時、「専門家に聞いた上で」が活用されてきた。

丸ごと背負わされる

記者会見での応答っぷりを比較して、SNS上では「尾身総理」「菅官房長官」なる言い方まで飛び交うが、感染症の専門家がその時々の状態を正確に伝えるのは職務として当たり前なのだから、その言い方にひとまず慎重になってみる。英雄視する必要はない。では、この日の会見で、菅首相が「尾身さんもよろしいですか」と促したときの質問内容とはなんだったか。共同通信の記者が、緊急事態宣言を6月20日まで延長する結果となった原因や理由は何かと聞いた結果、「尾身さんもよろしいですか」とバトンタッチしている。

首相の答えは、「十分な時間を取って、知事の要請や専門家の意見も踏まえて、延長を判断いたしました」などと曖昧だった。その一方で、尾身会長は「3点あります」と具体的に列挙している。正確に補足する役回り、というよりも、ふわっとぼんやりとしか伝えてくれなかったことに輪郭を与える役回りである。すっかりこの流れに慣れてしまったが、これって本来、専門家の役割ではない。方針を述べた首相の見解に、専門家ならではの見地を補足するのではなく、丸ごと背負わされているのである。自分で答えるべきところまで、専門家に答えさせているのだ。

「自主的なご研究の成果の発表」

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ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜

武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

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コメント

kawac 「専門家の御意見を」という責任スルーパス -​ 尾身茂会長に向けられる放言|武田砂鉄 @takedasatetsu | 2日前 replyretweetfavorite

moraMOR18678000 オリンピックって、だれのために必要なのか? まずはここから始めないとあかんのかも…。 この国はどこへ向かっているんやろう? 備忘のために。 https://t.co/Et5uwixsMK 3日前 replyretweetfavorite

kannindosue03 尾身茂氏の発言を「保身の為」とか言っている人がいますが、全くもって稚拙な思考だと私は思います。「安心安全」を繰り返し答弁する人と一緒にしてはいけない。 https://t.co/Nh3PQwyFum 3日前 replyretweetfavorite

estoynaomiendo 尾身茂会長に向けられる放言|武田砂鉄 @takedasatetsu | 3日前 replyretweetfavorite