己汶(こもん)・帯沙(たさ)をめぐる争い②
八年正月、皇太子の后カスガヤマダは、朝遅くなって現れいつもと様子が違っていました。
皇太子は不審に思って、宮殿に入って中を見ると、妃は床に伏して泣きじゃくり、嘆き、堪えることができない様子でした。
皇太子はいぶかって、
「今朝泣いていたのは、どんな心配があるのか」
と尋ねました。
妃は、
「悲しんでいる理由は、ほかでもありません。
空を飛ぶ鳥も、子を愛しみ養おうと梢に巣を作るのは愛情が深いからです。地を這う虫も、子を守ろうと、土の中に穴を作るのは、守ろうという気持ちが厚いからです。
まして人として、考えないではいられません。
跡継ぎのない恨みは、皇太子に集まります。私の名もやがて消えてゆくでしょう」
と言いました。それで皇太子は嘆き心を痛めて、天皇に話しました。すると天皇は、
「わが子マロコよ、お前の妃の言葉は深く理にかなっている。ばかばかしいと放っておけないし、その気持ちを受け止め慰めずにはいられない。
匝布屯倉(さほのみやけ)※1を与えて、妃の名を万世まで伝えよ」
と言いました。
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