「逃げる」「忘れる」の繰り返し
自分の連載枠を活用して新刊のプロモーションをしてしまおうという、年に1回くらいやる手口が今回の原稿である。雑誌「文學界」で連載している時事コラムから厳選し、大幅に加筆・改稿した一冊『偉い人ほどすぐ逃げる』(文藝春秋)が発売された。5年分の連載をまとめるとなると、題材的に古くなるかと思いきや、原稿を取捨選択しながら「偉い人ほどすぐ逃げる」という一本の線を通せることにすぐに気づいた。とにかく、その繰り返しだったのだ。問題が発覚する。問題視される。不十分な言い訳をする。それでは足りないと再度迫る。もう一回かわす。さらにもう一回迫る。これを繰り返していると、いつまでそんなことやっているんですか、みたいな空気がなぜだか出来上がり、そうこうしているうちに次の問題が浮上してきて、いつの間にか忘れ去られる。
みんなが「知らない」と言っている
この流れが数ヶ月に1回繰り返されたのがこの5年間だった。新型コロナウイルスの感染拡大がなかなか止まらないが、国を動かす人たちとのコミュニケーションが不十分だと感じている人は多いはず。正直、よっぽどあちらに反省してもらわないと、信頼関係を改めて構築するのは難しいと考えているが、どうやらあちらから構築し直すつもりはないようで、うまく抑えこめたら自分たちのおかげ、そうではなかったらあなたたちのせい、という好都合な姿勢が続いている。
先週1週間を振り返ってみるだけでも、偉い人が逃げた案件がいくつも頭に浮かぶ。2019年、参議院選広島選挙区で当選した河井案里議員に、自民党本部が提供した1億5000万円の支出をめぐり、二階俊博幹事長と当時の選対委員長だった甘利明がいずれも関与を否定した。その後、二階は自分に向かう苦言を抑えるためなのか、責任は当時総裁だった安倍前首相や幹事長の自分にあるとの見解を出したが、それ以上は踏み込まない。他の議員と比べて10倍となった支出について、幹事長と選対委員長が詳細を語らない。ちなみに、選挙当時、河井の広報チラシに「だから河井あんりさん」と銘打って登場していたのが、二階幹事長、安倍晋三前首相、菅義偉首相である。誰も知らないはずはないのだが、このようにして、話題に上らなくなるのをじっと待ち続ける事案があまりにも多いのである。