その他大勢に甘んじるのは危ない
世の常識というものに従って生きている人たちは、ウォシャウスキー兄弟姉妹監督の映画『マトリックス』に登場する、エージェント・スミスになりつつあるように感じる。エージェント・スミスとは、電脳空間“マトリックス”の監視や破壊行為の防止のために存在している、人間型ソフトウェアだ。
解放を求めて戦いを挑むレジスタンスたちを排除する役割を持っている。覚醒した主人公ネオの敵となり、マトリックスの秩序を守ろうとするのだ。
ネオと、エージェント・スミス。観客が感情移入しやすいのは、ネオの方かもしれないが、どちらが正義で、どちらの方が幸せなのか?と問われると、答えは分かれるのではないか。
ネオのように世界の規範を打ち破って、革命的に生きていくことが、必ずしも正しい!とは言えないだろう。
長引く不景気と就職氷河期以降、現実社会では、常識に黙って従うエージェント・スミスの側のマインドの人は、確実に増えている。
古くからの大きなシステムに逆らわず、伝統的なルールを正義として、異物を排除することで安心感を得ている。その勢力は、不用意な発言をした著名人をSNSでつるし上げ、謝罪を強要したり、最悪は自死に追いこむ事件を多発させている。
現代のスミスたちは、ネットの世界で歪なポピュリズムを形成しているようだ。
リアルでは行動せず、ネットでの憂さ晴らしが安らぎという、エージェント・スミス寄りの生き方は、愚かでも悪でもない。いまの時代、生活コストは格段に安く抑えられる。苦労してお金を稼がなくても、飢えずにそこそこ暮らしていける。多様なレジャーも安価に提供されていて、行動する意欲さえあれば、財布は軽くても退屈はしない。スマホアプリを使ったゲームやイベント、クリエイションはひと昔前だったら、富豪にしかできなかったような遊びだ。
常識の管理の下で、人は何不自由なく、ラクに暮らしていけるのだ。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。