旅烏の悲しみ

【第22話】古典作品をボーイズラブ化した大好評シリーズ『BL古典セレクション』待望の新連載!「海道一の親分」として明治初期に名をはせた侠客、清水次郎長。その養子であった禅僧・天田愚庵による名作『東海遊侠伝』を、作家・町田康が自身初のBL作品として、圧倒的な鮮やかさをもって現代に蘇らせる。月一回更新。

 小遣いを貰いに行った人足部屋で、仁義を笑われたのが切っ掛けで睨み合いになった次郎長、熊五郎。一触即発、今にも喧嘩に成りそうな危ない気配だが、ナアニ、喧嘩と云ったって向こうは三十人、こっちは二人、端から喧嘩になんぞなりっこない、ただムッチャクチャに撲られるだけに決まっていて、それがわかるから次郎長も熊五郎も内心では、

 まずいことになりゃあがった。

 と思っている。けど笑われて引き下がる訳にはいかないから、

「やかましいやいっ、文句あんなら来いっ」

 と口では威勢のいいことを言っている。


 と、そう言われれば気の荒い人足のこと、

「この野郎、いきなり入ってきてなにをぬかしやがる。おいみんな、かまうこたねぇ、畳んぢまえ」

 という訳で、一斉に撲ってかかる。といって次郎長だってただただ撲られちゃあいない、わあー、と殴りかかってくるところ、一番、前に居た奴の顔目がけて、ぐわーん、と頭突きをくれた。

 こっちは大勢、向こうはふたり、と油断していたから躱す間もない、マトモに次郎長の石頭を食らって、バキッ、と歯が折れ、グニャ、と鼻が曲がって、真っ赤な血が、パアッ、と飛び散った。

「ああああー」

 てってのめったところ、「この野郎」と胸倉摑んで押し倒して馬乗りになってポカポカ撲った。

 とそこまではよかったがなにしろ向こうは大勢だ。

 あっと言う間に後から引き倒されて、こんだ次郎長が寄ってたかって撲る蹴る、さんざんに痛めつけられて、

「あー、このままだと死ぬな」

 と思ったところ、

「なんなの、やけに騒がしいじゃないのさ」

 と入ってきた男があった。

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BL古典セレクション 東海遊侠伝 次郎長一代記

町田康

古典作品をボーイズラブ化した大好評シリーズ『BL古典セレクション』待望の新連載!「海道一の親分」として明治初期に名をはせた侠客、清水次郎長。その養子であった禅僧・天田愚庵による名作『東海遊侠伝』を、作家・町田康が自身初のBL作品として...もっと読む

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