※この記事の情報は、『週刊東洋経済』2017年7月10日発売当時のものです。
サラ金より「ヤバい」銀行カードローン
今年62歳になる東京・世田谷区在住の山口明子さん(仮名)はその日、わらにもすがる思いで三菱東京UFJ銀行の支店に足を踏み入れた。
まさかこの大銀行が、消費者金融2社からの借金で破綻寸前の自分にカネを貸すとは到底思えなかった。しかし3月23日の時点で、アコムとプロミスからの今月分の返済期日が8日後に迫っており、ほかに手立てはなかった。
返済資金を工面するべく、別の消費者金融にも掛け合ったものの、融資は下りなかった。2年前に勤め先を定年退職してからも契約社員として働くことはできていたが、月収は8万円に激減していた。貸金業法上、消費者金融では年収3分の1超は借りられない「総量規制」という規則がある。山口さんは消費者金融2社からすでに200万円を借りていた。
「三菱東京UFJ銀行のカードローンはダメ元でした」と山口さんは振り返る。だが銀行は即日で限度額20万円、年利14%での融資を決めた。
その日行ったことといえば、小さな無人のブースの中で個人情報を記入し、免許証のコピーを送り、希望する融資額を伝えたことぐらいである。収入証明書の提出も不要だった。1時間ほどで「審査を通りました」との回答とともに、ブースの自動出し入れ口からカードローン用のカードが押し出され、こう説明された。「すぐにご利用いただけます」。
「まるでサラ金みたいだ」。あまりの簡単さに山口さんはそう感じたという。銀行といえば融資に難渋なところというイメージがあっただけに、意外だった。
現在、彼女は借金の任意整理中である。「3月危機」を乗り切った直後、これでは返す当てのない借金ばかり膨らんでしまうのではないか、そう冷静になって、司法書士の元を訪ねたのである。
銀行が個人に無担保で貸す銀行カードローンの急拡大が、過剰融資、多重債務の新たな温床になっているとの疑念を生んでいる。金融庁は事態に目を光らせ、銀行業界は広告宣伝抑制や審査体制の見直しを迫られている。
「今やサラ金よりひどい」と、全国クレサラ・生活再建問題被害者連絡協議会の秋山淳事務局長は話す。「サラ金で融資を断られるようなひどい信用状態の人が銀行カードローンに救いを求めるという、逆転現象が起こっている」。
秋山氏が最近相談を受けた50代女性の事例では、5社からの借入総額が210万円になっていた。空運会社の非正規従業員だった彼女の年収は110万円。年収を超える借金を抱えた最大の要因は、山口さんと同様、銀行カードローンにあった。借金のうち120万円は銀行3行からのものだった。しかもそのうち2行は、消費者金融からの融資を断られて以降も貸し増しを行っていたという。
奇妙な大盤振る舞いは融資額の大きさにも表れている。消費者金融では、初回の顧客に対しては一般に15万~20万円程度の少額しか貸さない。まずは様子見程度の融資から始めて、現実に返済できているかどうかを見極めながら徐々に50万円、100万円へと金額を増やしていく。
100万円超の一括融資 詐欺グループも悪用
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