わかりやすく伝えるために、相手にぴったりの表現を選ぶ
相手に合わせる---。
これが、わかりやすく伝えるために、最も大切なことです。
わかりやすく説明するには、『誰に』『何を』伝えるのかを明確にすることが最重要です。本来、言葉自体に難易度はありません。相手が知っている言葉であれば「簡単な言葉」、知らなければ「難しい言葉」になるのです。
そういう意味で、相手に分かる言葉を伝えることが重要で、そのために考えなければいけないのは、「そもそも相手は誰か? 『誰に』伝えるようとしているのか?」です。これこそ、伝え方の「第一歩」であり、伝え方の「奥義」でもあるのです。
同じ言葉を投げかけられても、そこからイメージするもの、連想するものは、人はそれぞれ違います。
ひとりひとり、内容を理解しやすい言葉、わかりやすい表現や伝わりやすい言い方・書き方は違うのです。ひとりひとりにあわせて、「言葉」を置き換え、「論理の行間」も調整しなくてはなりません。すべて相手に合わせた表現で行うべきなのです。
では、どうすれば「相手に合わせる」ことができるようになるのでしょうか?
答えは、ひとつです。
相手に興味を持ち、相手を知り、相手になりきる---。
これが唯一の方法なのです。
これで、相手にぴったりの表現を選ぶことができます。そして、相手にぴったりの表現を選ぶことができれば、わかりやすく伝えることができるようになります。
相手に合わせるために、相手のことを知る
この連載では、伝えるための前提や、伝え方の公式「テンプドレップ」をお伝えしてきました。ここまでマスターすれば、伝え方の基盤が身につきます。「あなたの説明はわかりづらい!」と言われることはなくなります。
また、"表現の柔軟性"を身につけ、言葉を複数に言い換えることができれば、相手が知らない言葉やテーマも伝えることができます。ここでみなさんは、多くの「カード」を身につけるわけです。
手持ちの「カード」が増えれば、様々な表現ができます。相手に伝わっていなければ、別の言葉・表現で言い直すことができます。このようにすることで、やがて伝わるのです。
そしてここからが真骨頂です。「相手に興味を持ち、相手を知り、相手になりきる」ことで、その場その場で、目の前の相手にとってベストな表現を、すぐに選ぶことができるようになるのです。
なぜか? 相手のことがわかるようになるからです。
「この人にこういう言い方したら伝わらないだろうな」
「あ、この部分の話は馴染みがないだろうから、『行間』を開けずに、丁寧に説明しないとな……」
このように思えるのです。
そもそも「わかりやすい伝え方」は宇宙の絶対真理でひとつに決まっているものではありません。
「誰にとってもわかりづらい伝え方」はあるかもしれません。しかし、「誰にとっても、絶対に、100%わかりやすい表現」というものは存在しません。ある人にはわかりやすくても、なかにはそれを「わかりづらい!」と感じる人もいます。
その「わかりづらい!」と感じる人の割合を減らすためには、この連載の前半部分で解説したテクニックが非常に有効です。
そして、ピンポイントで、「この人には伝えたい」と考えた時に必要なのが、「相手に興味を持ち、相手を知り、相手になりきること」なのです。
「論理の行間」についても同じです。
相手を知らなければ、どの程度、話を端折っていいかもわかりません。説明を端折っていいのは、相手がそれを知っているからです。皆さんがいろんなところでその話をしていて話し飽きたから、ではありませんね。
相手が知らない話をするときには、話を省略するどころか、「論理の行間」を狭めて話さなければなりません。逆に、わかりきっていることをくどくど説明してしまっても「わかりやすい」とはなりません。わかりやすく伝えるためには、相手に合わせなければいけません。そして相手に合わせるためには、そもそも相手を知らなければいけません。
「相手に興味を持ち、相手を知り、相手になりきる」ことが、絶対に必要なのです。