最近この『パリジャン十色』の連載では、私のフランスでの不妊治療を経ての妊娠、出産にまつわる実体験レポートを綴っています。
事前の情報収集と、予想をはるかに越える出来事の連続で、心身ともにズタボロになって、パニック発作まで起こしてしまったトラウマ体験をこれまで紹介してきました。
今回は、7日間の出産入院を終え、生まれたてホヤホヤの赤ちゃんを家に連れて帰ってからの目まぐるしい新生活と、そんな怒濤の日々のなかで私にかけられた、一生忘れられないほど記憶に残った「ふたつの言葉」について書いてみようと思います。
その言葉は、私が出産直後から失いかけていた自分を取り戻させてくれ、また、今後の子育てにおいてとても重要な心がけに気づかせてくれるものでした。
怒濤の新生活
小さく、か弱い赤ちゃんのお世話は「一体これからこの生き物を死なせないためにどうやって乗り切ったらいいんだ!?」と、つねに心底不安で仕方がないものです。しかし、そんなことを考えて立ち止まっている暇はありません。
言葉を話せない赤ちゃんが泣くたびに、何を伝えようとしているのか慌てて探り、あやしたり、授乳したり、オムツを替えたり……という、まったく新しいルーティーンの生活がスタートしました。
少量ながらもなんとか授乳が軌道に乗り始めたとはいえ、3時間ごとの授乳が続き、慢性的な疲労が消えない日々。しばらくは「あれ? 地球の重力ってこんなに強かったっけ!?」と思うほど、自分の身体に尋常でない重さを感じて、ベッドに倒れ込むような不調も表われました。
出産後の身体は「交通事故に遭った時と同じくらいダメージを受けている状態」と例えられることもあると聞きました。しかし、そんなボロボロの体調で無理はしちゃいかんと思いつつも、じっと寝てるばかりではいられないのが産後です。
そのうえ、分娩時に切開されたお股の傷はあいかわらず痛いし、いつの間にか解けて消えると言われていた傷口の糸も、1ヵ月経っても、糸が解けきれないままでした。結局、傷口が突っ張る感じが続いたので、病院で局部麻酔をしてもらっての抜糸という試練に挑むことになりました(これまた局部麻酔がまともに効かずに痛みで泣きました!)。
一方の赤ちゃんは、ある深夜、何をどうやっても泣き止まなくなってしまったので、緊急病院へ連れて行くこともありました(飲み慣れないミルクの消化不良が原因だったようで、お薬で解決)。あまりに毎日必死だったので、いまではこの最初の1ヵ月の記憶は、ぼんやりとしか思い出せません。
わからないことばかりに日々遭遇するので、フランス語の子育て本を慌てて買ってみたり、何かあるたびにしょっちゅうネット検索していました。
日仏の子育て方法は微妙に違っており、ネット情報もいまいちどれを選択&信用していいものか悩み、日本にいる同級生の友人や、子育て先輩の妹にすがる思いで、SNSやメッセージを通して相談しては実践する日々を過ごしました。
こんな非常事態の連続の中、ハッと私を正気に戻してくれる言葉がふたつありました。
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