♪『東京電脳探偵団』はこちらから聴けます♪
確かに依頼は来なかった。依頼人が訪ねてくることもなければ電話の一本も鳴らない。
レンは探偵事務所を開くにあたって、嬉々としてポスターをコピーして街中に貼ったものだ。
〝企業信用調査、素行、浮気調査、人探し、買い物代行、引越し手伝い、部屋の掃除、草むしり、なんでもやります!〟
後半は探偵というより便利屋だが、とにかく金がもらえるならなんだってやらなければ、というレンの覚悟の現れなのだ。
「じゃあ、あたしがひとつ、レンくんにお仕事を依頼しちゃおっかなー」
「えっ」
リンはテーブルの上に転がっている個別包装の一口チョコをつまむと、親指でピーンと弾いた。チョコは一直線にレンの方へ飛んでいって、彼の右手の中に収まった。
「ハイこの部屋掃除してー。今すぐー」
一瞬でも期待してしまった自分がとても惨めに思えた。
「そんなの自分でやれよー。てかチョコ一個て安すぎだろ」
「えー仕事選り好みですかー? ちょっと覚悟が足りなくなーい? なんでもやるってポスターに書いてたじゃーん」
「そりゃ書いたけどさ……」
「給料払うんだからいーじゃん、チョコ建てだけど。なんならもう一個ほら」
リンは二個目のチョコをレンに投げた。
「なんだよ。結局いっつも俺ばっかり掃除してんじゃねーかよ」
ぶつくさ言いつつもレンは取り落としたチョコを拾う。
「他に取り柄ないんだから、掃除くらいして役に立ってー」
言いながらリンはお菓子の包み紙をポイポイ床に放つ。
「さっさと始めないとどんどんゴミを散らかしちゃうわよ、あたしが」
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