♪『東京電脳探偵団』はこちらから聴けます♪
「違うね。ぜんぜん違うよ」
三段重ねの鏡餅に蜜柑を乗っけたような体型のオバチャンは、体に見合ったデカイ目をギョロつかせてレンの抱えた猫を一瞥(いちべつ)するなり、にべもなく言った。
「あんた、ちゃんと写真見たんだろうねえ? うちのショコラちゃんはね、もっと品のいい顔してるし、こんなに毛並み悪くないんだよ。しっかしよくもまあこんな似ても似つかない薄汚い猫を連れてきたもんだね」
アパートのドアを半開きで応対しているオバチャンは、不機嫌そうにタバコの煙を両の鼻の穴から勢い良く噴き出した。ケーキの名前のついた猫なんてよくいるし、女の人の一人暮らしなんて別に珍しくないが、一人暮らしで飼い猫にスイーツの名前をつけるような女は終わってる、と誰かが言っていたのを思い出す。それくらいこのオバチャンの物言いも態度も見た目も、まさに終わってる感じだった。
そんな風に考えていることはおくびにも出さず、レンは眉をハの字に寄せた上目遣いでオバチャンを見ている。まだ身長の伸びきっていない彼は、大柄なオバチャンを見上げる形だ。厚化粧でも隠せない吹き出物だらけのオバチャンの顔は、オレンジ系のチークを塗りたくってるせいもあってか本当に蜜柑のようだった。
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