深夜薬局

ちょっと休んでいきなよ」タメ口で伝えるメッセージ

新宿・歌舞伎町に夜間だけ営業している「ニュクス薬局」。人には言えない、相談もできない。そんな、いろいろな事情を抱えたひとびとが訪れています。ここははたしてどんな薬局なのか。訪れる人が絶えない理由は、いくつかのキーワードにありました。今回はその第5弾。ライターの福田智弘さんがくわしくお話しを伺いました。好評発売中の『深夜薬局』より特別公開します。

かかりつけ

ちょっと具合の悪いとき、「病院に行くほどじゃないけど、ちょっと相談してみるか」と気軽に通える「かかりつけ薬局」のような存在。それがニュクス薬局だ。多くのひとびとにとって、とくに夜の街ではたらいているようなひとびとにとっては、なくてはならない貴重な存在だといえる。

しかし、この地域密着でなんでも相談できる「かかりつけ薬局」というのは、じつはもともと特別な存在ではなかったという。
それが本来の薬局の姿であり、最近、国もその方向に戻そうとしているという。

「もともと薬剤師っていうのは、町の科学者みたいな存在でね。ちょっとなにかあったら相談に行く場所って感じだったらしいですよ

しかし終戦後、GHQが医薬分業に乗り出し「相談と診察は医者、薬の提供は薬剤師」と役割をきっぱりわけた。
すると、医療機関があらたに開局する際には、そのまわりにいくつもの門前薬局ができるようになった。薬局は「相談できるところ」から「処方箋どおりにただ薬を出すところ」へと変わった。つまり、「地域のかかりつけ薬局」ではなく、「薬を買いに行くときにだけ必要な場所」となってしまったのだ。

しかし、わざわざ病院に行かなくても市販薬だけで解決できる症状はたくさんある。
「風邪薬くらいなら、正直、市販薬も処方薬もほとんど変わりませんからね」
ただし、素人では、それが判断できない。「市販薬で大丈夫なのか?」「どの市販薬が効くのか?」そもそも「医者に行くレベルなのかどうか?」

そこを薬剤師という専門家がフォローする。気軽に相談できる「かかりつけ薬局」があれば、じゅうぶん事足りるのだ。医者に行かないでも済む症状であれば、順番を待ったり具合の悪いひとに混ざって診察を受けたりするよりずっといい。その選択がもっとあたりまえになれば、医療費だって抑えられるだろう。国が、「かかりつけ薬局」のようなものを増やしたい、と考えるのは、そういう事情もある。

そういった意味では、ニュクス薬局は「昔ながらの薬局らしい薬局」だと言える。処方箋の薬も出してもらえるし、市販薬も選んでもらえるし、ちょっとした相談もできるのだ。
中沢さんと会話を交わすことで気も晴れるし、風邪だって早く治るような気がする。

「プラセボ」という言葉がある。
「薬ですよ」と伝えて、なんの薬効もない乳糖を与えると、実際に薬を飲んだときのように身体が回復する。「薬を飲んだ」って考えるだけで元気になれる。この「思い込み効果」のことを「プラセボ」という。
「それくらい、こころと身体はつながっているんです」
と中沢さんは言う。

ニュクス薬局は、「プラセボ効果」のある薬局なのかもしれない。だから、たくさんの常連がいるのだろう。そのためにも、プラセボで元気にするためにも、患者やお客さんと対話することは薬剤師に欠かせない大切な仕事なのだ。

いまは残念ながら、門前薬局は言わずもがな、地域のドラッグストアもあまり「まず相談する場」になっているとは言えない。
薬剤師が常駐しているのだから
「鼻水が止まらないんです。熱はなくて、でも頭痛は少しあって」
といった相談はできるはず。……しかし、実際はあまりそれはうまくいっておらず、基本的に「たくさんの商品ラインナップから自分で選ぶ場」となっている。
「綾瀬はるかがCMに出てるやつかあ。よくわからないけどこれでいいや」
といった具合に……。

しかし、症状と成分が合っていなければ、当然ながらその薬は効かない。いまの自分の症状に、その薬が合っているかどうか、素人ではわからない。ましてや15秒のテレビCMを見ただけで、わかるはずがないのだ。

「せっかく薬買ったのに、ぜんぜん効かなかったんだよね。やっぱり病院行ったほうがいい?」
とニュクス薬局に来る患者さんもたまにいる。

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深夜薬局

福田智弘

新宿・歌舞伎町。このネオン街の一角に、小さな薬局があります。「ニュクス薬局」。営業時間は夜8時から翌朝9時まで。薬剤師はたった一人。訪れるのは、親からの虐待を告白する多重人格の女性やコロナ禍で生活苦を訴える風俗嬢、「眠れない」とあせる...もっと読む

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