「人生の機微」とは
数年前、JUJUのライブを観て原稿を書く機会があり、ライブ中、手元のノートに殴り書きしておいたメモを帰りの電車の中で見返していると、隅っこにミミズのような字で「ひゆず」と書かれていた。数駅分悩んだ結果、「ひゆず」は「非ゆず」だと思い出した。「〝ゆず〟ではない」という新しい言語は、その数ヶ月前に同会場で観た「ゆず」との比較だった。ぼくたちにはみんな分け隔てなく太陽の光が当たるのだから、みんなで手を取り合って前へ歩いていこう、といった感じで、どこまでも晴れやかで真っ直ぐなのに、自分にはどうにもメッセージが刺さらなかったゆずに対し、JUJUは、常にどこか曇りがかっていた。曇りがかっているのに、メッセージはそのまま体に刺さってきた。その感じを「非ゆず」と名付けていたらしい。
驚いたのはJUJUのMCの巧さだ。始まってすぐに、客席に向けてただ挨拶するのではなく、「うちの祖母が言ってました、挨拶が大事って……」と静かにつぶやきながら、「○階席のみなさま、こんばんは」と続けて笑わせる。ジャズに特化したコーナーでは、ジャズには色んな事を教わったけど、私がジャズに何を教わったかと言えば「人生の機微」だという。機微って、他人とそう簡単に共有できそうにない。気持ちを一つに、ではなく、私とあなたは一緒ではない、でもなく、ただどこかに佇んでいる感じに、なかなか味わった事のない質感だな、と感じたのを覚えている。
心地よい高笑い
数ヶ月前、この連載で芸人・ヒロシによる旅番組『迷宮グルメ異郷の駅前食堂』(BS朝日)を取り上げたが、こうして外出を極力制限しなければいけない日々には旅番組をシンプルに選びがちで、JUJUと鈴木亮平による『世界はほしいモノにあふれている』(NHK)も毎週のように見ている。昨年、この番組に出演していた三浦春馬が亡くなるという、胸を痛める出来事があったが、代役を担当している鈴木とJUJUとの掛け合いは当初から馴染んでいる。
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