深夜薬局

保険証で「そのひとの情報がざっくりわかるんですよ」

新宿・歌舞伎町に夜間だけ営業している「ニュクス薬局」。人には言えない、相談もできない。そんな、いろいろな事情を抱えたひとびとが訪れています。ここははたしてどんな薬局なのか。訪れる人が絶えない理由は、いくつかのキーワードにありました。今回はその第4弾。ライターの福田智弘さんがくわしくお話しを伺いました。好評発売中の『深夜薬局』より特別公開します。

保険証

「じつは保険証ってね、ボールを投げるヒントになるんです」
と、中沢さんは言う。
そのひとの情報がざっくりわかるんですよ。知ってました?

どんな情報がわかるのだろうか? 
まずは、保険の種類。「国民健康保険」か「社会保険」か、で仕事の種類がわかる。
また、よく見ると、はたらいている「本人」なのか、「扶養家族」なのかも保険証にはしっかりと書いてある。

「夜の仕事のひとで多いのは、個人事業主が入る『国民健康保険』で、かつ『扶養家族』。20代半ばのひとでこれに該当していたら『夜の仕事かな』とアタリをつけます。
会社員だと『社会保険』の『本人』になりますから」

「あとは『保険者番号』の左端の数字ですね。中小企業だと01。06は組合があるところなのでしっかりした大企業が多いとか、いろんな情報が得られます」
そのほかにも、「番号」欄に書かれた数字が「1」だと「創業者」、といったこともわかるそうだ。

中沢さんは、こうした情報を得て話す内容も変えていく。
たとえば23歳で保険者番号の数字が「01」、番号が「1」だと「若くして自分で会社をやっているんだな」とわかる。それで抗うつ剤が処方されていたら「孤独を抱えているのかな、事業が大変なのかな」と考える。

「そのときは、『事業やってると悩ましいこと尽きないよね』って声をかけたりしますね」

たとえば、いつもメンタル系の処方薬をもらいにくる20代のある女の子は、大企業の「06」の「本人」、つまり日中はたらいている一般的な会社員だという。それなのに、いつも深夜にわざわざ歌舞伎町まで薬を取りに来る。
そうすると、中沢さんは
「残業があってこの時間のほうが都合がいいのか?」それとも
「夜の仕事を掛け持ちでやっているのか?」と選択肢を考える。そこで
「仕事、いつもこんな遅い時間になるの?」と軽く尋ねる

「そうなんです、忙しくて」
と返されたら、激務でメンタルバランスを崩したのかなと考え、
「いや、ちょっとたまたま」
とボカされたら、夜の仕事なのかなと考え、
それに関連する悩みがあるのかもしれない、と推測していく。

そのようにして人物像を探り、ボールを投げていくことが、相手にとってもこころを開くステップになるのだという。

「自分のことを当てられた」
「わかってもらえた」
と思うと、急に距離感が近くなったり、信頼感が増したりするのは、占いと同じだ。

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この連載について

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深夜薬局

福田智弘

新宿・歌舞伎町。このネオン街の一角に、小さな薬局があります。「ニュクス薬局」。営業時間は夜8時から翌朝9時まで。薬剤師はたった一人。訪れるのは、親からの虐待を告白する多重人格の女性やコロナ禍で生活苦を訴える風俗嬢、「眠れない」とあせる...もっと読む

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Saiyo64165036 知らなかった… 約1ヶ月前 replyretweetfavorite