ヲケとオケ、身分を明かす
清寧二年十一月、播磨国(はりまのくに)の国司(くにのみこともち)で山部連(やまべのむらじ)の先祖・伊予来目部(いよのくめべの)オダテ※1は、大嘗祭のために、中央から臨時で派遣されて、明石郡(あかしのこおり)で、自ら新嘗(にいなめ)の供え物※2をしました。
オダテは、たまたま、シジミの新築の祝いに行き合せて、夜を徹しての宴に加わりました。
そのとき、弟皇子ヲケは、兄皇子オケに言いました。
「ここに潜んでわざわいを避け、もう何年も経ちました。名を明らかにして貴い身分を示すのは、今宵をおいて※3他にありません」
オケは心を痛めて、
「自ら身分を明らかにして殺されるのと、身の安全を保って災難を免れるのと、どちらがいいのだろう」
と嘆きました。ヲケは、
「吾らは履中(りちゅう)天皇の孫なのです。それなのに、苦しんで人に仕え、牛馬を飼っています。名を明らかにして殺されたとしても、よいではありませんか」
と言うと、オケと抱き合って泣きました。