大切な予定、穴をあける前に

ここは、カフェ「しくじり」。都会の喧騒を離れ、一見さんお断りの限られた客のみ入店できる会員制のカフェ。
このカフェでの通貨は「しくじり」。客がマスターにしくじり経験談を披露し、その内容に応じてマスターは客に飲み物や食べ物を振る舞う。 マスターの小鳥遊(たかなし)は注意欠如・多動症(ADHD)の傾向を持ち、過去にたくさんのしくじりを重ねてきた。しかし“ある工夫”で乗り越えてきたという不思議な経歴の持ち主。そんな過去の自分と似た「会員」のため、今日もカフェのカウンターに立つ。 そんな奇妙なカフェのお話。

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(カラン、コロン〜♪ カラン、コロン〜♪)

無言で店に入ってくる、常連客のりんだ。

小鳥遊 「おや、りんださん。いらっしゃいませ。元気ないですね」

りんだ 「……小鳥遊さん、またしくじりをやってしまいました。ショックで弱っているので、何か体にいいものを…野菜中心の何かを食べさせてください」

小鳥遊 「承知しました。ちなみに、どのようなしくじりを?」

りんだ 「大事なお客様との面談の予定を忘れてしまったんです」

小鳥遊 「おや、それは大変でしたね。その話、じっくり聴かせていただきますね」

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りんだ 「私が担当している中で1、2位を争う大口のお客様なんです。先月にこちらからお願いして、新製品のご紹介の面談の時間をいただいたんです」

小鳥遊 「いい関係をお持ちなんですね」

りんだ 「それが、その面談の日時を書いたメモをなくしまして」

小鳥遊 「あ~、分かります。そういう大事なメモほどなくしがちですよね」

りんだ 「ええ、そうですよね。でも『覚えてるから大丈夫』とたかをくくっていたんです。来週の水曜日だと思っていました。それが…」

小鳥遊 「今日だったってわけですね」

りんだ 「はい……。上司から『今日だったよね?』と確認されてはじめて自分の記憶違いが分かって。新製品の紹介のプレゼンもしっかりしようと思っていたのに、その準備も全然できていなかったんです」

小鳥遊 「上司の方の一言があってよかったですね」

りんだ 「本当にそうです。ただ、何の準備もないままで臨まなければいけなくて、面談中は生きた心地がしませんでした…」

小鳥遊 「いや~、なかなかいいしくじりですね! あ、いや、失礼しました。大変な経験をされたのですね」

りんだ 「そんな私に、何か食べ物を恵んでください…」

小鳥遊 「承知しました。それでは、ちょうど野菜が余っていますので、野菜と鶏肉のごった煮でも作ってさしあげましょう」

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小鳥遊は、少量のゴマ油で鶏肉を炒めたあと、かぼちゃ、にんじん、レンコン、ゴボウ、こんにゃくを小さく切って入れた。

りんだ 「私、かぼちゃ大好きなんです。ありがとうございます」

小鳥遊 「それはよかったです。味付けは、めんつゆで簡単にしますね」

小鳥遊は、炒めた鶏肉と野菜に、水、めんつゆ、料理酒、みりんを入れ、塩をパラパラと振りかける。

りんだ 「う~ん、いい香りですね! おいしそう!」

小鳥遊 「ありがとうございます! 煮込んで火が通ったら、火を止めて味をしみこませますので、もう少々お待ちください。このひと手間が、より料理をおいしくしますので」

りんだ 「はい。ありがとうございます」

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小鳥遊 「はい、できあがりましたよ、りんださん」

りんだ 「わ~い! ありがとうございます! いただきます!」

無心に食べるりんだ。

りんだ 「は〜〜やっぱり、小鳥遊さんの料理はどこか安心します。ところで、今回の私のしくじりと、鶏肉と野菜のごった煮との関係はあるんですか?」

小鳥遊 「あります。ひと通り召し上がって落ち着いたら、その話をしようと思っていました」

りんだ 「お願いします!」

小鳥遊 「それでは、まず『ごった煮』とは何か、りんださん分かりますか?」

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カフェ「しくじり」へようこそ

小鳥遊 /りんだ

発達障害でありながら一般企業に勤める小鳥遊(たかなし)さんが、カフェのマスターに扮して仕事の悩みに答えるストーリー連載。「安心して仕事ができるようになる、安心して会社に行けるようになる」を目指す、世界でいちばん意識低い系のビジネス連載です!

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