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(カラン、コロン〜♪ カラン、コロン〜♪)
無言で店に入ってくる、常連客のりんだ。
小鳥遊 「おや、りんださん。いらっしゃいませ。元気ないですね」
りんだ 「……小鳥遊さん、またしくじりをやってしまいました。ショックで弱っているので、何か体にいいものを…野菜中心の何かを食べさせてください」
小鳥遊 「承知しました。ちなみに、どのようなしくじりを?」
りんだ 「大事なお客様との面談の予定を忘れてしまったんです」
小鳥遊 「おや、それは大変でしたね。その話、じっくり聴かせていただきますね」
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りんだ 「私が担当している中で1、2位を争う大口のお客様なんです。先月にこちらからお願いして、新製品のご紹介の面談の時間をいただいたんです」
小鳥遊 「いい関係をお持ちなんですね」
りんだ 「それが、その面談の日時を書いたメモをなくしまして」
小鳥遊 「あ~、分かります。そういう大事なメモほどなくしがちですよね」
りんだ 「ええ、そうですよね。でも『覚えてるから大丈夫』とたかをくくっていたんです。来週の水曜日だと思っていました。それが…」
小鳥遊 「今日だったってわけですね」
りんだ 「はい……。上司から『今日だったよね?』と確認されてはじめて自分の記憶違いが分かって。新製品の紹介のプレゼンもしっかりしようと思っていたのに、その準備も全然できていなかったんです」
小鳥遊 「上司の方の一言があってよかったですね」
りんだ 「本当にそうです。ただ、何の準備もないままで臨まなければいけなくて、面談中は生きた心地がしませんでした…」
小鳥遊 「いや~、なかなかいいしくじりですね! あ、いや、失礼しました。大変な経験をされたのですね」
りんだ 「そんな私に、何か食べ物を恵んでください…」
小鳥遊 「承知しました。それでは、ちょうど野菜が余っていますので、野菜と鶏肉のごった煮でも作ってさしあげましょう」
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小鳥遊は、少量のゴマ油で鶏肉を炒めたあと、かぼちゃ、にんじん、レンコン、ゴボウ、こんにゃくを小さく切って入れた。
りんだ 「私、かぼちゃ大好きなんです。ありがとうございます」
小鳥遊 「それはよかったです。味付けは、めんつゆで簡単にしますね」
小鳥遊は、炒めた鶏肉と野菜に、水、めんつゆ、料理酒、みりんを入れ、塩をパラパラと振りかける。
りんだ 「う~ん、いい香りですね! おいしそう!」
小鳥遊 「ありがとうございます! 煮込んで火が通ったら、火を止めて味をしみこませますので、もう少々お待ちください。このひと手間が、より料理をおいしくしますので」
りんだ 「はい。ありがとうございます」
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小鳥遊 「はい、できあがりましたよ、りんださん」
りんだ 「わ~い! ありがとうございます! いただきます!」
無心に食べるりんだ。
りんだ 「は〜〜やっぱり、小鳥遊さんの料理はどこか安心します。ところで、今回の私のしくじりと、鶏肉と野菜のごった煮との関係はあるんですか?」
小鳥遊 「あります。ひと通り召し上がって落ち着いたら、その話をしようと思っていました」
りんだ 「お願いします!」
小鳥遊 「それでは、まず『ごった煮』とは何か、りんださん分かりますか?」
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