第318回 ふれあう三角関数:タンジェントと踊ろう(後編)

タンジェントをめぐる証明問題に新たな光が当たる……「ふれあう三角関数」シーズン、何が見つかるかな?

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

ミルカさん:数学が好きな高校生。 のクラスメート。長い黒髪の《饒舌才媛》。

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$\tan$の和と積

僕たちは、こんな問題を考えていた。

問題

鋭角三角形の三個の角をそれぞれ$A,B,C$とすると、 $$ \tan A + \tan B + \tan C = \tan A \tan B \tan C $$ が成り立つことを証明せよ。

は$\tan(\pi - C) = -\tan C$を使って《まっすぐな証明》を終えた(第317回参照)。

ミルカ「こんな《広がる証明》もある。つまり複素平面を使う」

テトラ「この問題に、複素数が出てくる……?」

複素平面を使って考える

ミルカ「さっき、$\tan$の加法定理を複素平面を使って考えた(第317回参照)。それと同じように考える」

テトラ「複素数で《積の偏角は、偏角の和》になる、それをまた使うんですか?」

「僕もそれはちらっと思ったよ。ただ……加法定理では$\tan(\alpha + \beta)$の中に和が出てきたけれど、この問題の式、$$ \tan A + \tan B + \tan C = \tan A \tan B \tan C $$ には角度の和は出てきていないからなあ」

テトラ「$\tan A + \tan B + \tan C$は$\tan(A + B + C)$とは違いますよね……」

「違うね。それに$A + B + C = \pi$なんだから、$$ \tan (A + B + C) = \tan \pi = 0 $$ だよ。関係式というよりも値が出てきてしまう」

テトラ「ああ、タンジェントの値が決まってしまうんですね」

ミルカ「それが、のちのち効いてくる」

テトラ「はい?」

ミルカ「ともかく、三個の複素数$z_1,z_2,z_3$を次のように定めよう」

$$ \begin{align*} z_1 &= 1 + i\tan A \\ z_2 &= 1 + i\tan B \\ z_3 &= 1 + i\tan C \end{align*} $$

「これは加法定理のときと同じだね。二個じゃなくて三個になったけど。偏角がそれぞれ$A,B,C$になっている複素数」

テトラ「そうですね。また積を取るんですか」

ミルカ「そうだ。そして何が出てくるかを観察する」

$$ \begin{align*} z_1z_2z_3 &= (1 + i\tan A)(1 + i\tan B)(1 + i\tan C) \\ &= \bigl((1 - \tan A\tan B) + i(\tan A + \tan B)\bigr)(1 + i\tan C) \\ \end{align*} $$

「ああ、そうか。$(1 + i\tan A)(1 + i\tan B)$はさっき計算したからすぐにわかるんだね(第317回参照)」

テトラ「《いち引くタンタン、タン足すタン》ですね」

$$ (1 + i\tan A)(1 + i\tan B) = (\underbrace{1 - \tan A \tan B}_{\text{いち引くタンタン}}) + i (\underbrace{\tan A + \tan B}_{\text{タン足すタン}}) $$

ミルカ「計算を続ける。ただの展開だ」

$$ \begin{align*} z_1z_2z_3 &= \cdots \\ &= \bigl((1 - \tan A\tan B) + i(\tan A + \tan B)\bigr)(1 + i\tan C) \\ &= (1 - \tan A\tan B) + i(\tan A + \tan B) \\ & \qquad + i\bigl((1 - \tan A\tan B) + i(\tan A + \tan B)\bigr)\tan C \\ &= (1 - \tan A\tan B) + i(\tan A + \tan B) \\ & \qquad + i(1 - \tan A\tan B)\tan C - (\tan A + \tan B)\tan C \\ &= (1 - \tan A\tan B) + i(\tan A + \tan B) \\ & \qquad + i\tan C - i\tan A\tan B\tan C - \tan A\tan C - \tan B\tan C \\ &= 1 - \tan A\tan B + i\tan A + i\tan B \\ & \qquad + i\tan C - i\tan A\tan B\tan C - \tan A\tan C - \tan B\tan C \\ &= (1 - \tan A\tan B - \tan A\tan C - \tan B\tan C) \\ & \qquad + i(\tan A + \tan B + \tan C - \tan A\tan B\tan C) \\ \end{align*} $$

「なるほど! これはおもしろいな!」

テトラ「これが……?」

$$ \begin{align*} z_1z_2z_3 &= (1 - \tan A\tan B - \tan A\tan C - \tan B\tan C) \\ & \qquad + i(\tan A + \tan B + \tan C - \tan A\tan B\tan C) \\ \end{align*} $$

ミルカ「私たちがやったことはこれだ」

  • 三角形の内角に対する$\tan$を考え、
  • それに関わりのある三個の複素数$z_1,z_2,z_3$を定め、
  • 積を計算した。

「ゴール直前だね」

ミルカ「そう。ここから私たちが求める式の証明までは、ほんの一歩だ」

テトラ「あ、あたしにとっても?」

ミルカ「恐らくは」

テトラ「先輩方っ! ここからはヒント無用です。テトラ、考えます……」

問題

鋭角三角形の三個の角をそれぞれ$A,B,C$とすると、 $$ \tan A + \tan B + \tan C = \tan A \tan B \tan C $$ が成り立つことを証明せよ。

いま、わかっていること

$$ \begin{align*} & (1 + i\tan A)(1 + i\tan B)(1 + i\tan C) \\ &\qquad = (1 - \tan A\tan B - \tan A\tan C - \tan B\tan C) \\ & \qquad\qquad + i(\tan A + \tan B + \tan C - \tan A\tan B\tan C) \end{align*} $$

ミルカ「……」

「……」

テトラ「……た、たぶんわかりました」

「どうぞ、どうぞ」

テトラ「$\tan$の加法定理のときと同じに考えます。つまり、$$ z_1z_2z_3 = a + ib $$ という複素数になったとします。$a,b$は実数です」

「うん」

テトラ「そうして、$z_1z_2z_3$の偏角を……たとえば$\theta$としますと、$$ \tan\theta = \frac{b}{a} $$ になります」

$z_1z_2z_3 = a + ib$になったとすると……

$$ \tan\theta = \frac b a $$

「$a = 0$にならなければ、そうだね」

テトラ「え、ええと……たぶん$a \neq 0$だと思うんですが……」

ミルカ「まずはテトラの話を聞こう」

「あ、そうだね。ごめん」

テトラ「いったん$a \neq 0$として話を進めます……」

$\theta$を積の偏角としましたが、実は、 $$ \theta = \pi $$ となることがすぐにわかります。なぜなら、$z_1z_2z_3$の偏角の和だからです。

$z_1,z_2,z_3$の偏角はそれぞれ$A,B,C$です。

複素数では《積の偏角は、偏角の和》ですから、 複素数$z_1z_2z_3$の偏角は、$\theta = A + B + C$となります。

ところで、三角形の内角の和は$\pi$なので、 $$ \theta = \pi $$ といえます。

偏角が$\pi$ということはですね、複素数はこう……ぐるっと回って実軸にペタンと着地します。

いいかえると、この複素数$z_1z_2z_3$の虚部はゼロなんです!

つまり、 $$ z_1z_2z_3 = a + ib $$ と置いたならば$b = 0$ということです。

先ほどミルカさんの計算から、、 $$ \begin{align*} z_1z_2z_3 &= \underbrace{(1 - \tan A\tan B - \tan A\tan C - \tan B\tan C)}_{=a} \\ & \qquad + i\underbrace{(\tan A + \tan B + \tan C - \tan A\tan B\tan C)}_{=b} \\ \end{align*} $$ になっていて、$b = 0$ですから…… $$ \tan A + \tan B + \tan C - \tan A\tan B\tan C = 0 $$ すなわち、 $$ \tan A + \tan B + \tan C = \tan A\tan B\tan C $$ が言えました!

(証明終わり)ですっ!

ミルカ「とてもおもしろい」

「複素平面を利用した《広がる証明》だね!」

テトラ「おもしろいですねえ……ペタンと着地! あっ、それから確かに$a \neq 0$です。なぜなら、もしも$a = 0$だとしたら、$a = b = 0$ということで$z_1z_2z_3 = 0$になってしまいますから」

「そうだね。$z_1 \neq 0, z_2 \neq 0, z_3 \neq 0$だから積は$0$にならない」

証明を振り返る

ミルカ「この証明は、一つのものを《二つの視点》で見ているところがおもしろい」

テトラ「《二つの視点》……といいますと?」

「複素数を《実部と虚部》で見る視点と《絶対値と偏角》で見る視点だよね?」

ミルカ「そう」

「$z_1z_2z_3$を展開するときでは最終的に、$$ z_1z_2z_3 = a + ib $$ のように$a,b$という《実部と虚部》に分けたことになる。成分を計算したんだね」

テトラ「そうですね」

「複素数の偏角を考えるときというのは、$$ z_1z_2z_3 = r(\cos\theta + i\sin\theta) $$ のように、$r,\theta$という《絶対値と偏角》に分けたことになるよね。$r$は絶対値、$\theta$は偏角。極形式だ」

テトラ「ああ、そうですね! そうなりますね! 確かに複素数を《二つの視点》から見ています。……で、でも、どうしてそれで証明ができたのでしょう。あっ、待ってください。これは《結果を一目でとらえられるか》ですね」

「うん、そうだね。《二つの視点》から見たときの鍵はどこにあったんだろう」

テトラ「結局、一つのものを《二つの視点》で見るというのは、この等式が成り立つときです」

$$ a + ib = r(\cos\theta + i\sin\theta) $$

「うんうん。積を計算したときに、$$ b = \tan A + \tan B + \tan C - \tan A\tan B\tan C $$ という僕たちが証明したい式の形が出てきた。僕たちが示したいのは$b = 0$だけど……」

ミルカ「しかし、どうしたら$b = 0$が示せるのか、すぐにはわからない」

テトラ「《三角形の内角の和》という条件を使えば、$\theta = A + B + C$から$b = 0$が示せる! ペタンと着地ですっ!」

ミルカ「それは、$$ \sin\theta = \sin(A + B + C) = \sin\pi = 0 $$ といってるわけだ」

「そうだね。計算すれば《実部と虚部》の視点で見ることができて、《絶対値と偏角》の視点で見ることによってそのうちの虚部の値が求められた。 それが僕たちの示したかったこと!」

※複素平面を使ったこの証明は、栗田哲也『難関大入試数学・発展していく三角関数』(東京出版)を参考にしています。

積分

テトラ「《三角関数》の計算練習をしていたと思ったら、いつのまにか《複素数》のお話になっていました。楽しいですね!」

ミルカ「それなら今度は《積分》の話をしよう」

問題

$$ \int_{0}^{1} \frac{1}{1 + x^2} dx = \text{?} $$

「なるほど、確かに三角関数はここにも出てくるね」

テトラ「えっ、何がですか? そんなに一瞬でわかるものなんですか? あたしには、さっぱり……」

「いやいや、これは有名な問題だから、積分をならうときの例題で出てくるんだよ。だから、一瞬でわからなくても大丈夫。何回か練習していると、自然に覚えちゃう」

テトラ「へえ……」

ミルカ「テトラは定積分はわかっている?」

テトラ「か、簡単なものなら……たとえば、これによく似た積分でこれならわかります」

$$ \int_1^2 \frac{1}{x^2} dx = \text{?} $$

ミルカ「ふむ」

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結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

chibio6 複素平面、こんな風に証明に使えるということを学んだ。あと積分は解けるかどうかはどれだけ微分をしたかにかかっているようだ。 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

ktmkn7 今週は忙しくてやっと今読めた。結城浩さん「 tanから置換積分に話が進む。「注意:F'(g(θ))はF(x)をxで微分した導関数にx=g(θ)を代入して得られる… https://t.co/9ARUuLDG90 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

tkooler_lufar |結城浩 @hyuki |数学ガールの秘密ノート https://t.co/obSKpd2qwV そういえば大学を出てから微積分とはすっかりご無沙汰してるなぁ。たまにはリハビリしないと。 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

puyolufar |結城浩 @hyuki |数学ガールの秘密ノート https://t.co/QwtDKcm9Sh そういえば大学を出てから微積分とはすっかりご無沙汰してるなぁ。たまにはリハビリしないと。 約1ヶ月前 replyretweetfavorite