「俺、ラブホってあまり好きじゃないんだよね。だって、これからセックスしますって最初から決まっているなんて色気無いじゃん」
2年前、あなたはそう言っていたはずなのに、いつの頃からだろうか。私が行きたいラブホテルに、いつもついてくるようになっていた。「俺、ラブホ好きなんだよね。別にあなたとセックスしなくてもラブホテル巡りだけで楽しいと思う」と言いながら。そんなこと言って、ラブホに来て一緒に寝なかったことなんて、一度だってないくせに。
久しぶりの新宿歌舞伎町。私たちは、またこの町に一緒に来てしまってよかったのかしら。客引きの人たちが並ぶ雑多とした道を歩きながら、私は長い間考えていた。あなたが好きなのは、ラブホテルだろうか。私だろうか。それとも、セックスだろうか。分かっている。そんな三択の質問をしても無駄だって。最近の有識者達がよく言うでしょ。「どうしてみんな、二者択一になっちゃうのかなあ。両方ともという可能性を忘れている」って。あなたが好きなのは、きっと、ラブホテルで、私と、寝ることだから。
「安全で安心なホテル」とネオンの文字で書かれた看板が目に入る。一体、ホテルに、安全安心でないところなどあるのだろうか。むしろ歌舞伎町のど真ん中で、安心安全です!なんて主張するのは、逆効果じゃないかしら。その証拠に、私はすでに冒険する気になっている。
「私と、安全で安心な場所に行きましょ」
私は彼の手を引いて、中に入った。
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