新型コロナウイルスのワクチンを接種した救急医の娘が語った本音

新型コロナウイルスのワクチン接種開始に向け、不安の声が聞かれます。アメリカ在住の作家・渡辺由佳里さんは、自らの体験を踏まえて自身の健康に関して謙虚であるべきこと、そしてワクチンを受けようと思うに到る考えをていねいに綴ってくださいました。

健康に関する考え方には個人差がある。子どもの頃は大人から「病気になるのは心がゆるんでいるからだ」とか「乾布摩擦をすれば風邪はひかない」とよく言われた。最近も「毎日冷水シャワーをしているおかげで病気になったことがない」という人に会った。相談もしていないのにこういったアドバイスをする人は、その人にとって有効な健康法がすべての人にとって正しい普遍的なものだと信じているようだ。重病で寝込んでいる人のところに見舞いに行って「信仰心が足りないからだ」と言った人も実際に知っている。

しかし、そういった人でも、これまでの信念を揺るがせるような健康問題が起こると、ころりと意見を変えたりする。私自身がそういう経験をしたし、身近な家族もそうだ。昔の私に「そんなことはない」と言っても、「でも実際に私はそうやっていている」と耳を傾けてもらえなかったかもしれない。だから、自分とは異なる意見を持つ人に対して頭ごなしに「科学的な根拠がない」とか「あなたは間違っている」と言ってもわかってはもらえないと思っている。

今回は、そういった観点から、現在話題になっている新型コロナウイルスのワクチンについて語ろうと思う。


ドミノ倒しのように降りかかった健康問題

幼い頃の私は、いわゆる「虚弱体質」だった。昭和の時代には、よく病気になる子どもはこう呼ばれていたのだ。地方公務員と小学校教師の両親が共働きだっただけでなく同居の祖母も現役の助産師だったので、私たち3姉妹の子守は老いた曾祖母だった。子どもが走ったらついていけないので「転ぶから走るな」「落ちると危ないから高いところに登るな」と動き回るのを禁止されているうちに、走れば転ぶし、はしごを1段登るだけで怖くて震える子になってしまった。過保護だったせいか、生まれつきなのか、風邪を悪化させることが多く、慢性副鼻腔炎で通院し、過敏性大腸症候群で小学校を1ヶ月以上休んだこともある。学校のマラソン大会では1km走ったところで失神し、一躍有名人になった。

10代後半から20代半ばにかけても、毎年風邪を悪化させて気管支炎と肺炎になった。多くの同僚と一緒に牡蠣フライを食べて、私だけが食中毒になったこともある。この頃には「私はきっと長生きできない。いつかちょっとした病気で死ぬだろう」と諦観していた。

そんな虚弱な私だったのだが、子どもの頃から各種のスポーツに親しむのがあたりまえの環境で育ったアメリカ人の夫に出会い、いろいろ一緒にやらざるを得なくなって変わった。27歳で初めて泳げるようになり、毎日走るようにもなった。その結果、私は30歳を過ぎてから信じられないほど健康になった。咳や鼻水を出している子どもが多い小学校のボランティアをやっても風邪をひいて寝込むことはほぼゼロになった。

自分の体験から結果を得ると、人は自信過剰で傲慢になるものである。

私もそうだった。「風邪をひいたな、という初期に1時間以上ジョギングをして身体の熱を上げたら、風邪が悪化することなく治る」「私はダイエットなど絶対にしない。運動さえしていたら、何をどれだけ食べても太らないものである」と豪語していた。その頃の私の考え方には「病気になる人、ダイエットばかりしている人は、エクササイズが足りない」というある種の傲慢さがあったことを否めない。

ところが、「更年期」という化け物に出会い、私は自分の奢りを知った。週に6日、毎日5〜10km走り、そのうえにZumba、ヨガ、テニス、水泳、マウンテンバイクをやっていたのに、1年ほどの間に10kg近く体重が増えてしまったのだ。重篤な病気ではないかと焦って病院を受診し、あれほど優等生だった血糖値までジリジリ上がってきたことを知った。単なる更年期障害だったのだが、代謝が変わった後も同じ量を食べていてはいけないのだとこの時悟った。「ダイエットなどしない」と自慢していた私は炭水化物摂取を極端に減らさざるを得なくなった。

それから数年後に、父の危篤で日本に帰国したときに睡眠不足と過労でインフルエンザになり、それがたぶん引き金になってある自己免疫疾患になった。実は、インフルエンザにかかったときには睡眠を2時間しかとっていなかったのに、早朝ジョギングはしていたのだ。それまでは「薬なんか飲む必要がない健康体」を自慢していた私なのに、死ぬまで毎日薬を飲まなければならなくなってしまった。また、「外で太陽光線を浴びているし、野菜が多い健康な食生活をしているからビタミンDなんか必要ない」と思い込んでいたのだが、血液検査で「深刻なビタミンD不足」という結果が出てビタミン剤も毎日摂ることになった。運動と食事では優等生なのに遺伝のために骨粗鬆症も進んできた。

つまり、どんなに注意深く生きていても、人は病気や怪我をするものだし、理想の体型を維持するのは難しいものなのだ。自分の体験で学んだので、他人に対して勝手な決めつけをするのはやめようと言い聞かせるようになった。新型コロナウイルスに関しても同様で、注意していてもかかってしまうことはあるし、若者だから健康だからと言って重症化しないという保証はないだろう。

自分の体験で私はしっかり反省したつもりだった。新型コロナウイルスのパンデミックで家に閉じこもるようになってからも、その中でストレス対策をしてきたつもりだ。感染症に対して弱くなっている自覚があるから人混みには出かけないし、食料品の買い出しはマスクと使い捨て手袋着用で「60歳以上限定」の時間にさっと済ませる。旅行と外食は趣味だが、それも一切していない。自宅にこもっているストレスはあるが、ネガティブにならず、ポジティブになる心構えや対策を自分で取るようにしている。「エレクトロスウィングダンスを自学自習する」というのもそのひとつだった。

ところが昨年の10月から突然ドミノ倒しのように健康問題が起こり、ここでも「私はストレスをうまくコントロールしている」という自分の奢りを悟った。

最初は持病の副鼻腔炎の悪化だった。それに中耳炎が加わってかなり重症になり、抗生物質を服用することになった。10日間の服用でも改善しなかったために今度はサルファ薬を10日服用することになった。その最中に、どうしても避けられない用事である場所を訪問することになった。トランプ支持者が多い場所なので不安だったのだが、やはりマスク不着用の人が屋内に沢山いて「これは危ない」と思った。そしてその数日後から発熱し、コロナウイルスのテストは陰性だったものの、インフルエンザに罹患していたのがわかった。9月にインフルエンザの予防注射は受けていたのだが、身体がすでに弱っていたのがいけなかったようだ。高熱が続いている最中に全身に発疹が出た。それでもがまんしていたのだが、精神的に耐えられないほどの苦しみでようやく病院の救急室に行ったところ、サルファ剤に対する薬物アレルギーで肝炎を起こしていたことがわかった。病のドミノからようやく回復しかけたところで、前癌状態の疑いで専門医にかかることになり、ジョギング中の森でトレランシューズの紐が絡んで転倒し、肋骨を骨折してしまった。こういったストレスを気づかないうちに我慢していたのか、3日前から全身に蕁麻疹が出て、昨日はナッツを食べているときに奥歯が欠けてしまった。


「スーパースプレッダー」への対抗策としてのワクチン

私はこの体験でかなり学んだつもりなのだが、どう解決してよいのか悩む難問はまだある。それは、パンデミックへの対応について、身近な家族と考え方がおおいに異なることだ。

アメリカではマスクを着用するかどうかが政治的な問題にもなった。政治的に保守の義弟とその家族はパンデミックの最中でもパーティにでかけ、友達の家に泊まり、友人を招いて夕食会をしている。彼ら全員がふだんからスポーツ万能でスリムで病気にならないタイプということもあるだろう。「感染して死ぬのは老人と肥満の者だけ。自分たちはかかっても風邪程度でおさまる」という態度だ。たぶん彼らにとってそれは事実なのだろう。しかし、こういった人たちは健康なままウイルスを多くの人に伝染させる「スーパースプレッダー」になりがちである。彼らから夕食に誘われた夫が「弟に断るなんてできない」と承知したときには、夫婦喧嘩に発展しそうになった。行ってみると招いた友人をハグしたり、「このドリンク美味しいよ」と同じグラスから味見したりしている。ディナー前に裏庭で会ったのだが、互いの間の距離は1メートルもない。甥のガールフレンドが大声で喋ったときに唾がチーズトレーの上にかかったのを見てぞっとした。私たちは夕食前のワインだけで退散したが、彼らの振る舞いに唖然とした夫は、「これからは外で距離を持って会うだけにする」と誓った。

問題は、義弟夫婦が85歳の義母の家をよく訪問することだ。夫は義母に「家に入れちゃだめだ。庭で距離をとって会うだけにしなさい」と忠告するのだが、やはり息子たちが来ると断れないようだ。夫はそれを毎日のように心配していた。

安全を守りたい人の気持ちを尊重してくれない「スーパースプレッダー」に対抗するためには、こちらがワクチンを接種するのが一番有効な対策だ。夫は、義母がようやく先日1回目のワクチンを接種できたことに安堵していた。


ようやく1回目のワクチン接種ができてほっとしている85歳の義母

アメリカでも反ワクチン派の人はいるが、日本のソーシャルメディアで目にするほどではない。「ワクチン接種でコロナにかかった人がいる」とか「妊娠できなくなる」といった噂を信じる人と「根拠がない噂だ」と否定する人たちの間で強いやりとりもある。

私は以前から「ワクチン肯定派」である。ノンフィクションとフィクションで疫病の歴史を多く読んできた私は、多くの人がそれらの恐ろしい病気にならずにすむ現代人の幸運さをしみじみと感じている。ワクチンにもいろいろあるし、副作用も軽いものから重いものまである。けれども、深刻な病気にならずにすむのであれば、喜んで接種したい。わが子に対しても同じ態度だ。子宮頸がんを予防できるHPVワクチンについても、まだアメリカでも認可されていないときに医療文献を読み、それを持って10歳くらいだった娘の主治医に提出して「これが認可されたら受けさせたい」と言ったくらいだ。病院勤務だったときに子宮頸がんの患者さんに接したことがあり、あの苦しみを避けられる簡単な方法があるのならぜひ娘に与えてあげたいと思ったからだ。医師になった娘からは感謝されている。


ワクチンを2度接種した娘に本音を聞いてみた

そんな私だが、「新型コロナウイルスのワクチンが怖い」という一般の人の意見を頭ごなしに否定したいとは思わない。未知のものは、誰だって不安だし、怖いものだ。「怖い」という気持ちはまず受け入れるべきだと思っている。

私の娘は、アメリカのボストンで救急医をしている。この病院は、(少なくとも初期には)マサチューセッツ州で最も多くの新型コロナウイルス患者を受け入れていた。ICUでは他に手を尽くす方法がないまま毎日多くの患者が亡くなり、それがストレスで夜中に歯ぎしりして歯にひびが入ってしまったらしい。

マサチューセッツ州では12月の後半になって、ようやく医療従事者が新型コロナウイルスのワクチン接種できるようになった。私の娘も12月後半と1月前半に2回の接種を終えた。

私がフェーズIIの「高齢者」には含まれないので、接種できるのは健康な若者たちと同じ時期になる。でも、その前に「ワクチン体験者の本音」を聞いておこうと思ってZoomで尋ねた。次は私の質問と娘の回答である。

私:新しいワクチンが誕生するたびに気になるのは副作用だけれど、あなたはどうだった?

娘:最初の接種はまだ身体にとって新しいものだから反応は少ない。2度めの時には身体がだるくなる副作用はあったけれど、特に強いものではなかった。

私:同僚の人たちはどう?

娘:強い副作用があった人もいたけれど、少数。

私:どんな副作用?

娘:強くても深刻なものではなく、発熱と倦怠感。たいていは私のように身体がだるくなる、微熱というもの。

私:私は9月にインフルエンザと帯状疱疹の接種を同時に受けたら、数日微熱が出てかなりしんどかった。これまでインフルエンザの接種で副作用はなかったからたぶん帯状疱疹のほうよね。

娘:子どもの頃に水痘に罹っているでしょ。だから1回目の接種が身体にとってはすでに2回目なわけで、だから反応が強いのはあたりまえよ。

私:帯状疱疹になっている人の苦しみに比べたら軽いもんだから文句は言えないと思った。

娘:そのとおり。COVID-19も同じ。

私:同僚のお医者さんのなかでCOVIDに罹った人いる?

娘:うちの病院は、まだCOVID-19が知られていなかった頃に罹患者が沢山受診していたので、その頃に救急部で働いていた医師の多くがかかった。

私:一度かかった人がまたかかることがあるの?

娘:まだ新しい疾患だから詳しいことはわかっていないけれど、再びかかる可能性があるという前提で対処している。

私:ワクチンでCOVID-19の感染症になるとか、いろいろ怖がっている人がいるけれど。

娘:mRNAワクチンは、ウイルスの毒性を弱めるか無毒化したワクチン(生ワクチンや不活性化ワクチン)とは異なる。ウイルスを身体に入れるのではないから、そこから感染するはずがない。mRNAは遺伝子に組み込まれることもない。とはいえ、ワクチンによる副作用のリスクがゼロになることはないから、リスクと受けることの利を秤にかけることになる。機序をよく知っている私たちが利のほうが大きくて安全だと思って受けているのだから、マミーはあまり怖がる必要はないと思う。

私:1回目を受けた後で感染して発症することはある?

娘:最初のワクチンでは有効性が約50%だからかかることはあると思う。ただし、ワクチンを受けたら、たとえ罹患しても重症化しにくいという報告があるので、最初の接種でほっとしたのは事実。

私:ワクチンを受けた人が感染して、他の人に伝染す可能性は?

娘:この病気に関しては色々不明なことが多いのではっきりしたことは言えないけれど、現時点では可能性はあると考えたほうがいい。だから、マミーとダディがワクチンを受けるまでは、今までどおり安全のために近づくのはやめておく。

娘の話の中から私の心に強く残った言葉を付け加えておく。

(私が勤務している病院のICUでは)COVID-19が悪化していったん人工呼吸器を繋がれたら、そこから回復する人はあまりいない。

なかには20代の健康な男性もいた。糖尿病を罹患している人や高齢者だけではない。彼らの回復が望めなくなり、人工呼吸器を外すときには、私たち医師が家族に話をしなければならない。それは、本当につらい。

それらすべてのつらさを毎日続けていると、こちらも精神的におかしくなってくる。家に戻ってから何もできず、ぼんやり壁をみつめていることもある。

そういう経験をしている私たち医療従事者にとってワクチンの副作用なんて、まったく問題にもならないレベル。マミーも自分の順番が来たら絶対に受けるべき

未知のものは何でも怖い。それはワクチンを開発する研究者であっても、患者を治療する医師であっても同じだろう。科学を学んでいる彼らは、根拠にもとづいた正しいものを怖がり、その恐怖を減らすために対応する。私たち一般人に同じことをするのは難しい。けれども、せめて「初めから結論ありき」で偏った情報だけに頼るのはやめようではないか。HPVのワクチンがまだ認可されていなかったとき、私は「このワクチンは将来の娘の命を救う」という希望と「副作用は娘の健康を傷つけるかもしれない」という恐れを持つ母の心情で集められるだけの情報を集め、それから信頼できるかかりつけの小児科医に相談した。彼女も、娘を持つひとりの母だったから率直に話し合うことができた。

今の私は、成長した娘にあれこれアドバイスしてもらっているので立場が逆転したことになる。私は早く娘と一緒に食事をしたり、ハグしたりしたいので、「ワクチンを接種しなさい」という娘のアドバイスに従うつもりだ。

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この連載について

初回を読む
アメリカはいつも夢見ている

渡辺由佳里

「アメリカンドリーム」という言葉、最近聞かなくなったと感じる人も多いのではないでしょうか。本連載では、アメリカ在住で幅広い分野で活動されている渡辺由佳里さんが、そんなアメリカンドリームが現在どんなかたちで実現しているのか、を始めとした...もっと読む

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fujikokoni 参考になった。タダで読めるうちに読んでほしいわ。 6ヶ月前 replyretweetfavorite

nrk_sln 大変参考になる…_φ(・_・ 6ヶ月前 replyretweetfavorite