晩酌歳時記

第三十七回・林檎

去年買ったシャツに袖を通したら若干腕が上がりにくい……瞬間思ったのは「天高く我肥ゆる秋」。そんな佐藤和歌子がお届けするショートコラムです。林檎は冷やすと甘くなるって知ってました?

 りんごと言えば「買うもの」ではなく「家にあるもの」でした。母の親戚にりんご農家が多かったので、晩秋から冬にかけて、毎年大きなダンボール箱が三回か四回届く。学校から帰ってくると、玄関でぷんとりんごの匂いがしたものです。
 そのありがたみを実感したのは、大学を卒業して一人暮らしを始めてから。ある時ふと買ったりんごが、おいしくなかったんですね、味が薄くてボソボソしてて、何これって感じ。実家で食べていたりんごは、瑞々しくてシャキシャキしてて、甘みも酸味も強さがあった。何より、真っ二つにすると、軸の周りが蜜で真っ黄色だったんです。それを当たり前のように、毎年、毎日、食べていた。すごく良いりんごを送ってくれていたんだなあ、あれを作れるってきっとすごいことだよなあと、初めて思い知りました。
 隣近所におすそ分けして、ジャムを煮ても、まだまだたくさんあって、正直、たまにはりんご以外の果物も送ってくれればいいのに、なんて思っていたけれど。ゲンキンなもので、貴重なものだとわかるとソワソワ。りんごを貰うつもりで実家に寄ったら、「もうないよ」。三つ四つ届いていたはずのダンボール箱は、いつの間にか一つになっていて、今年の分は既に食べ尽くしたとのこと。何年前だったか、ちょっとショックでしたね。

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晩酌歳時記

佐藤和歌子

季語と晩酌をテーマにしたショートコラム。月四回更新(毎週木曜、第五はお休み)。

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IAmemiya 私は具合が悪い時、昔よく祖母が風邪の時に作ってくれた林檎のすりおろしが食べたくなります。“@cakes_PR: 佐藤和歌子 @wwwac_1980 さんの「晩酌歳時記」更新。思い出の林檎について。 ” 5年弱前 replyretweetfavorite