2020年は激動と呼ぶにふさわしかった。
心が四方八方に揺れ動いたのは私だけではないだろう。心が変われば環境や人間関係が変わる。2020年年末、私は〆の挨拶のついでに友人知人にLINEやメールでたずねてみた。
「2020年、心の変化はありましたか?」
「愛人を大事にするようになった」と返してきた男性
皆、時間が余っていたのか、アンケートめいたお題にもていねいにこたえてくれた。
男1「愛人を大事にするようになった」(妻じゃないんかい)
男2「離婚されそうになった」(穏やかではないが、保留ならよし)
女1「男と別れ、男と出会った」(ん? どういうこと? 展開早いな)
女2「我慢していたBLを読みまくり、煩悩を解放した」(いいぞいいぞ)
等々。アラフィフの私が投げかけるので、相手も当然アラフィフかアラカンか、アラフォーになる。ひとりずつ克明にインタビューしてみたいが、今回は「愛人を大事にするようになった」男性に焦点をあててみた。
男1、J氏(仮名)は勤続28年の50代のサラリーマン。役職もつき、家族は妻と社会人になった息子がひとり。現在は妻とふたり暮らしである。妻との仲は良好だという。愛人となる女性と出会ったのは2020年4月、翌5月には愛人関係に発展したらしい。
「Jさん、ちなみに今まで愛人を持ったり、不倫関係を築いた経験はあるんですか」
内容が内容だけに、ついよそよそしい口調になってしまう。年末にLINE上で懺悔してもらうというのもいいものだな(J氏自身にはその意識はないかもしれないが)。
「いいえ。ワンナイトラブや風俗の経験すらないです。というより、もうそういうのは卒業かと思っていたのです。肉体的にも、つまりそっちのほうも下り坂だったので」
卒業とは性生活あるいは性欲からの卒業という意味だろうけど、男の人のそれは女の人よりも肉体に左右される気がする。自らの老いを認めたJ氏がなぜいきなり、いきり立ったのか。
「それがコロナ禍になって、女性と接する機会が激減した途端に、身体が元気になってきたんです」
どういうことだろうか。性欲が復活して下半身も上向きになってきたとか?
「はい。自分の中でケリをつけたつもりが、全世界で性の営みが制限されてから肉体が反撃に出たというか。まだまだ終わりたくないという、火山の噴火みたいな勢いで」
上り坂どころか火山とな。ちゃかしたくなったがJ氏の文面はいたって真面目だ。
「それで、お相手を探したんですね」
「はい。すぐに見つかりました」
わかる、と私はスマホに向かって頷いた。恵まれすぎている環境だと、人間の生命力は発揮されない。困難や危機に直面した時、思わぬ力がみなぎるものだ。