第314回 ふれあう三角関数:タンジェントをなぞって(後編)

ユーリと「僕」が、三角関数タンジェントの性質をていねいに探求していきます。「ふれあう三角関数」シーズン、何が見つかるかな?

結城浩『再発見の発想法』2021年2月刊行!

再発見の発想法

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

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僕の部屋

ユーリは、$y = \tan\theta$のグラフを描いていた。

いまは、ユーリが$\tan$が持っている性質のひとつを証明したところ。

ユーリ「……ね! これで、$$ \tan(\KAKUDO{90} - \alpha) = -\tan(\KAKUDO{90} + \alpha) $$ がいえたよ!」

「そうだね。大正解! これで証明ができたね!(第313回参照)」

こんなふうにわいわい話しながら、僕とユーリはタンジェントをたっぷりと楽しんでいった。

大小クイズ

「$y = \tan\theta$のグラフもできたことだし、ユーリに大小クイズを出そう」

ユーリ「大小クイズ? 何でもどんとこいやー!」

大小クイズ

$\alpha,\beta$は実数とします。

また$\tan\alpha,\,\tan\beta$が定義されているとします。このとき、 $$ \alpha < \beta \quad\text{ならば}\quad \tan\alpha < \tan\beta $$ といえますか。

「さあ、どうかな?」

ユーリ「角度が大きくなれば$\tan$は大きくなるから、いえる!」

「そうかな?」

ユーリ「だって、$y = \tan\theta$のグラフはいつも上がっていくじゃん? こんな感じで」

$y = \tan\theta$のグラフは、いつも上がっていく(?)

「いつも上がっていく」

ユーリ「それに、角度が大きい方が高く見上げるわけだから、$\tan\alpha < \tan\beta$なのは当たり前でしょ」

「ファイナルアンサー?」

ユーリ「ん……ん……待って! 違う、違う! いまのなし! 90度を《またぐ》ときがあるんだね? たとえば、こーゆーの!」

$\alpha = \KAKUDO{60}, \beta = \KAKUDO{120}$の場合

「うん、そうだね」

ユーリ「だから、$\alpha < \beta$のとき……」

  • $\tan\alpha < \tan\beta$になる場合があるし、
  • $\tan\alpha > \tan\beta$になる場合もある。

「はい、正解。だから答えとしては《いえません》になる」

クイズの答え

$\alpha < \beta \quad\text{ならば}\quad \tan\alpha < \tan\beta$とはいえません

反例は、$\alpha = \KAKUDO{60}, \beta = \KAKUDO{120}$です。 このとき、 $$ \alpha < \beta $$ ですが、$\tan\alpha = \SQRT3,\, \tan\beta = -\SQRT3$なので、 $$ \tan\alpha > \tan\beta $$ となるからです。

ユーリ「ふー……あぶなかったぜ。勘違い、勘違い」

「ところで、ユーリは、$$ \tan\alpha < \tan\beta \quad\text{と}\quad\tan\alpha > \tan\beta $$ の二つの場合を書いたけど、$\alpha < \beta$のとき、 $$ \tan\alpha = \tan\beta $$ になることはある?」

ユーリ「角度が違うのに$\tan$が等しいとき……あっ、あるね! もっと広げればいーんだ! たとえば、$\alpha = \KAKUDO{-120},\,\beta = \KAKUDO{60}$とか!」

$\alpha < \beta \,\,\text{で}\,\, \tan\alpha = \tan\beta$になる例

($\alpha = \KAKUDO{-120},\,\beta = \KAKUDO{60}$の場合)

「そうそう、そうだね。$\theta$の定義域を考えればわかる」

ユーリ「むー……あのね、最初、$$ \alpha < \beta \quad\text{ならば}\quad \tan\alpha < \tan\beta \qquad \REMTEXT{(誤り)} $$ だって勘違いしたのはね、 $y = \tan\theta$のグラフがつながってるところで考えたからなんだよー」

「そうだね。その気持ちはすごくわかる。関数tanが連続になっている範囲ではいつも増加している。 たとえば、 $$ \KAKUDO{-90} < \alpha < \beta < \KAKUDO{90} \quad\text{ならば}\quad \tan \alpha < \tan \beta $$ といえる」

ユーリ「-90度って、真下を向いてて、90度は真上を向いてる。だから、そのあいだについては、角度が大きくなるとtanも大きくなる」

「途中で減少せず、ずっと単調に増加するから、《$\KAKUDO{-90} < \theta < \KAKUDO{90}$で関数tanは単調増加する》っていうんだ。

ユーリ「たんちょうぞうか」

「途中で減少しないし、途中で等しくなることもないから、狭義単調増加するということもある」

ユーリ「きょうぎたんちょうぞうか? 途中で等しくならないってどーゆーこと?」

「たとえば、$y = f(\theta)$のグラフがこんなふうになる関数fがあったとすると、これは狭義単調増加とはいわない」

広義単調増加だけど、狭義単調増加ではない関数の例

ユーリ「途中で値が等しくなるところがあるから?」

「そういうこと。この関数fは広義単調増加だけど、狭義単調増加ではない。$\alpha < \beta\,\text{で}\,f(\alpha) = f(\beta)$になる場合があるから」

ユーリ「こうぎたんちょうぞうか……《こーぎ》とか《きょーぎ》とかまぎらわしくてわかんないぞー!」

「そうだね。ちゃんと定義を書こうか」

広義単調増加

関数fが広義単調増加であるとは、 $$ \alpha < \beta \quad\text{ならば}\quad f(\alpha) \LEQ f(\beta) $$ が成り立つことをいいます。

※「単調増加」というと、一般にはこの意味になります。

狭義単調増加

関数gが狭義単調増加であるとは、 $$ \alpha < \beta \quad\text{ならば}\quad g(\alpha) < g(\beta) $$ が成り立つことをいいます。

ユーリ「なーんだ、要するにイコールがつくかどうかの違い?」

「そういうことだね。単調増加という言葉で《減少せずに増加する》ことをいいたいんだけど、そうすると等しくなる場合も含まれてしまう」

  • 《広義》は《広い意味では》ということ。言葉の意味を大らかにとらえる。広義単調増加は、広い意味では増加している。等しいときがあってもかまわない。等しいときがなくてもいい。

ユーリ「あー、だから、イコールが付くの?」

「そういうことだね。それに対して、等しくはならないときの言葉を用意した。それが狭義単調増加。 《狭義》は《狭い意味では》ということ」

  • 《狭義》というのは《狭い意味では》ということ。言葉の意味を厳しくとらえる。狭義単調増加は、狭い意味で増加している。等しいときがあってはいけない。

ユーリ「ふむふむー。理解したぜ!」

「関数はいろんなものの変化を考えるときに使うものだから、増えていくか減っていくか……どんな振る舞いをするかは大事なことだよね」

ユーリ「そりゃそーだ」

「だから、関数の振る舞いを表す言葉があるんだよ」

ユーリ「またまた《先生トーク》炸裂だにゃ。……むむ、ちょっと待って」

そう言ってユーリは熟考モードに入った。

は待つ。

彼女が熟考モードに入っているあいだ、は静かに待つ。

窓からの光を受けて輝く、彼女の栗色の髪をながめながら。

ユーリ「もしも、関数が狭義単調増加だったら、広義単調増加?」

「おお!」

ユーリ「そーじゃない?」

「定義からすると、そうなるね。もしもある関数$f$が狭義単調増加だったら、それは広義単調増加といえるよ。それは論理的に正しい。なぜなら、$$ f(\alpha) < f(\beta) \quad\text{ならば}\quad f(\alpha) \LEQ f(\beta) $$ はいつもいえるから」

ユーリ「うんっ! だったら納得!」

「それを考えてたんだね」

ユーリ「それから、$-\KAKUDO{90} < \theta < \KAKUDO{90}$の範囲で関数tanは単調増加……狭義単調増加だよね?」

「そうだよ」

ユーリ「でも、全体だと?」

「関数tanの定義域全体で考えるということ? その場合は関数tanは単調増加じゃないよ。広義でも狭義でも。単調減少でもない」

ユーリ「あ、そっか。《どっちでもない》もアリなんだね。りょーかい!」

ユーリはすぐに『めんどくさい』って言うけれど、いざ考え始めると粘り強いんだよな。

引っかかることがあるといくらでも食い下がるし、 あれこれ納得いくまで考える。

も、広義単調増加や狭義単調増加という用語を聞いたとき、すぐには飲み込めなかった。

ユーリと同じように、ややこしいなと思った。 そしてさっき説明したのと同じように、 「広義」は「広い意味」で、「狭義」は「狭い意味」と考えた。

そして、本に書いてあった数学の定義と見比べて「いったい何が《広い意味》なんだろう」としばらく考えた。

腑に落ちるまではだいぶ時間が掛かったけれど、いったん納得してからはもう忘れない。

 ・《増加》という言葉に《等しい場合》も含めたのが、広い意味での《増加》だ。

 ・《増加》という言葉に《等しい場合》は含めないのが、狭い意味での《増加》だ。

それさえ納得していれば、たとえ忘れたとしても、言葉から定義を思い出すことはもう難しくない。

無限?

ユーリ「そっかーうんうん」

「どうした? 何か気付いた?」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

asangi_a4ac sinとcosはS^1->R^2だけどtanはP^1->R^1の写像だからそれで周期が違うのかな https://t.co/4KmrQE3Bve 5ヶ月前 replyretweetfavorite

aramisakihime ユーリの「yの範囲が無限になるところ」の疑問には、反比例のグラフを考えてもらうのはどうだろう、と思いました。 5ヶ月前 replyretweetfavorite

HackStudying |数学ガールの秘密ノート|結城浩|cakes(ケイクス) 同じような経験で、「2直線の平行」の話をされたとき、なんで交わってた直線が急に交わらなくなるんだ??ってなった https://t.co/QW1qziWf8M 5ヶ月前 replyretweetfavorite