怒りに燃えた次郎長と金八は巴川のところで六人に追いついた。
金八が、
「野郎っ」
と声を出しかけるのを、
「おっと、静かにしろ。そおっと近づくんだ」
と押しとどめる。
「合点」
と心得た金八と二人《ふたあ》り、身を屈め、足音を忍ばせて、そおっと近づいていき、直ぐ後ろまで来た。近づいてよく見たら六人と思ったのが五人より居ない。あと一名はどこに失せたか。しかしそれを詮索している暇はいまはない。
「おいっ、待て」
と声を掛けた。
いきなり声を掛けられて吃驚仰天、
「なんだ、なんだ」
と立ちすくむところ、
「なんだじゃねぇんだろよ、クズ野郎ども。身に覚えがあるだろう」
と言うなり、棍棒を揮って殴りかかった。
けれども五人もやくざ者、喧嘩には慣れているから、
「誰かと思やァ、次郎長に金八じゃねぇか。文句があるならかかって来やがれ」
と喝叫して、長脇差をズラッと抜いた。五本の長脇差が月の光に照らされて鈍く光った。
サア喧嘩だ、斬り合いだ。
けれども向こうは五人、こっちは二人、しかも向こうは刀を持っているがこっちは持っていない。次第次第に斬り立てられて後ろへ後ろへ下がっていく。深手ではないがあちこち斬られて手がぬめる。
此の儘じゃあべこべにやられちまう、と思うから次郎長、棍棒をグッと握り直すと、これをムッチャクッチャに振り回し、
「だらああああっ」
と絶叫して五人目がけて突っ込んでいく。
棍棒が前に居た奴の頭に、ゴツン、と当たって、
「あたたたた」
と怯むところ、さらに振り回しながら突っ込んでいくと、その後に小富がいたから、
「おのれ、小富。てめぇだけは絶対《ぜってぇ》許さねぇ」
と喝叫し、これ目がけて打ちかかる、小富はこれをさっと右へ躱した、とそれは良かったが、その後に佐平が居て、振り下ろした棍棒が佐平の脳天に炸裂、佐平は、
「いやーん」
と一言言って直立したかと思ったらクルクル回転して地べたへ倒れ込んだ。これを見た小富が左手から、脇差を次郎長の左脇腹に、ズブッ、と刺した。
かに見えたが、次郎長これをすんでのところで左足を後ろに引いて躱した。躱されて小富、前へのめった。のめったところを次郎長、渾身の力を込めて棍棒を横薙ぎに薙いだ。その棍棒が小富の顔面にまともに命中したからたまらない、
ぼこっ、べきっ。