第24回】ザックジャパン停滞の七不思議(後編) セルビア、ベラルーシ戦③

前回の居酒屋サッカー論では、「ザックジャパンが目指す新しいスタイル」と「ザックジャパン停滞の七不思議」(の中の2つ)についてお話しました。今回はその続き、残り5つの不思議を検証していきます。キーワードは、「新しいサッカーのスタイル」と「柿谷の存在」。ここから生まれるさまざまな課題について考えていきます。日本代表のちぐはぐさは解消するのでしょうか? 最後は広まりつつある「ザック解任論」について語ってもらいます。皆さんはどう考えますか? ご意見・質問はこちらまで。

前回は「ザックジャパン停滞の七不思議」のうちの2つ、

理由1…『バリエーションを作り』に潜む魔物
理由2…1トップ柿谷と、前田の亡霊


について述べた。今回はその続きとして、残りの5つについて述べていきたいと思う。
「ザックジャパンが目指す新しいスタイル」と、「柿谷曜一朗の存在」。この二つが生み出したザックジャパンの課題を検証していこう。

停滞の理由3
「柿谷を生かす」という共通認識のズレ

なぜ、柿谷の動き出しが生かされていないのか?

ベラルーシ戦の前には「全員が曜一朗の動き出しをしっかり見るように」という指示がザックから飛んだが、その指示を実践できたとは到底言えないだろう。セルビア戦ではある程度ねらっていたが、特にベラルーシ戦は少なかった。

そこで僕は今野泰幸に、「柿谷の動き出しを見るという共通理解に関して、試合でのパフォーマンスはどう感じていますか?」と聞いた。すると今野は、「いやー…」と言葉を詰まらせた後、少し呼吸をして「正直、バイタルは見れてなかったですね。僕から曜一朗はほぼ見れなかった。動き出しを見れたのは1、2回くらいだったと思います。逆に、僕が思ったタイミングで曜一朗が感じていないときもありましたし」と冷静に振り返った。

その要因について質問を続けると、「僕のポジションからは距離もあるので、他のポジションで、たとえばサイドやトップ下が前を向いたときにパッと(曜一朗の動きに合わせて)出せれば」と答えた。

たしかに左センターバックに置かれた、右利きの今野としては、難しいタスクかもしれない。左右両足でボールを扱える今野だが、やはり左足のほうが飛距離や精度が落ちるのは当然だ。蹴りづらい場所は、視野の中にも入りづらい。また、柿谷へのパスルート上には相手FW、ボランチ、そしてセンターバックも出て来る可能性があるため、そのチャンスはそれほど多くない。

では今野が言うように別のポジションから…と言いたいところだが、もう少し余裕があるはずの左サイドバックの長友佑都はあまりタイミング良く中央を見れていないし、もともとパスがうまいタイプでもない。むしろ、パッサーに活かされるタイプだ。ここ最近はコンディションのせいか、1対1で突破される場面も出てきたし、長友といえどベストコンディションでなければ、より技術に長けた酒井高徳を使って組み立てを改善してもいいと思う。

吉田麻也も出せていない。右利きの右センターバックである分、今野よりはダイレクトに裏のスペースをねらう余裕もありそうだが、グアテマラ戦、ガーナ戦で思い切って出したチャレンジに比べると、ここでは逡巡する様子が目立った。柿谷だけでなく、内田篤人がタイミング良く駆け抜けたタイミングに対しても出せていない。珍しく内田が「なんで出さないんだ!」という苛立ちを露わにした場面もあった。吉田はきれいなグラウンダーのインサイドキックを持っているが、空中に浮かすボールがうまいという印象はない。このポジションから、バックスピンをかけて味方の走り込みに合わせるようなフワフワとした球種のボールを、ポトンと右サイドの裏のスペースに落とすことができれば、面白いのだが…。

そして、本田もあまり出せていない。ベラルーシ戦は中盤に下がってくる場面が多く、柿谷との距離が開いた。柿谷の飛び出しを有効活用するためにも、本田は柿谷を孤立させないように中央に立ち、相手のディフェンスの的を分散させてほしいところ。その意識は本田自身にありそうだが、ベラルーシ戦では別の問題も重なり、本田は中盤に下がってきたふしがある。それについては後述する。

柿谷の動き出しを生かすプレーが、香川や遠藤のところでもそれほど出てこないのは、長友や吉田のような技術的な問題とは異なり、サッカー観の問題もありそうだ。セルビア戦では柿谷がうまく裏を取れず、3度ほど飛び出した場面はきっちりと対応されてしまった。あまり縦に急いでボールを失う回数が増えると、相手にリズムを渡してしまうので、あくまでベースは短いパスでボール保持。香川や遠藤のイメージの中では、柿谷の飛び出しは今までのベースに付け加える状況的なスパイス、ラーメンにかける胡椒くらいにしか考えていないのかもしれない。

と、個々の部分を見ていくと、『中央突破』という共通のキーワードと『柿谷曜一朗』というストライカーを生かすこと。それをアジアカップのままのメンバーで実践していくうえで、個人の能力と組織の目標にギャップが大きいことがうかがい知れる。

個と組織のズレ。これは停滞ポイントの3つ目になる。

停滞の理由4
ホームとアウェーでのパフォーマンスの違い

前述した今野の話を続けると、彼は柿谷の良さを生かしきれず、その動き出しが見えなかった要因について、「ベラルーシもいいプレッシャーをかけて来ていたので、余裕がなかったです」とも答えている。たしかにベラルーシは2トップとサイドハーフが高い位置からプレッシャーをかけ、日本の余裕を奪っていた。さまざまな問題が吹き出す要因は、相手のクオリティーにもある。

この今野のコメントは、ザックと本田が不思議がる『謎』に対する一つの答えにもなる。その謎とは、「日本代表がホームとアウェーで戦うときに大きなパフォーマンスの差がある」というものだ。

ホームとアウェーの違いについては、雰囲気によるメンタルの変化、慣れた気候やピッチコンディションなど、さまざまな要因はあるだろう。それは選手の肌感覚でしかわからないが、もう一つ客観的な視点で言えるのは、『相手のやり方が違う』ということだ。

日本のホームで戦うとき、傾向として相手チームはそれほど高い位置から積極的にプレスに来ることは少ない。逆にベラルーシ戦のほか、消化試合となった6月のイラク戦などを振り返ると、試合条件にもよるが、相手のホームとなると、勢いを活かして比較的高い位置からディフェンスに来ることのほうが多い。

ここがザックジャパン停滞の4つ目のポイントだ。

実はザックジャパン、あまりガンガンとディフェンスラインに高い位置からプレスをかけられることに慣れていない。いわば、ザックジャパンは、ザックジャパンのようなチームと対戦した経験が少なく、それがアウェーでの低パフォーマンスの一つの要因になっていると思うのだ。

かわしきれずにクリアしてボールを捨てたり、あるいは相手FWとボランチの間でパスを受けた長谷部誠がコントロールに失敗してボールを失ったり…。遠藤はこうしたビルドアップが得意なのでミスは少ないが、対照的に長谷部はボールロストが増える。するとカウンターも食らいやすくなる。

僕は以前の居酒屋サッカー論で、6月のアウェーのイラク戦は、高い位置からプレッシングをかけてくるチームをいなすためのトレーニングとしてトライすべきだと言った。しかし、ザックジャパンはそれをせず、あっさりとボールを捨てながら、リスクを避けて1-0の勝利を得た。本来ならこのような試合を実戦トレーニングとして生かすべきだったと思う。

アウェーでプレッシャーを受け、ディフェンスラインからの有効なボールが減っていること。それは攻撃の停滞の要因と言える。また、それによって香川や本田がボールを受けるためにどんどん低い位置に下がってくるなど、連鎖的な反応も起こっている。これが増えると、柿谷は孤立する。

選手の技術には限界があるので、相手の2トップを2人のセンターバックにぶつけられたら、早めに本田をねらって空中からパスを当てるか、あるいは遠藤か長谷部を下げて流れの中で3バックに変形し、サイドからボールを運ぶか。ワンパターンでは読まれるし、これらはもっと整理される必要があるだろう。

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居酒屋サッカー論 ~誰でもわかる深いサッカーの観方~

清水英斗

「ボールだけを見ていても、サッカーの本当の面白さはわからない!」日本代表戦や欧州サッカーなどを題材に居酒屋のサッカー談義を盛り上げる「サッカー観戦術」を解説します。「サッカー観戦力が高まる」の著者、清水英斗さんによる、テレビ中継の解説...もっと読む

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コメント

n02u0_2 これは凄い。みんなでお金を払って読もう! 約5年前 replyretweetfavorite

ikedashoten 【10/25 19:31まで無料 】 約5年前 replyretweetfavorite

kaizokuhide 登録すればあと数日は無料で読めますのでw @gorou_chang 清水ヒデさん(清水秀彦さんじゃないよ)のこのシリーズ、僕はやっぱり好きだなあ。あと7分だけ無料(笑) 約5年前 replyretweetfavorite

pixykotta こういうわかりやすいのか見たかった。"@cakes_news: 清水英斗 @kaizokuhide |居酒屋サッカー論 ~誰でもわかる深いサッカーの観方~|" 約5年前 replyretweetfavorite