赤ペン先生になる
「わたし、めっちゃ怒ってんなあ」
セルフノートにさまざまなことを書き連ねていると、不思議な感覚になる時があります。書いたその瞬間の熱量はすさまじいのですが、いざ書き終えると「どこかの誰か」のノートをのぞいているような、妙に客観的な気分になるのです。
頭の中にあることを書き出すという行為は自分を客観視するのにとても向いていて、時間を少し空けるとより効果的です。まず勢いよく書きなぐったら、少し時間を空けてみます。最初はお風呂にでも入って気分を落ち着かせたり、コーヒーや紅茶をいれて時間を置きましょう。それでも興奮するようだったら、翌日など日を跨(また)いで熟成させます。
そしてもう一度、じっくり自分のノートを見直してみましょう。
吐き出してから一度冷静になってみると、客観的に自分の考えや言葉を受け止めることができるようになります。さて、ノートを眺めてみて過去の自分の言葉に改めて思うことはないでしょうか。
一通り見直したら、今度は赤ペンで自分のメモに返事を書いていきます。色は赤に限らなくてもいいですが、なるべく元の色とはっきり違う鮮やかな色がおすすめです。冷静になったら見えたこと、感情的な瞬間のメモ書きだと抜け落ちていた情報、改めて今頭に思い浮かぶ新しい事柄をどんどん赤文字で追記してみてください
「嫌みを言われてすごい嫌だったけど、そもそもわたしが遅刻したんだった」
例えば返事を書いていくと、不思議と今まで隠れていた理性的な自分が顔を出します。ついさっき自分が書いた言葉のはずなのに、不思議と冷静な気持ちで取り組め「自分にも落ち度があったなあ」とか「こうしたら次は上手くやれそう」といった前向きな対策が思い浮かんだりもします。
ちなみにこれは決して「なんでも自責しろ」という熱苦しい話ではありません。時には冷静になると「やっぱりどう考えてもおかしい」とか「もう知らん」といった強い確信に変わる場合もあっていいのです。最後の形がどうであれ「自分で考えて、ちゃんと受け止める」という過程とゴールが非常に重要なのです。
ひとまず落ち着いて、ちゃんと自分の言葉で「結論」を決める。
そしてそれを自分で受け入れていくという自浄作用が赤ペン先生にはあるのかもしれません。ついカッとなったり猛烈に泣き出したくなったら、いつでもあなたの中にいる赤ペン先生を頼ってみてください。
きっと周りの誰よりも、いい返事をくれるはずです。
事実と想像を分ける
人は、驚くほどに想像力が豊かです。
生き物の中でも、過去や未来を認識して想像することができる生命体は実は人間だけだと言われています。今手元にある情報や、これまでの経験を通して「きっとこうだろう」「多分、こうなるだろう」とさまざまな予想や想像を膨らませ、危機を回避したり技術を研究してここまで文明を発達させてきました。想像力はわたしたち最大の武器であり、人類を生存競争のトップに押し上げた要因の一つでもあるでしょう。
ところが一転、想像力は一歩使い方を間違えれば自分に牙(きば)をむく諸刃(もろは)の剣でもあります。
「上司に怒られた、自分にもうチャンスはもらえないだろう」
「大事な手続きを忘れた、もうおしまいだ」
「恋人のLINEの言葉遣いが冷たかった、きっと嫌われたんだ」
いつかどこかで、こんな嫌な気持ちになったことはないでしょうか。しかしよくよく眺めてみると「上司に怒られた」ということは紛(まぎ)れもない事実ですが、一方で「もうチャンスは来ない」という結論には誰かの発言だったり根拠はどこにもありません。また「大事な手続きを忘れた」ということも事実ですが、別にこれから死神があなたの首を狩りにくるわけでもありませんし、責任を取らされ東京湾に沈められることもなさそうです。LINEの言葉のニュアンスは人それぞれですが、恋人が直接「嫌いだ」と断言してきたわけではないですし、体調が悪くてたまたまそっけない返事しかする余裕がなかったのかもしれません。
人にはどうしても「想事」と「事実」を激しく混同してしまう傾向があります。
そして自己肯定感が弱いと、その方向は「楽観」よりも「最悪の事態」へと向かってしまう傾向があります。さらにそれを増大させるように、インターネット上には自分と似た意見や境遇の人の発信で溢れ返っています。いざ調べてみると「反対と賛成の意見の検索結果数が同じ」なんてことも全く珍しくない現代では、自分の意見を肯定してくれるような「都合のいい情報」ばかりを無意識に集めたくなってしまいます。でも見知らぬ誰かに肯定されたところで、それらがあなたを幸福にするばかりではないことは想像に難くないと思います。
そこで必殺「仕分け人」の登場です。
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