DV被害者の告白が信用されないという問題はなぜ起きてしまうのか

長年DV問題に取り組んでいる信田さよ子さんをお招きし、幡野広志さんと編集部が一緒にDVについて学ぶ連載の3回目です。
被害者の9割以上が女性といわれているこのDVにおいて、被害者の告白が信用されないという問題はなぜ起きてしまうのでしょうか。信田さんは、相手の話を中立の立場で客観的に聞こうとする姿勢は「強者の眼差し」であると指摘します。(写真:幡野広志 聞き手:編集部 大熊)

※本記事にはDVに関する描写があることを予めご了承ください。

信田さよ子(のぶたさよこ) 岐阜県生まれ。原宿カウンセリングセンター所長、臨床心理士。病院勤務等を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを開設。さまざまな依存症や摂食障害、DVや虐待などに悩む人や家族へのカウンセリングを行っている。近著に「後悔しない子育て」(講談社)「性なる家族」(春秋社)等。

聞く人がどの立場に立つかで話の聞こえ方は変わる

— 今回、幡野さんの記事への批判として、DV被害者の告白が信用されないことについての意見をたくさんいただいたんですね。

信田さよ子(以下、信田) それって本当によくあることなんです。

— その意見はとても勉強になり、担当編集者としても深く反省しました。だからこそ、ぜひお聞きしたいのですが、なぜそういう問題が起きてしまうのでしょうか?

信田 やっぱり、聞く人がどの立場に立つかで話の聞こえ方って変わるんですよ。DV被害者の話って、中立の立場で客観的に聞こうと思うと、嘘に聞こえてくるんです。

幡野広志(以下、幡野) それはどうしてですか?

信田 不思議ですよね。実は「中立」や「客観」って、マジョリティの立場に立つことなんですよ。それは強者の眼差しなんです。DVの問題だったら、男性の視点に重なってしまう。だから私は「客観的」という言葉をほとんど使わないようにしています。

幡野 それは聞き手が女性だったとしてもですか?

信田 女性が聞いてもそう。たぶん、「私はそれくらい我慢しているのに」っていう感情があるんだと思います。

— ああ、女性に限らず起こる感情かもしれませんね。

信田 客観的な視点というのは、「相手は確かにひどいかもしれないけど、あなたもどうかと思うよ」って話になるんですよね。でも被害を受けてる人は、100%聞き入れてもらえないと、否定されたように感じてしまう。それは性被害も同様です。

幡野 確かにそうだ。

信田 被害者なのに、その女性に「あなたの態度も誤解を招くようなものだったんじゃない?」と中立ぶったアドバイスをしたら、被害者は自分が悪かったかもって思ってしまいますよね。私は「被害者有責論」と呼んでいるんですけど、DVも性暴力も、被害者こそ責任があるっていう見方が、明治以降ずっと続いているので、スパッと100%信用されるケースのほうが非常にまれなんですよ。

幡野 なるほど……。

信田 私も、毎日いろんな人のカウンセリングをしていると、やっぱりちょっと疲れるじゃないですか。それである時ふと、距離を置いてあえて客観的に話を聞いてみたんです。そしたら途端にその人の話がオーバーに聞こえてきた。やっぱりこの人にも問題があったんじゃないか、ってね。そう思った自分に愕然としたんです。 それで、やっぱり中立客観は危ないな、と思ったんだけど、あとで調べたらやっぱりそれは女性学の世界で言われていることだったんです。

— ぜんぜん気がつかなかった視点で、目から鱗が落ちました。

幡野 いじめも同じですね。いじめられる側にも問題がある、って言う人いますよね。

信田 傍観者は加害者に加担する、というところもいじめと同じですね。

幡野 それを防ぐにはどうすればいいんでしょうか。例えば弁護士って、依頼者の完全な味方として弁護しますよね。弁護士さんの立場と同じように聞くということでしょうか?

信田 そうですそうです。私のカウンセラーとしての特徴があるとしたら、たとえ相手が嘘を言っていたとしても、完全に肩入れするという姿勢ですね。

一番弱い人を救わなきゃいけない

信田 例えばDVが起きている家の家族全員から話を聞くと、言い分がみんな全然違うんですね。

幡野 ああ、なるほど。

信田 それらを全部否定しないで聞いて、なおかつとりあえずは一番弱い人を救わなきゃいけない。ほとんどの場合は子どもが最弱なんですけど、でも子どもが望んでいるのがお母さんの幸せなんです。

幡野 厳しいですね……。

信田 子どもは我が身を捨ててでもお母さんを幸せにしたいと思う。被虐待児こそそう思うときがあるんですね。

幡野 それに虐待する側の母親が依存してしまうんですよね。

信田 そう。それは愛情じゃないですよ。でもね、虐待する母親が気がつくべきは、自身の加害者性じゃなくて、被害者性なんです。

— それは「私は悪くない」という開き直りではなくて、根本的な原因になっている夫のDVに向き合う、という意味ですか?

信田 そういうこと。もちろんひどい母親だっていっぱいいますよ。自分の娘や息子に対してはひどいことをしているのに、「それでもお母さんのこと好きだよ」って言われたら「そりゃそうでしょ」と答える厚顔無恥な人とか、こういう仕事をしているといっぱい出会います。でも彼女たちがなぜそうなるかというと、自分が夫から被害にあっている現実に向き合いたくないからなんですよ。

幡野 自分自身が、ということですか。

信田 そう。夫から虐げられているのに、「女なんてみんなそうよ」「我慢するものなのよ」って思い込もうとする。そういう姿勢が問題を深刻にしているんです。もちろん、自分が被害を受けていることを認めるのって、すごく苦しいことだと思うんです。ある種、負けを認めることだし。だから虐待とDV被害をつなげて支援するためには、そうなってしまった母親のこれまでの不幸をちゃんと認めなければならないときがあると思う。そこは心がけています。

子どもの立場からの批判は母親に集中する

幡野 僕、炎上したときに、お叱りだけじゃなくて応援のメッセージもいただいて。それが虐待サバイバーの方が多かったんです。幡野さんの言いたいこともわかります、私の母もそうでした、と。今回の相談者さんが子どもを虐待していたわけではないですが、これをどう受け止めていいのかと思ったんですよね。

信田 それもわかります。だから私は、親ってそういうもんなんだって思うしかないと思うんですね。アダルトチルドレンの問題や、母娘関係の問題の本を書いていても、どうして母親はここまで鈍感になれるんだろうって思うことも多いんです。

— それでも構造的にはまず父親からのDVや抑圧があるんですよね。

信田 そう。一番良くないのは父親なんだけど、でも子どもの立場からの批判は母親に集中する。なぜか父親には向かないことが多い。

幡野 父親がDV加害者、母親がDV被害者、子どもが親からの虐待被害者、という構図になりがちなんですね。

信田 そんな母親は、自分で決めずに、「お母さん、お父さんと別れたほうがいい?」って子どもに聞くんですよ。子どもはお母さんが別れたがっていることに気づくから「別れたほうがいい」って答える。すると母親は「あんたが言うなら別れるわ」って言うんです。

— 恐ろしい。

信田 別れても幸せになれなかったときに、「あんたがあの時別れたほうがいいって言うから別れたのに!」って子どもに言うんです。

幡野 最悪だ……。

信田 もちろんそういう母親は免罪されるべきではないと思うけれど、ここ最近急増している女性の自殺率を見ても、一向に縮まらない男女間の収入格差を見ても、やっぱり社会の構造的に女性は辛い立場だなと思います。

「妻ならきっとわかってくれる」という期待

— 男性側はDVまでして、なんで結婚生活を維持しようとするんですかね……?

信田 それは私も知りたいくらい。

幡野 僕、一人だけ加害男性とやりとりするなかでそんな話をしたことがあって。「嫌なら別れればいいじゃないですか」って言ったら、「離れたくなくて暴力をふるっちゃうんだよ」って言われて。

信田 そういう人はいます。DV加害者更生プログラムに参加する人って、DV加害者だけど、まだまともですよね。

幡野 ああ、本人は変わろうとしてるってことですもんね。

信田 変わらなきゃいけないって一応思ってる。でも行動分析などをして調べていくと、どうやら彼らには膨大な妻への期待があるんです。「妻ならきっとわかってくれる」っていう。

幡野 なるほど。

信田 でも、妻の側からしたら説明がほしいんですよ。言ってくれないとわからないじゃないですか。なのに彼らは「そんなことまで言葉にしなきゃわからないのか」って怒るんです。

幡野 がん患者と家族の関係と一緒ですね。「わかってくれない」「言ってくれない」ばかりです。僕と妻も一度喧嘩になって、言わなきゃ伝わらないよねってことを確認したんですが。

信田 DV加害者には、妻というものは僕が何も言わなくても100%自分のことをわかってくれるべき、っていうものすごく強固な夫婦観があるんですよ。がんになると同様の関係が生まれてしまうということですか?

幡野 がんになると、身体だけじゃなくて、精神的な苦しみ、孤独感を味わうんです。それは医療者も家族も理解できない。同じがん患者同士でも完全にはわかり合えない。だけど、わかってほしい。それで家族に期待してしまうんでしょうね。これは男女限らず、まず家族に期待して、裏切られた気持ちになってしまう患者さんは結構多いです。

信田 それはDV加害者の心理と全く同じ構図ですね。

— 「何も言わなくてわかってくれる」という期待って、まるで母親に対する態度ですよね。

信田 私は日本のDV加害男性にはそういう側面があると思います。一方、ヨーロッパや、特に北米では、そういう面がないとはいえないけど、彼らのDVを誘発するのは嫉妬が多いようです。

幡野 でも日本でも、子どもが生まれると子どもに嫉妬する男の人っていますよね。

信田 ただね、そういう嫉妬とはやっぱり質が違うと思います。日本のDV加害男性は、なんでも受けいれてほしいっていう、まさに母親の代替物のように妻を扱うけど、嫉妬はほとんどない。つまり、妻のことを女だと思っていないの。

幡野 「守ってもらいたい」という感情なのかなあ。

信田 自我の延長。

幡野 結局それなんですね……。

(続く)


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この連載について

初回を読む
現在のDV問題について、カウンセラーの信田さよ子さんに伺いました

幡野広志

2020年10月19日に公開した幡野広志さんの人生相談連載内容をきっかけに、幡野さんとcakes編集部はDVに関する勉強に取り組んでおります。この連載では、長年DV問題に取り組んでこれられたカウンセラー(臨床心理士・公認心理師)の信田...もっと読む

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yukke64 ー実は「中立」や「客観」って、マジョリティの立場に立つことなんですよ。それは強者の眼差しなんです。DVの問題だったら、男性の視点に重なってしまう。だから私は「客観的」という言葉をほとんど使わないようにしています。 https://t.co/W4aSAGwpSF 4日前 replyretweetfavorite

gosoi_hh 男の自我について深堀する話が読みたい… 6日前 replyretweetfavorite

yamasnowk 以下の記事から。特にマイノリティの他者の話を聴く時には注意が必要。 中立の立場で客観的に聞くことは「マジョリティの立場に立つことなんですよ。それは強者の眼差しなんです。」(信田さよ子) https://t.co/j8YQdoKSFG 7日前 replyretweetfavorite

CraftHAYASHI 「中立性… https://t.co/YH4boR156W 10日前 replyretweetfavorite