「20歳前後の若者と一緒に仕事をすることになるかもしれない。自分はこんなことをするために入社したわけではないと思うときがあるかもしれない。大切なのは柔軟性。そして楽観的であること」
2019年11月、さいたま市内で開かれた、就職氷河期世代を対象とした合同企業説明会。30代から40代の参加者は講師からそう心構えを説かれていた。埼玉県内の企業81社が参加した会場内で、真剣な面持ちで聴いていた参加者の一人が47歳男性のAさんだ。何とか就職の手がかりになればと思い、会場を訪れていた。
1997年に明治大学政治経済学部を卒業。新卒の就職活動時は公務員を狙ったが、当時、採用を絞る民間企業に見切りをつけた大学生が、公務員試験へと大量に流れ込んでいた。高倍率に阻まれ合格できなかったAさんは卒業後、コンビニでアルバイトをしながら就職の機会をうかがう。
30代に入ってから、一念発起して弁護士への道を切り開こうと、法科大学院に入学した。ところが時を同じくして親が病に伏し、介護がのしかかった。しだいに、家にひきこもりがちになり、司法試験に合格できぬまま40代となる。司法書士事務所に勤めながら司法試験の勉強を続ける方策も考えたが、履歴書を送っても返信が来ないことのほうがいつのまにか多くなっていた。
合同企業説明会に参加したのは、法律の知識を生かせる職種があるかもしれないと考えたからだ。しかし、期待は外れた。企業の担当者からは「求めているのは法律の知識ではない」「法律より、SE(システムエンジニア)の経験がある人が欲しい」などと返された。説明会は貴重な機会だったが、結局Aさんは糸口すらつかめず、会場を後にした。
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