仕事も人生も整う、やりたいことを全部やる時間術!

あなたの24時間はどこへ消えるのか――この連載では、仕事もプライベートも関係なく、今しかできないことをやる方法を伝授します。
初回のテーマは、「忙しいわたしたち」の日常について。1月21日発売の『あなたの24時間はどこへ消えるのか』(SBクリエイティブ)からお届けします(毎週月・木曜日更新予定)。


「いつか、時間ができたらやりたいんだよね」

ため息まじりの、でもどこか気怠(けだる)い甘さをはらんだ口調で言葉がこぼれた。それはテーブルの上に置かれたコーヒーの湯気と混ざり合い、わたしの頬をかすめてから音もなく立ち消えた。少し日に焼けた白いテーブルの上には何ともいえない、ふわふわとしたぬるい空気だけが残った。

相手は手元のコーヒーをひと口だけ胃に流し込んでから「最近、忙しいの?」と手短な言葉を投げた。わたしは「うん」とか、「まあ」とかずいぶん言葉を濁(にご)した後に「結局、土曜日も駆り出されちゃってさあ」と苦笑いして、藍(あい)色(いろ)のマグカップに手を伸ばした。

落ち着いた、でもどこか疲れたようなわたしの目元は「誰よりもまっとうに働いているぞ」という言葉にならない叫びにも見えていたに違いない。

家に帰ると、机の隅にある古びたノートがやけに目に付いた。確か2年前ぐらいに代官山のお洒落なお店で意気揚々と購入した、質感のいい小ぶりなノートだった。そのノートはあまり使い古された様子もなく、机の隅で少しだけ埃をかぶっていた。ついさっきまで存在すら目に入ってこなかったそのノートは、何かを訴えかけるかのように妙な存在感を主張しているようにも感じられた。そうだ、確か毎日自分の気持ちを書き留めようとか、気付いたことを言葉にしようとか、なんだかそういう気恥ずかしいことをしようとしていた気がする。

おもむろにノートに手を伸ばし、さりさりと気に入っていた紙の質感を確かめるようにページを開いた。後ろのほうは白い空間がどこまでも続いていて、最初のほうの数ページにまちまちに文字が書き連ねられており、ふと目に止まったページの端(はし)にはこう書かれていた。

「疲れた、熱海の温泉に行きたい」

少し投げやりなふうにも見えるその手書き文字は、やけに生々しく感じた。わたしはとっさに「見なきゃよかった」と、このノートを掘り起こしたことをとても後悔した。数秒の沈黙を抱えた後、わたしは項垂(うなだ)れてううんと言葉にならない唸りを漏らしてから部屋を出た。廊下を抜けてリビングの椅子にどかりと座り込むと、改めてページを開いた。気に入っていた紙の質感も、どこか古ぼけた古本のようなものに思えた。

これを書いたのは、おそらく2年ほど前だ。確か当時はたくさんの仕事を抱えていて、右も左も分からないまま土日返上で仕事に没頭し、毎日が目の回るような日々だった。それなりに充実していたし、とてもやりがいのある案件だったと思うのだけれど、そうなのだけど。

わたしは、まだ熱海に行っていないのだ。

というか、もはやその願望すら覚えてもいなかったことが存外にもショックだった。滅多(めった)に予約が取れない宿でもなければ、遠いとおい海外でもなく。今から電車に乗れば数時間で着いてしまう熱海という場所に「行きたい」というささやかな願望すら、わたしは叶えられていない。手元にあるこのスマホで、電車の予約も宿の手配もすぐにできてしまうというのに。

この2年間、何をしていたのだろう。

ポツリと浮かんできたフレーズは、鉛のような重さをまとっていた。書いた当時こそ忙しかったけれど、その後、何度か仕事内容も変わった。その後どんなに充実した日々だったのだろうと思いたいのは山々なのだけれど、どんなに脳みそを絞っても、転がり出てくるのは細々(こまごま)とした追われるような日々の仕事と、特別美味しくもまずくもないコンビニのごはんと、どんな内容だったかハッキリ思い出せないNetflixでレコメンドされた流行りの映画を見たことぐらいだった。

わたしの長いながい時間は、一体どこに消えたのだろうか。そんな考えたくもないモヤが差し掛かった時、スマホから陽気な電子音が鳴り響いた。画面にはびっしりと並んだ通知と、目がチカチカするような感情豊かな絵文字たちがいやらしくこちらを誘っているように見えた。ああそうだ、仕事でメッセージを返さないといけないんだった。

掘り起こされた不安を押し戻すように、わたしはパソコンを開いた。

豊かで、便利で、忙しいわたしたち

時間ができたら、お金があったら、仕事が落ち着いたら。この大量コピーのごとく擦り切れた言葉を、わたしはこれまで何回、何百回と聞いたことでしょうか。そして記憶にこそ残っていないけれど、それと同じくらいの回数をこの自分の口から漏らしたでしょうか。

現代はとてつもなく豊かで、便利な時代となりました。

家にいるだけで食事が届き、ネットを使えばなんでもワンクリックで自宅に物が配送される。新聞も、本も、テレビニュースも、長編映画すら手元の小さなデバイスひとつに収まり、24時間いつでもどこでも見ることができます。遠くへ引っ越した友人にもいくらでもメッセージが送れるし、なんならビデオ通話で実際に会っているかのような会話も可能になりました。極めつけは仕事すら、自宅でも遠く離れた田舎でもできてしまうようになったこの時代。

物理的な縛りの多かったあらゆる境界を、インターネットという代物が際限なく恐ろしいほどのスピードでズルリずるりと融かしていきました。

さぞかし、人類は暇(ひま)になったんだろう。

言葉だけをなぞれば、こう思うのはごく自然なことではないでしょうか。なんでも低コストで便利なサービスを享受でき、物理的な制約だけでなく場所の縛りすらなくなったのなら、そこに残るのは自由で気ままな悠々自適な暮らしであるようにも思えます。

しかし蓋(ふた)を開けてみれば、現代人は目まぐるしい日常に忙殺されています。

朝起きれば何よりもまずスマホを開き、友人や会社の人からメッセージが届いていないかを確認する。それが終わるとSNSを順番に眺めてリアクションをしたり、昨日の自分の投稿にどれだけの人が反応したかをドキドキしながら確認します。そんなことをしていると時間がなくなって、どうにも朝ごはんを食べる余裕がありません。ギリギリの時刻の電車に乗り込み、またSNSのチェック。仕事のメッセージが来たら返信。会社に着くとバタバタと仕事をこなしながら、会議が長引いたのでお昼ごはんもコンビニ飯でぱぱっと済ませる。その合間合間をぬっては友人や恋人からの連絡に返事をしていき、休み時間はトイレの中に持ち込んだスマホで一息つこうと、目に飛び込んできたネットニュースを順番に眺めていく。

そんなことをしているうちに夜になり、仕事を終えて友人と飲み屋で合流する。出てくる料理やお洒落なお酒を写真に収め、動画に収め、楽しい会話と食事を器用にこなしながら画像加工とアップロード作業に勤しむ。ひとり家に着くとテレビをつけ、Netflixで見切れないほどの番組一覧を眺める。昨日寝落ちしてしまったドラマの続きをかけ流したところで、ちらちらと光るスマホに浮き上がったアプリのお知らせを半分眺めながら、なんだか今日も忙しかったなと思ううちにいつの間にか泥のように眠り、その日が終わる……。

改めて現代人の生活を文字に起こすと、なんだかすごくゲンナリするのはわたしだけでしょうか。夢のインターネットがもたらした新時代がこんなにも忙しく、息苦しい世界になると、一体誰が想像できたでしょうか。

ネットが融かした、オンとオフの境界線

インターネットもスマホもなかった頃、生活という時間の中にはもっとメリハリがあったように思います。朝はきっちり着替えて髪を整え、新聞を読み、家を出て会社に着いたら「外向きの自分」だけを見せればそれでよかった。公私は混ぜないことが美徳で、何より会社から出たらほぼ完全なプライベートが確保されていました。

今思えば、その頃は誰かにチャットで仕事の呼び出しをされることも、同僚の何気ないつぶやきに気持ちが引っかかることも、きらびやかな写真で切り取られた友人の生活を知って自分と比較することもなかった。1日や1週間という単位の中は明確に「オン」と「オフ」という境界が存在し、他人の入る余地はとても狭く、いい意味で「知らなくて済む」という安心が担保されていました。

しかし、あらゆるものがインターネットで常時つながり続けているこの異様な社会において得るものは大きかった一方、知りたくもなかったことを知りすぎるようになりました。加えてプライベートな時間でも必要以上につながりを求められ、どこにいても休まらない、利便性と引き換えに不可逆なツケを払わされているようにも思います。

リモートワークの皮切り

さらに2020年、追い討ちをかけるように新型コロナウィルスが社会を席巻しました。まだまだ収束が見えない中でこの原稿を書いているのですが、本当に世界は一変しました。

あれほど懸念され嫌悪されていたリモートワークが本格的に導入された企業も数多く、フリーランスに限らず自宅で働くことが当たり前になる時代となりました。業界ごとの差分はまだ大きいものの、企業の中には社員のリモート環境整備に補助金を出すような取り組みまで始まった事例も出てきました。いよいよ最後の砦でもあったオンとオフの象徴とも言える「物理空間」が混ざり合い、自宅という究極のプライベート空間がそのまま仕事場になるという新しい働き方、暮らし方を体現する時代となりました。

中にはリモート勤務が始まり「夢にまで見た憧れの在宅ワーク」に少々浮かれた人も多かったのではないでしょうか。通勤時間がなくなって自由時間が大幅に増えた人もいましたし、会議室から会議室への移動がなくなって社内会議の後にそのままクライアントと打ち合わせをする、なんてことも可能となりました。しかしリモート勤務が長期化するにつれ、周囲からは徐々に不安の声が聞こえてくるようになりました。

「なんだか、前より忙しい気がする」

移動時間の圧縮や残業の削減で多くの新たな時間ができたにもかかわらず、意外にもその時間を自分の思い通りに使いこなせなくて悩んだ人が多かったのではないでしょうか。移動がないからと日中に怒涛のミーティングを詰め込んでしまったり、むしろ通勤がないからタイミングを逃して意図しない長時間勤務をしてしまった同僚もいました。またオンとオフの切り替えがなくなったことにより、休憩時間もサボっているような罪悪感に苛まれ自宅なのに心身が休まらなくなってしまったという人もいました。

また自宅にいれば、誘惑も多彩です。部屋にいるだけで最新のゲーム機器や本棚の漫画が目に入ってきます。それに手元のスマホを開けば、無限に見ていられるSNSや動画配信サービスの甘い誘惑で満ち溢れています。加えて、普段は目をつぶっていたはずの家事や雑務にまでつい気を取られてしまうこともあるかもしれません。

自由になるほど、同量の責任を背負うことになる。

どこで聞いたのかはもう忘れてしまったけど、いまだにわたしの脳内に強く刻み込まれているフレーズです。これほどに自由で選択肢の多い時代がほんの数十年で訪れてしまったことによって、ほとんどの現代人は十分な適応ができておらず、あまりに無防備なまま時間の狼狽(ろうばい)売りをしています。

しかし技術がいくら発達しても、あなたの1日は24時間しかありません。

であれば、現代の巧みな誘惑に絡め取られ貴重な時間を浪費してしまう前に、私たちはわたしたち自身の「時間の扱い方」を見直し、正しく使えるようになるべきではないでしょうか。本当に何もかもが自由で、地続きで、ぐちゃぐちゃに混ざりあった全く新しいライフスタイルは、わたしたちに手放しの豊かさをもたらしてくれるわけではないのだから。

今こそ、自分の時間を取り戻そう

本書はオンオフをうまくコントロールできず、ネット化がもたらした現代特有の忙しさにのみ込まれている人へ向けて、日々の中に隠れている時間泥棒を追い出し、限られた時間を使いこなして人生を楽しむ実践的なノウハウをまとめました。

一見とても便利に見えるこの豊かな時代において、自分の時間を守り、上手く使いこなすのはかなり意識的に、そして念入りな対策が必要となりました。ネット社会がもたらした現代特有の「自己肯定感」の欠如と、広告モデルが生み出した熾烈な「消費者の可処分時間の奪い合い」が密接に絡み合い、今日もあなたの貴重な時間が叩き売りされようとしています。さらに仕事は多様化・複雑化を極め、副業解禁も相まってマルチタスクに忙殺されている人も多いのではないでしょうか。

大手IT企業で数々のWebサービスを開発・運用してきたわたし自身がその破壊力を実感し、同時に頭では分かっているのにもかかわらず自分自身がのみ込まれるその恐怖を体感してきました。一時は多忙中毒を極めたわたしがふと立ち止まり、数年をかけて自分の悩みや課題に向き合い、どんな時間の使い方をすればいい人生だと思えるのかを研究し、さまざまな書籍や論文の手法を組み合わせ実験を繰り返してきました。

その内容をネットで公開したところ大きな反響を呼び「自分もこんな状態だった」という共感の声や、「自由な時間が増え、豊かな時間を過ごせるようになった」という感謝のメッセージをたくさんいただくようになりました。今回、改めて出版という新たな形でより多くの人にこのノウハウをお伝えできればと思い、執筆の機会をいただくこととなりました。

忙しくて目の回るあなたの毎日が、実りある豊かな時間に変わることを願って。

*本連載は、スワン著『あなたの24時間はどこへ消えるのか』(SBクリエイティブ)をcakes用に再編集したものです。


(つづく)

仕事も人生も整うコツ!全国書店、amazonなどオンライン書店にて好評発売中!

この連載について

あなたの24時間はどこへ消えるのか

スワン

「いつか時間ができたらやりたいんだよね」 あなたはこれまでの人生で何度、このセリフを口にしたでしょうか。 でも〝いつか〟なんて保障はされてないし、今やりたいことは「二度とやれないこと」になるかもしれない――。 この連載では...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

yokopiyohiyoko なぜか、私の毎日も忙しくて仕方ない。何ひとつできていないのに。 ----- 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

thinktink_jp "家に帰ると、机の隅にある古びたノートがやけに目に付いた。確か2年前ぐらいに代官山のお洒落なお店で意気揚々と購入した、質感のい..." https://t.co/GGvOhiYJ3h https://t.co/hsG9NsZbXp #drip_app 約1ヶ月前 replyretweetfavorite