竹とんぼを飛ばしてほしかった三山ひろし
紅白歌合戦の醍醐味といえば、そんなに広くないステージにみんなが集まった場面で、どういったポジショニングでどのような振る舞いをするのか、事細かに観察してみるところにあった。具体的にいえば、必ず司会者の真横を陣取る和田アキ子と周辺のコミュニケーションや、みんなが笑顔でいるときに無表情で前を向いているX JAPANのPATAを堪能したいのだ。新人・ベテラン問わず「ここはみんなで集まって、とにかく賑やかにお願いします!」という強制性によって生じる細かな差異を楽しんできた。だが今年は、無観客、そして複数のスタジオを使用し、この状況下で大勢がわちゃわちゃする場面は用意されなかった。
演歌歌手には男女いずれかのアイドルをあてがう、という悪習が最小限に抑えられたのはよかったが、そもそも今回は演歌歌手枠が減らされており、去年の出場者からは、丘みどりと島津亜矢が落選している。とりわけ外出に慎重にならざるをえなかった、そして家族が帰省してこない高齢者層を意識して、前後の音楽番組でいくらでも見られるポップスよりも、演歌勢を優先して欲しかった。けん玉ギネス記録に挑戦した三山ひろしが何を歌っていたかを、現時点で思い出せる人はいないだろう。曲名は「北のおんな町」、寒風吹きすさぶ北海道の町に残された女性の気持ちを歌っていた。歌詞世界から考えると、けん玉をしている場合ではない。これまでも繰り返し言及してきたが、三山のもう一つの趣味である竹とんぼ製作のほうが曲の世界観には合うのだし、無観客だった今回こそ、客席に向けて竹とんぼを飛ばしてほしかった。
とにかく「明けない夜はない」「明日は晴れる」
大晦日、新型コロナウイルスの東京の新規感染者が1337人と急増、これまで以上の不安を抱えた状態での紅白歌合戦となった。当然、「今年はホントに大変でしたね」と振り返るのではなく「引き続きマジで大変ですね」というムードで構成されていた。結果的に、あちこちから「明けない夜はない」「明日は晴れるさ」的なメッセージが連呼されていたが、それは、こういう状況にあわせてそういう言葉を用意したのではなく、あらかじめそういうことばかり歌っている人たちがその手の歌を選んで登場した、という感じだった。「誰の心も 雨のち晴レルヤ」と歌ったゆずの大晦日の新聞全面広告紹介欄には、「やまない雨はない 喜びの歌をみんなで歌える日が来ることを信じて!」とあった。
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