誰しも好きな映画や、心に残った小説などあるでしょう。ストーリーによる感動体験はかけがえのないものであり、ときにその人の人生を変えることもあります。では人の心を動かすストーリーは、どのようにして作られるのでしょうか?
ストーリーというと、映画やドラマ、小説、マンガ、舞台、ゲームなど、エンタメ作品で楽しむものというイメージがあると思います。しかし今の時代、YouTubeやnoteなどで多くの人が発信していますが、それもストーリーと言えばストーリーです。ビジネスでプレゼンするとき、リーダーとしてチームを率いるとき、プライベートで誰かに告白するとき、あらゆる場面でストーリーというものは私たちに関わっています。大げさに言えば、我々は自分が主人公となったストーリーを常に作り続けているとも言えるのです。
その意味で、たとえあなたが小説家やシナリオライターでなくとも、人を感動させるストーリーの作り方はきっと役に立つはずです。しかし、実際にはその方法を学んだことがある人は、ほとんどいないと思います。もしかしたら人を感動させるストーリーが学んで作れるようになること自体、多くの人にとってピンと来ないかもしれません。
誰もが簡単に人を感動させられるとは言いません。才能も必要でしょう。ただ、才能勝負になる手前に、努力や学習でなんとかできる領域のほうが圧倒的に多いとしたらどうでしょうか。やり方を学んで努力して、感動的なストーリーが作れるとしたらチャレンジしてみたくなりませんか?
私はこれまでテレビドラマや映画、舞台のプロデューサーとして、どうしたら見る人の心を動かすストーリーを作れるのか、探究してきました。ハリウッドで出版されているシナリオメソッドの本を読み、人の身体や心の仕組みについて勉強し、作品作りに活かしてきました。人の心に届くものを作る以上、人についてよく知る必要があると考えたわけです。
その結果、ストーリーにおける感動の生み出し方を、ある程度論理的に伝えられるようになれたと自負しています。この本ではそれをお伝えしていきたいと思っています。
感動を生み出すストーリーに一番大切なもの
ストーリーとはどのように定義づけられるのか? と聞かれたら、私は「主体が、ある時間を過ごし変化する」と答えるようにしています。主人公が数々の試練を経て成長することで最後に何かを成し遂げるとか、拝金主義の主人公が家族の大切さに気づいて、生き方を変えるなどです。
厳密には主体が変化しないこともあるでしょう。学園ドラマや刑事ドラマのように主体が客体(ゲスト)のトラブルを解決するストーリーの場合です。つまり主体が変化するか、あるいは主体が客体を変化させるかのどちらかというのが、より正確な言い方になります。また変化というのは必ずしも外面的な変化だけではなく内面的な変化の場合もあります。
いずれにしてもストーリーにおいては、変化するというところが重要で、ストーリーの本質は「変化」にあると私は考えています。
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さて、「人の心を動かすストーリーを作る」という目的を持ったときに、まず取り組むべきことは何でしょうか?
ひと口にストーリーと言っても、さまざまな要素からできています。映画や小説で言えば、ストーリーは「キャラクター(設定)」と「構成(行動・セリフ)」から成り立っていると言えるでしょう。実際にはその中にもたくさんの要素があり、その集大成としてストーリーはできあがるわけですが、各論に入る前に、もっとも重要なことを最初に話します。
それは「CQ(セントラル・クエスチョン)」という概念です。この概念をマスターするだけで、人を感動させるストーリーを作ることができる、というと大げさに聞こえるかもしれませんが、それくらい重要な概念であることは間違いありません。
CQは「はたして主人公は迷宮の謎を解けるのか?」とか「はたして二人は無事に結ばれることができるのか?」などのように、ストーリーの骨格を指し示すものです。映画の予告編などがCQを提示するためのものだと言うとわかりやすいかもしれません。
たとえば、人類を絶滅させるべく宇宙人が攻めて来るという映画だったら、その敵が攻めてくるシーン、それに立ち向かう主人公を描き、「はたして主人公はその敵を倒し、地球の平和を守れるでしょうか」というCQが提示され、視聴者はそれを見るかどうかの判断をします。
今の時代、とにかく作品を選んでもらうことが重要ですし、せっかく良いストーリーを作っても最後まで見てもらえなかったら感動も生まれません。広告や予告、出だしのちょっとした情報量で、最後まで見たいと思ってもらえなければいけない時代であり、そのためにCQを早く強く提示することが必要なのです。
ちなみにストーリー本編の序盤でもCQは提示されます。ストーリーが始まると、その世界観や主人公が描写され、やがてCQが提示されます。そうやってこの作品に何を期待すればいいかがわかったとき、CQが魅力的なものであれば最後まで見届けたいと思うし、
魅力的でなければ見るのをやめようと判断し、メディアによってはすぐに切り替えてしまうというわけです。つまり、魅力的なCQで相手の心を惹きつけることが、人を感動させるストーリーを作るための第一歩なのです。
いかにして魅力的なセントラル・クエスチョンを作るか
ではどうやって魅力的なCQを作ればいいのでしょうか。
そのヒントはCQの構造にあります。CQの例として「はたして主人公はその敵を倒し、地球の平和を守れるでしょうか」を挙げましたが、これを一般化すると「はたして主体は目的を達成できるだろうか?」と言うことができます。つまり、CQは「主体+目的」という構造で言い表せられるのです。
察しのいい人はもうお気づきかもしれません。魅力的なCQを作ろうと思ったら、主体と目的を魅力的にすればいいのではないかと。そう、「魅力的な主体(主人公)」と「見届けたいと思う目的」を組み合わせれば、自ずとCQは魅力的になるのです。
さて、少し前にストーリーはシンプルに言えば「キャラクター」と「構成」の組み合わせだと書きましたが、CQは「主体(主人公)」と「目的」で表せられるので、「ストーリー=キャラクター+構成」と「CQ=主体+目的」というのは近い概念だとわかります。それもそのはずで、「はたして主体は目的を達成できるだろうか?」というCQが、最終的にどういう結末に至るか、その道のりがまさに「ストーリー」なのです。つまりCQはストーリーの本質そのものだと言えます。
人の心を動かすためにもCQは必要
私たちはストーリーで人の心を動かしたいと思っているわけですが、そもそも人の心、つまり感情はどのように生まれているのでしょうか? 人は常に予測する生き物ですが、現実が予想通りに進むことはあまりありません。そして、予測に対して期待以上の事態が起こったときには喜びが、反対に期待した結果が得られなかったときには怒りや悲しみといった感情が生まれます。すなわち、実際に起こったことと予測の差から感情は生まれていると考えられます。
また、予測と現実に差があればあるほど感情は大きくなります。そして、その差が一定以上になったとき、感動が起こるのです。映画などで、期待しすぎてあまりおもしろくなかったとか、期待してなかったらすごくおもしろかったなどの経験は誰でもあると思いますが、期待が大きいと感動が起こりにくいのは確かでしょう。
加えて言うと、いかに予想外な結末でも、それがまったく期待していない方向だった場合には感情は高ぶらず、感動も起こりません。望む方向で期待を上回って初めて感動は起こるのです。したがって、予想と現実に差をつくるだけではなく、まずは見る人に期待させること、そして、その期待値をどうコントロールするかがストーリーの本質で、CQはまさにそのスタート地点と言えるのです。
<第1回のまとめ>
・ストーリーの本質は「変化」である
・序盤に魅力的なCQ(「はたして主体は目的を達成できるか」という問い)を提示して、見る人の心を惹きつけることが、人を感動させるストーリーの第一歩
・魅力的なCQは「魅力的な主体」と「見届けたいと思う目的」の組み合わせで作ることができる
イラスト:ウィスット ポンニミット
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目次
第1章 感動を生み出すストーリーに一番大切なもの
第2章 最後まで見届けたくなるストーリーの秘密
第3章 見る人を惹きつけ、満足度を高めるストーリーの構成法
第4章 魅力的なキャラクターの条件
第5章 ストーリーで共感、感情移入、没入が起こるとき
第6章 ストーリーで感動が生まれるとき
第7章 創造的な閃きを支えるものは、自分への理解度
第8章 人の心を動かすストーリーの作り方
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