「円滑なコミュニケーションを取れるようになって、うまく世の中を渡っていきたい」という悩みを打ち明けてきた女性がいました。
周りを見てみれば、上司の指示をうまくかみ砕き、要領よく対応している人ばかり。でも彼女は、すぐ肩に力が入ってしまい、考えれば考えるほど混乱してしまう。うまくコミュニケーションが取れない。 そこで私は、コミュニケーションは枝葉の部分で、本質的な問題ではないとお話ししたんです。
禅には「公案(こうあん)」という修行があります。弟子を覚(さと)りに至らせるために、師匠が質問をし、弟子が答えていくというもの。自分の頭で論理的に考えること、日々体を使って物事を成すこと、その両方が修行には必要なんですね。
何度も言うようですが、頭で考え、心で思ったことを話し、行動に表していく。その積み重ねが生きるということです。考えたこと、思ったことを表すのが言葉や行動であり、そこに矛盾がなければちゃんとした結果が出ます。しかし、思考がぼんやりしていたり、言葉や行動が矛盾したりしていると、何事もうまくいきません。
大切なのは大元である「考えること、思うこと」。これは種まきのようなものです。悪い種をまけば悪い実がなる。桃の木を植えて育てれば桃の実がなり、柿の木を植えて育てれば柿の実がなります。ここは間違いがない原則なんです。
公案で師匠が弟子に出す質問は、謎かけのような、ぱっと聞くとよくわからない問いが多いのです。なぜなら、「この質問の本当の意図はなんだろう?」と弟子が考えることが修行だから。物事の本質を見極める目を養うために、公案はあるんです。 物事の本質を見極めようと考えていくと、必ず突き当たる問いがあります。
それが「なぜ?」ということです 中学の英語で5W1Hというのを習いましたよね? when where who what whyhowですが、特に仕事をしているときは、「納期はいつ? 現場はどこ? 誰と何をどうやればいいの?」ばかりを確認します。
しかし結果を左右するのは、whatでもhowでもwhoでもなく、whyなんです。「なぜ?」という問いなんです。 「コミュニケーションが苦手だ」と悩む人の多くは、言葉や行動という枝葉の部分にばかり気を取られがちで、「なぜ?」という本質を見落としてしまう。 話が下手だ、人づきあいが苦手だ、要領が悪いというのはhowの部分。そこで問題を解決しようとコミュニケーションの取り方だけ学んでも、人間関係はうまくいきませんし、仕事で成果を上げることもできません。
大切なのは、「なぜこの仕事をやるのか?」「なぜ上司はこの指示をしたか?」などと「なぜ?」を問い続け、理解することです。 理由がわかり、自分に何が求められているのかがわかれば、要領の良いコミュニケーションができます。結果に直結する行動もとれるようになるんです。
問いへの答えがある人は、多少のトラブルでも持ちこたえられます。迷ったときに立ち戻れる明確な指針があるからです。 もちろん、自分一人で考えなくていい。わからなかったら上司や尊敬する人に聞いてみなさい。なぜ、それをするのかを。
*本連載は、大愚元勝・著『人生が確実に変わる 大愚和尚の答え』(飛鳥新社)の一部を抜粋したものです。