「大槻さんですよね。今日はギターをお探しですか?」
楽器店で店員ににこやかに話しかけられたときの、あの『す、すいません!』とその場からダッシュで逃げ出したくなるような(補足すれば、それは『すいません』の前に『生まれてどうも』とつけたくなるほどの申し訳ない気分なのだ)を理解することができるのは、長いキャリアを有しながら、まったく楽器を弾くことのできないバンドマンだけであろう。
しかも話しかけてきたのが娘ほども歳の離れた女性店員とあっては。
「今日の狙い目はどのあたりですか? いいの入ってますよぉ」
「え、え、あ、いやぁ、あははは……」
「今見てらっしゃったゴダンなんかはほら、ゲインをここで調整できるのがすごく便利で……」
「ゲ、ゲイン? ゲインってなんですか?」
「……え?」