最終回】天真みちる「ザ・ラストデイ」

「タカラヅカ」を支えているのはトップスターだけじゃない!100年以上の歴史を持ち、未婚女性たちが「清く、正しく、美しく」をモットーに歌い踊る宝塚歌劇団。その美しさでファンを魅了するスターの隣には、モヒカンの悪役や貫禄のあるおじさん役を全力で演じきる名バイプレイヤー・天真みちること「たそ」の姿があった……。元SMAP中居正広に「友達になれそう」と、元花組トップスター明日海りおには「宝塚に新ジャンルを築いた」と言わしめた伝説の元タカラジェンヌによる、誰も知らない爆笑宝塚エッセイ。

どうも。遂に最終話となりました。

2004年4月19日に、宝塚音楽学校に入学し、
2018年10月14日に、宝塚歌劇団を卒業し、
2019年10月14日に、「こう見えてMJ」の連載が始まり、
2020年12月21日に、今お読みいただいている最終話の更新となりました。

宝塚を目指し、なんとか入学し、自らの意思で卒業するまでの約15年間を32話で振り返るというのは、前置き長太郎の私にとっては簡単なことではなかったです。
予定していた話数、文字数を遥かに越えました(笑)。

でも、書いているうちにあれやこれやと様々な記憶が蘇り(ホントどうでもいいことも蘇り)、まるで、かのシューベルトの様に、「イメージがあふれ出て書き留めるのが間に合わない!!汗」と、物凄い勢いで書き連ねることが出来ました。

めちゃめちゃ楽しかったので、またどこかで書ききれなった思いをしたためることが出来ればなあと思います。

それでは最終話、参りましょうか。ゴー♪


天真みちるザ・ラストデイ

これは、天真みちるの2018年10月14日の1日の記録である。

~プロローグ~

06:00
起床。ここ5、6年で一番の早起き。一桁の時間帯に起きるのが何よりも苦手な私だが、この日だけはスッと起きられた。多分、いつも遅刻してくるのに、修学旅行の日だけちゃっかり間に合うやつだと思う。

起きて何よりも先にしたこと、それは「お天気の確認」。

生まれてこの方大事な場面では必ず雨を降らす、「ハイパー雨男役」な私は、ラスト公演期間中、最後の最後に大雨が降るという悪夢を毎日見ていたので、起床と同時にベットから飛び降りカーテンを全開にした。

結果は……国会議事堂の方向は僅かに晴れているのに、東京宝塚劇場の真上は小雨が降っているという、「そこまでして天気:雨にしたいか?!」悪天候だった。
(日頃の……日頃の行いですか?全部私の行いが悪うござんすか?)と、気が滅入りそうだったが、国会議事堂方面から太陽を引っ張って劇場の上に放つジェスチャーを何度も繰り返し、なんとかメンタルを安定させることに成功した。

07:30
入り待ち(楽屋入りをファンの方が待っていて下さり、楽屋に入る前に少しお話しして、楽屋までお見送りする事)へ向かう。

最後の最後に着ていく普段着は、「真っ白な燕尾服」にしよう、と公演中に思いつき、手配した……のだが、注文する際、サイズ選びを思いっきり間違え、かなりブカブカな状態で退団日の2日前に手元に届いた。

自分の愚かさに絶望しながら、休憩時間に衣裳部に行き自分でお直ししていると、周りにいたお衣裳部さんが、「ええ!明後日だよね?退団すんの!」と聞いてこられ、泣きそうになりながら「……ハイ」と答えると、「ここはこうした方が良いよ!」などのアドバイスを下さり、最終的に、「ああもう! 貸して!」と、本番衣裳さながらに完璧にお直ししてくださった……。

ラストデイの入り待ちは、普段よりも長い時間をかけてファンの方とお話しさせていただいた。
お1人お1人からお手紙を受け取り、最後の舞台にかける思いを伝え、ファンの方も、どのように見届けて下さるか、意気込みを教えていただいた。

笑顔の絶えないかけがえのないひと時だった。

08:00
楽屋入り。カジュアル白燕尾(どないやねん)に身を包み、左手に傘、そして、右手にタンバリンを持って入った。

中に入ると、花組生徒の皆さん、そして同期生OGや、別の組の生徒さんが、ご自前のタンバリンを手に大勢で出迎えてくださった。
こんなに賑やかなお出迎えは人生初で、幸せだなあ。早起きしてよかったなあと心底思った。


~ラストステージ~

9:30
化粧開始。「ラストデイは開演前に色々とすることがあるから、早めに化粧し始めた方が良いよ」という先人たちのアドバイスも虚しく、いつもの癖であいさつ廻りギリギリの時間から化粧を始める(因みにいつもだと楽屋入りは開演1時間前、化粧は開演30分前から始めていた)。

ラスト公演の芝居『メサイア』は日本物で、日本物に於いての私の化粧は、「とにかく元の顔を薄く薄くしていく」作業なのであまりすることがなかったのと、髪型に関しても、私の演じる田中は床山鬘でセットする必要もなかったので、20分程で完成した。

お手伝いに来ていた同期OGの煌月爽矢(あきづき・さや)と天咲千華(あまさき・ちはな)が化粧の模様を撮影しようとカメラを手にしたときにはほぼ完成していたので、「もう終わったの?」とビビっていた。

10:00
あいさつ廻り。公演を支えてくださっている全てのスタッフの皆さん、生徒の皆さんにこれまでの日々の感謝と、「ラスト一日も何卒宜しくお願い致します」とご挨拶に廻る。

10か所以上のお部屋に挨拶に行く間も同期がカメラを手に追いかけてきてくれる。
気分は情熱大陸そのものである。

11:00
芝居開始。日本物は洋物よりも着替えに時間がかかるので、早めに衣裳部へ行く。

普段から自分でも衣装の手入れをしているのだが、ラストデイは更にお衣裳部さんが、「最後の日は、より多くのお客さんがたそを見るから」と、徹底的に衣装を綺麗にして下さっていた。

腰位置で帯を締め、自身も身の引き締まる思いで衣裳部を後にし、その後床山に鬘を被りに行く。すると自分の鬘を止めているピンに白いリボンを装飾して下さっていた。束の間のラブリーさに心が和んだ。

12:30
小休憩に入り化粧替え。

私の出番は1幕の終演よりもかなり早い段階で終わるので、出番終わりと同時に化粧替えに入る事が出来た。

天草の民が島原の乱を起こし、命がけで戦っている間、松倉陣営は悠々と、歓談を交えながら化粧替えしていた(島原の民をめっちゃ煽っていくスタイル)。

13:00
ショー開始。中詰めで客席降りがあり、ハイタッチできるのも最後なんだよなあと思い、こうなったら出来る限りハイタッチしていこうと最高記録にチャレンジした(自分比)ところ、もう、絶対に舞台に帰ることが出来ない……と思うほど、決められたタイミングギリギリまで客席に滞在してしまった。

だが、「あきらめたら そこで試合終了ですよ…?」と安西先生の声が聞こえてきたので、「命を……燃やせ!」と、日常(というアニメ)のちゃんみおの様に全速力で銀橋に猛ダッシュした。

命を懸けた甲斐あってなんとか間に合った。

14:00
大休憩に入り再び化粧替え。宝塚大劇場と違い、休憩が1時間ちょっと取れるので、今のうちに片付けられるものは片付けておく。

この間に、大千秋楽(ソワレ公演)のショーにて、最後にやろうと思っているアドリブについて組長さんと入念に打合せさせていただいた。

その後、急遽同期のイマッチ(真瀬はるか)が大千秋楽を見に来れることになったと連絡が来る。
楽屋にも来てもらい、本気サプライズゲストにテンションいとあがりけりバイブスぶち上げで笑っていたらいつの間にか休憩が終わっていた。

15:30
芝居二回目。最後に演じた田中宗甫は、ちなつが演じる松倉勝家という大名の手下で「時代劇に必ず出てくる超イヤな感じにニヤついている腰巾着」という役どころだった。

時代劇は、私にタカラヅカに入る事を進めてくれていたおばあちゃんが、時代劇専門チャンネルを毎日24時間かけ流し状態にしてくれていたおかげでとても馴染み深かったので、 成田三樹夫さんや内田勝正さんをイメージし、それになりきれないスネ夫感を出そうと、すんなりと役を創っていくことが出来た。

前回のハロルド役の経験を活かし、爽快に悪事を働くことが出来た。

一番楽しかったのは、踏み絵を踏ませるシーン。『金色の砂漠』のゴラーズさんの様に優しい眼差しで「踏め」と促し、地獄に突き落としてやった(前回とは比べものにならないくらいマインドが変わった)。

化粧に関しても、汝鳥伶(なとり・れい)さんに教えて頂いた悪い奴の顔色、悠真倫(ゆうま・りん)さんに教えて頂いた悪い奴の眉間のカゲと顎の割り方、夏美(なつみ)ようさんに教えて頂いた悪い奴の口紅と顎の無精ひげ、床山さんが物凄い技術で作り上げたゴッリゴリの揉み上げが付いた鬘(本来ついている揉み上げに更に更に付け足していただいた)という、今まで教えて頂いた技術を総結集して挑んだ。
大好きな殺陣を何度も明日海さんと組ませて頂けたことも忘れられない。

17:00
小休憩化粧替え。ここで、日本物の化粧に関する物や和装の装束などが必要なくなるので、天咲千華と煌月爽矢が「これまだ使う?」と聞きながらテキパキと片付けてくれる。余りの手際の良さに感動しつつ、ショーのアドリブ最終確認などもする。

17:30
ショー二回目。大千秋楽では、退団する生徒は任意の場面でお衣裳にコサージュを付けて良いことになっているので、一緒に退団する新菜(にいな)かほちゃん、桜舞(おうま)しおんちゃんと相談して中詰めとパレードで付けることにした。
同期の蘭乃(らんの)はなが作ってくれたコサージュを、中詰めには帽子に、パレードでは左胸にお衣裳部さんに付けて頂いた。
パレードの衣装はプロローグと同じなので、プロローグ後、パレードで降りてくる前までに付けるという、ハイパー短時間、でも物凄く丁寧なお仕事に心から感謝した。

私がやりたかったアドリブ、それは「RAINY DAY GARDEN」という、雨の街で踊る場面。

演出の野口先生が、最後に「たそと言えば」という見どころを作ってくださった。
しっかりとタンバリンの音を鳴り響かせるため、タンバリンの音を拾うためだけのマイクを腕に装着するという徹底ぶりだった。

宝塚大劇場での千秋楽の日に、普段は片手のみ持っているタンバリンを、両手に持つというアドリブを入れたところ、野口先生が、「東京宝塚劇場では両手にしましょう」と仰った。

東京宝塚劇場の大千秋楽でも同じアドリブで良いか……と胡坐をかいていた私は焦った。
焦った挙句……「じゃあ、東京では持てるだけ持つか」という、一番最初に思いつきそうな案を採用した。 両手、首、足首、そしてにいにゃん(新菜かほ)にも渡し、最後に頭に花を咲かせるという、文字だけでは中々伝わらなさそうなカオスなアドリブになった。
やり切ったな!という思いでいっぱいになった。

終始、舞台上でも、袖中でも、視線が合うと皆がほほ笑みかけてくれる。
客席のお客様も暖かい拍手を送ってくださる。

本当の最後の鐘の音は、拍手の音なんだと気が付いた。

18:30
終演。ここから、退団者は最後のご挨拶をするための準備に入る。

組長の高翔みず希(たかしょう・みずき/愛称:さおたさん)さんがメッセージを読んでいる間、お衣裳部さんが、パレードの衣装から、正装である紋付き袴に手際よく着つけていって下さる。

この間も、同期や上級生、下級生がずっとそばで見守ってくれていた。

19:15
退団セレモニー開始。退団者は私を入れて3人で、私が最上級生だったので、カウントダウン方式で最後に挨拶することになる。
大階段を降りて挨拶するので、舞台裏の階段を上がり、待機した。

……ここで、信じられないことが起きた。

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コメント

Fis_moll https://t.co/78LCLM7Lmm これに寄せて書くかと思ったもの。 9ヶ月前 replyretweetfavorite

Zuca_fan_A あっという間に最終回。寂しいな… 本買います!! 12ヶ月前 replyretweetfavorite

shu_alter 非常に克明でハッピーな、ジェンヌさんラストデイの記録。読ませ… https://t.co/bfSHffdPKb 12ヶ月前 replyretweetfavorite

rickey27679862 たそちゃん連載お疲れさまでした! このへんの思考まったく一緒でうれしい😂 https://t.co/SgExDqf64b https://t.co/MBtTUIf8q6 12ヶ月前 replyretweetfavorite