最終回】丘の湯とぺペロンチーノ (後編)

ゴンドラに乗り、ようやく着いた丘の湯。今回の取材は二日間のツアーの直後ということで、「打ち上げ朝湯酒」ということらしい。食事には、安易な冒険はやめて、確実に美味しいものを食べに行くという。最高の贅沢を求めて、朝からふらっと朝湯酒。「孤独のグルメ」でお馴染みの久住昌之氏がおくる、「風呂」×「グルメ」の痛快エッセイ。ついに最終回です!

 丘の湯は、入館料は六〇〇円だった。安い。タオル一〇〇円。
 入って、更衣室に行くと十時二十分なのにもうたくさんの人がいた。裸になって浴場に行くと、えっと思うほど混んでいて、ボクは目を丸くしてしまった。平日の午前中から、こんな山の上の風呂に。マナティにつままれた気持ち。
 なんで? 安いから? というより、みんなどうやって来たんだろう? 車? バス? どこから? 近隣? 月曜日ですよ。
 とても定年後に見えない若い方も多いんですが、皆さん仕事は? 水商売とか? 自由業? もしかして漫画家さんとか? 疑問がどんどんわく。
 いろんな風呂がある。ジェットバス、シェイプアップバス、白湯あつ風呂、ぬる湯。まあ、この頃このパターンもわかってきた。目新しいものもない。
 とにかくからだを洗おう。洗い場のカランの七割ぐらいは埋まってるが、なんとか鏡の前に座れた。備え付けのボディーシャンプーをタオルにつけて、胸を洗い腕を洗い、足を洗う。タオルをタスキがけにするようにして、背中を洗う。この背中の洗い方って、外国の人もやってるかな? やらないような気がする。股間も洗って、立ち上がってお尻も洗って、足の指の間も洗う。アタマも洗う。顔も洗う。シャワーで流すと、自分のために、ものすごくいいことをしたような気になる。部屋を片づけて掃除機をかけたようだ。しかも午前中から。エライぞ、自分。今日はきっといいことがある。

 いつもより入念に洗ったのは、昨日たくさん汗をかいたのに、風呂に入らないで寝たから。
 昨日は水戸のカフェで、ボクのバンド・スクリーントーンズのライヴをやってきたのだ。約九十分のライヴ、やっぱり最後は大汗かいた。軽く打ち上げして、常磐線で帰京、吉祥寺の仕事場に戻ったのは午前零時だった。荷物を置いて身軽になって、やれやれと近所の居酒屋で生ビールを一杯飲んで、帰ってパジャマに着替えたら、どっと疲れが出て歯も磨かないで寝てしまった。
 一昨日は朝八時新宿発のバスで福島に行き、午後、福島市内のライヴハウスで演奏。車で移動して飯坂温泉に泊まり、昨日電車を乗り継ぎ、水戸に行った。二日間でのべ移動時間十時間以上。ボクはギターを二本背負って、機材と着替えを持っていたので、演奏より移動に疲れた。その二日間ツアーの翌朝が今日というわけだ。
 今日は「ツアー翌日お疲れ打ち上げ朝湯」なのである。

 まず軽く内湯で、ぬる湯につかる。あー、気持ちいい。そんなにぬるくない。朝湯はやっぱり気持ちいい。足が疲れているなー。じーんとする。肩も凝っている。これは凝っているというより筋肉疲労か。
 でもまだ本当の旅疲れは、からだの奥から出て来ていないような気もする。加齢のせいで、キツい疲れは翌々日に出るようになった。明日がコワい。
 実は昨日も飯坂温泉で朝湯にはつかってきたんだ。露天風呂だった。あれも気持ちよかったなー。透明の温泉で、ちょっと熱めだけど、柔らかくて気持ちよくて、目が覚めた。前夜の酒が抜けた。出てすぐ支度して福島に向かい、朝ご飯は駅構内の立ち食いそばだった。かき揚げ天そば。おいしかった。でも今日は風呂上がりに何食べようか。

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ふらっと朝湯酒

久住昌之

三度TVドラマとなることが決定した「孤独のグルメ」の原作者久住昌之が、新たに提案するのが“ふらっと朝湯酒”。その名の通り、朝からお風呂入って一杯飲るという試みを、やってみようというエッセイである。朝から飲むからって、♪朝寝朝酒朝湯が大...もっと読む

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