赤ちゃんを見ていると、「生きるのが上手だなぁ」と思います。
ご飯が食べたかったら「お腹がすいた!」と泣き、食べさせてもらえたら、にっこりします。眠たかったら「眠たいよう」とぐずって伝え、ひとしきり泣いたら、そこがどこであろうと寝てしまいます。 感じたままに表現し、感じたままに行動しているんです。
「生(しょう)を明(あき)らめ死を明らむるは、仏家一大事(ぶっけいちだいじ)の因縁(いんねん)なり」という道元禅師の言葉があります。「生きるとは何か、死ぬとは何かを明らかにするのが、修行者にとって一番大切なことだ」という意味です。
生きるとは、心で思ったことを言葉にし、行動に表すことの繰り返し。 「当たり前だ」と思うかもしれませんが、大人になるほど、これがなかなかできないのです。 あなたは心で思ったことをそのまま言葉にして、話しているでしょうか? その言葉のとおりに行動しているでしょうか? 赤ちゃんのような素直さで、自分を表現しているでしょうか?
たぶん、違いますよね。 赤ちゃんが子どもになり、少年少女になり、大人になる。そうやってだんだん年を重ねるに従って、「自分はこう思っているけれど、ストレートに言ったら顰蹙(ひんしゅく)を買うかもしれない」と本音を口にするのをためらうようになります。
たとえば恋をしても、「この人のことは好きだけど、そのまま好きな気持ちを表現したら、ふられたときに傷ついてしまうかもしれない」と思って素直になれない。 あるいは仕事で困ったことがあったとき、「わからない、助けてほしいと言いたいけれど、能力がないと思われたら恥ずかしい」と、飲み込んでしまう。 思ったことを言わず、行動にも移さない。
心、言葉、行動という「生きることの根本的な営み」の矛盾がふくらむと、生きることが苦しくなってしまいます。 心だけではなく、体も病んでしまいかねません。
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