絵本の読み聞かせをするうちに読書好きになった子どもたち
「たまこラブストーリー」の舞台になった鴨川デルタの飛び石
子どもたちが小さな頃、といってもつい1年前までだが、寝る前に布団のなかで絵本の読み聞かせをしていた。
自分が子どもだった頃に母親が読み聞かせをしてくれたことが記憶に残っていて、自分の子どもにもしてあげたいと思ったのだ。
寝る前のぼんやりとした頭のなかで、空想の世界が広がっていく快楽を、今もよく覚えている。
一方的に読み聞かせるのではなく、子どもたちと一緒に絵の細部を楽しんだり、物語にツッコミを入れたりしながら読んでいると、「絵本で遊んだ!」という感覚になる(読み聞かせのボランティアをしたことのある人から聞いた話では、抑揚をつけたり感情を乗せたりすると却って没入の妨げになるから、淡々と読むほうがいいらしいが)。
6歳と8歳になった今では、子どもたちはすっかり読書が好きになり、暇さえあれば絵本やマンガを読んでいる。
長女は小学校に上がってから、図鑑や文字だけの本を図書室で借りて読む楽しさを知ったらしい。
気に入った本は内容を覚えて、ストーリーを要約したり、事あるごとに豆知識として披露してくれたりする。
「本を読むと、行ったことがないところに行けたり、知らないことを知れたりするのが楽しい。書いてないことを想像するのも面白い」と長女はよく話している。
読書の面白さを知った子どもたちが自主的に本を読むようになった頃から、絵本の読み聞かせはしなくなった。
結局のところ、読書はひとりでするものだ。
自分と本との一対一の対話を楽しむのが読書の醍醐味で、それは本質的には誰かと共有できるものではない。
「たまこラブストーリー」を親子で繰り返し観た
読み聞かせの代わりに、子どもたちと一緒にアニメを観るようになった。
最初はプリキュアやジブリアニメ、スポンジボブなどを観ていたが、やがて動画配信サービスで視聴できる作品を、毎日1、2話ずつ観るのが日課になった。
この連載で触れた「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン」や「鬼滅の刃」も、そんなふうに子どもたちと一緒に観た。
最近観た作品のなかでは、映画「たまこラブストーリー」が面白かった。
テレビシリーズ「たまこまーけっと」の劇場版で、テレビシリーズを観ていればより楽しめるが、観ていなくても充分に観応えのある作品になっている。
制作は京都アニメーションで、脚本は吉田玲子、監督は山田尚子。
「けいおん!」や「聲の形」、「リズと青い鳥」を手がけた方たちだ。
キャラクターデザイン・総作画監督の堀口悠紀子は、「けいおん!」のスタッフでもある。
「たまこラブストーリー」のストーリーを要約すると、「高校3年生の少女が、幼なじみの少年から告白されて、何日か悩んでから返事をする」というもの。
ひと言で要約できるくらいシンプルだ。
だがこのシンプルなストーリーが、90分足らずの映画のなかで実に丁寧に描かれていく。
子どもたちも私もこの作品のことがとても好きになり、すでに5、6回は観ている。
通して観ることもあるし、好きなシーンだけを観ることもある。
観ているあいだはずっと心地よく、もう忘れていたり、あることすら気づかなかった感情に気づかされたりもする。
それはおそらく、「たまこラブストーリー」が主人公の成長を描いているからだろう。
もちろん、主人公の成長を描いた作品は数多くあるし、そもそも物語とは成長を描くものだといえる。
だが「たまこラブストーリー」の特異な点は、その成長を出来事としてではなく、状態として提示しているところにある。
人生において、人はまさに成長しつつあるさなかに、「あ、いま成長した」と認識することはできない。
振り返ってみて、さらに過去の自分と比較してやっと「あのときにはできなかったことができるようになっている」とわかるのが成長だ。
つまり、成長とは過去完了形でしか認識することができない。
だが「たまこラブストーリー」は、成長を、完了した出来事としてではなく、いままさに起こりつつある状態として描いているのだ。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。