めばるの煮つけ。店頭で買うことも、定食にすることもできる
富岡八幡宮の門前にある。店の前でおかみさんの高倉良江さんがフライパンを3つ並べ、煮魚を売っている。後ろのショーケースには、大皿からはみ出しそうなホッケや脂ののったサバの塩焼き、照りツヤのいい味噌煮が並ぶ。それらは定食として食べられるし、今晩のおかずにと買って帰る人も多い。
富岡八幡宮の門前。富岡水産が鮮魚店名、富水が食事処の店名
通りがかりのご近所さんが「よぉ」と良江さんに声をかけたり、「これ食べて」と何やら差し入れを渡したり。元気で朗らかな彼女と、ひとしきり立ち話をして、帰っていく。
かつて、生魚も煮付けも売るこういう魚屋はどの商店街にもあったものだ。懐かしい風景がこの街では現役で愛され続けていることに、小さく救われた。
夫妻とも築地市場で働いていたので選魚の目が高い
人気の定食屋、富水(とみすい)は約80年前、富岡水産という魚屋から始まった。夫の宗治さんは3代目である。ふたりは築地市場で働いているときに知り合い、結婚した。彼の発案で、魚屋の一角を食事処にしたのが50余年前。安くて、新鮮な魚介を使った定食はどれもボリュームたっぷりで、学生から家族連れまで客が途絶えない。
牡蠣フライ定食、1050円。注文した客に「あ、いいの選んだね。今が最高だよ」(良江さん)
じつは私はここで、20年ぶりに牡蠣フライを食べた。一度食あたりをしてひどい目に遭ったのと、どうにもあの生臭さが苦手で敬遠していたのだが、夫があまりに旨そうに食べるので「ひとつちょうだい」と、自然に箸がのびたのだ。 粒の大きい牡蠣フライが5つも入って1050円。おそるおそるフライの山に歯を立てる。
サクッ。じゅわっ。あれ? あの独特の臭みとクセがない。ジューシーでまろやかな味わい。後味がさっぱりしている。もしかしたら私が食べてきた数少ない牡蠣は、冷凍ものだったのかも。それで磯臭さが前に出すぎていたのでは。魚屋の牡蠣フライの実力に脱帽。富水の牡蠣フライなら食べられると、脳内メモ帳に上書きした。
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