元彼に借りっぱなしのものをどうするか問題

小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、女性の性や恋愛について考えるこの連載。今回のテーマは、恋人と別れたあと、貸していたものや借りていたものをどうするかについてです。森さんは元彼に貸したっきり返ってこないものを思い出すことがあるそうで......。

「キャッシュカードの暗証番号が、元彼の誕生日なのよ」

いつだったか友人がため息まじりに言った。へぇ~、とぼんやり聞いていたのだが、

「お金を引き出すたびに元彼を思い出すのよね。別に未練なんかないから、どうでもいいっちゃどうでもいいんだけど。もし私がふいに死んだりしたら、暗証番号もバレるわけでしょう。その時、元彼にいつまでも私が忘れていなかった、って思われるのが嫌なんだよね」

なるほど、何かの拍子に彼女の暗証番号が元彼に伝わり、「あの女の最期の男(ちょっと意味が違うが)は俺だった」と優越感を持たれても嫌だし、「あの女、俺への思いを断ち切れず成仏できないんじゃないか」と恐怖感を覚えられるのも嫌だ。

では暗証番号を変えてみては?と提案したら、

「わざわざ変えるのも、元彼を気にしているみたいでモヤっとするのよ。それに、暗証番号を変えるのって案外面倒で」

そうか、変えたら変えたで、気にしすぎているように思うわけだ。

ペットに彼氏の名前をつけた友人は……

好きな人の名前を身体に刻む、ペットの名前につける、などもわりとありがちである。この2点はけっこう大ごとだから、タトゥーだったら必死に消そうと努めるし、ペットの名前は即改名するだろう。そういえば昔、ペットに遠距離恋愛中の彼の名前をつけていた友人がいた。ペットというか、縁日か何かで釣り上げた金魚である。またそんなか弱そうな命に己の恋愛を重ねるとは……、と私は内心不安でたまらなかったが黙していた。

案の定(?)、金魚の変化はすぐにおとずれる。お腹が膨らんでいったのだ。友人は遠恋中の彼が太ったのではないかと危惧した。やがてお腹の膨らみが明らかに異常だとわかると、必死に看病した。金魚鉢で飼っていて酸素ポンプがなかったため、日がな一日ストローで酸素を送り込む。身も心も金魚に捧げた(?)のも虚しく、金魚は亡くなった。それに伴い、遠恋中の彼とも破局した。

いや、まったくもって金魚に罪はないのだが、思い込みをゆだねすぎてそれが叶わないと、自分の心もそういう風に動いてしまうのかもしれない。ゆえに、ペットに彼や彼女の名前をつけないほうがいいと思う。仮に都度名前を変えるにしても、ペットが混乱してしまう。

話が逸れたが、暗証番号やパスワードを誰かの誕生日にしている人は多いのではないか。私自身は元彼や旦那さんの誕生日を設定した経験はない。そのせいか、友人のモヤモヤは新鮮に映った。

借りたもの、貸したものはどうする?

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アラフィフ作家の迷走性活

森美樹

小説家の森美樹さんは、取材や趣味の場で、性のプロフェッショナルや性への探究心が強い方からさまざまな話を聞くのだそう。森さん自身も20代の頃から性的な縁に事欠かない人生でした。51歳の今、自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する...もっと読む

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